第11話 魔闘士の適性試験

 その後、ここでは目立つからということで魔王軍はファルナス支部の支部長室に通されていた。

 そこでアラタたちはリクルートと別れてからのことを話していた。


「そうだったんですか。バルザスさんが……それはご愁傷様でした」


「ありがとうございます。生前、バルザスもリクルートさんには改めてお礼をしたいと言っていたので、こうして再会できて嬉しく思います。エトワールではリクルートさんのおかげで、俺たちは十分な準備をしてシェスタ城塞都市での戦いに臨めましたから。もし、それが無ければ俺たちは、あそこで全滅していたと思います」


「そんな……いえ、そう思っていただけたのならギルド協会の職員として一番の褒め言葉です。そう言えば、皆さんは今回傭兵ギルドとして登録にいらっしゃったと聞きましたが?」


「ええ、今後の戦いに向けての情報取集と活動資金を得るのに、ギルドとして活動するのが最善だという結論に至りまして」


「そうでしたか。分かりました。こうして再会できたのも何かの縁ですし、全力で皆さんをバックアップさせていただきます」


「本当ですか!? ありがとうございます、リクルートさん」


 ファルナス支部長となったリクルートの言葉に魔王軍全員に安堵の表情が見られていた。

 そして、魔王軍の傭兵ギルド登録手続きは彼が直々に行ってくれるということになった。


「ギルド名は皆さんの希望通りに『魔王軍』で受け付けました。そうなると、残っているのはギルドメンバーの登録です。以前行ったように魔力測定器で魔闘士ランクを確認登録させていただきます」


「あの、そこなんですけど俺は魔力の性質上、測定器は壊れてしまうので魔力測定できないんです。そういう場合、どうすればいいんですか?」


「確か、〝全てを破壊する魔術〟でしたよね。そうですね、そういう場合は実際に魔力を使用する適性試験を行っていただきます。それで問題ないと判断されれば魔闘士としての登録が完了されます」


 その後トリーシャとロックはアラタに同行し、その他のメンバーはリクルートの口利きで紹介された建築ギルド『オーペホウセ』と一緒に住居を探すということになった。

 アラタはファルナス支部の隣の建物に移動し、そこで適正試験を行うことになった。

 ちなみにアラタとフラン以外の魔王軍メンバーの魔闘士ランクは皆SSランクであり、これは一流の傭兵ギルドでもあり得ないような高レベルの布陣であると説明がされた。

 

 適性試験会場は巨大な体育館さながらで、端の方には大きな壁のようなものがあり、そこに懸命に魔術を撃ち込んでいる者たちがいる。

 また、会場の中央には大きな舞台が設置されており、プロレスやボクシングのリングを彷彿とさせる。


「ここが適正試験会場か。結構広いんですね」


「ええ、ここでは実際に魔術を使って威力を測定したり、当協会と契約している魔闘士と戦って実力を確かめたりと色々な方法で魔闘士としての素質を確認しているんです」


「……もしも、素質がないと判断された時はどうなるんですか?」


「その場合は残念ですが傭兵ギルドなど戦闘系ギルドのメンバーにはなれません。商業ギルドなど非戦闘系のギルドであれば話は別ですが、ここで適性試験をされる方は皆戦闘系ギルドへの配属を強く希望されている方ばかりですので、その道を選ばれる方はほとんどいませんね」


「なるほど……分かりました! とにかくここで実力を示せれば問題なしってことですね」


「はい、そうです。魔王さんなら大丈夫ですよ」


 まず最初にアラタが通されたのは、会場の端にある巨大な壁の前であった。ここからは試験会場の試験官が引き継いで説明をしてくれる。

 リクルートはトリーシャやロックと一緒に、見守りならぬ観戦をしていた。


「いやー、楽しみですね。魔力を使えるようになった魔王さんの実力がどのようなものなのか。魔王ファンの一人としてドキドキですよ!」


「そうだったんですか? 依然はそんな素振りありませんでしたけど?」


「そりゃそうですよ、トリーシャさん。公私混同はよくないですから。でも、今なら他の職員も少ないですし、ちょっとだけならいいかなと」


「俺たちもこの一年でアラタがどれだけ成長したのか興味あったし、どういう結果になるのか楽しみだ。始まるみたいだぞ」


 アラタは試験官から説明を受けた後、片手を壁に向け魔力を高めていった。


「うーん……説明じゃ、あの壁に魔術を放てばいいって言っていたけど、どれくらいのパワーでやればいいんだ? 全力出していいのか? それとも抑えめにやった方がいいのかな? でも抑えすぎて適正無しって言われたら元も子もないし。…………よし、とりあえず七割ぐらいのパワーでやってみるか。それなら大丈夫だろう、多分」


「どうしたのかしら? マスター、中々魔術を放たないわね。何かトラブルでもあったのかしら?」


「あいつ変なところで真面目だからな。細かいことを色々考えて迷ってんじゃないの?」


 二人がそれぞれの意見を述べていると、アラタの右の掌に白い光が発生する。その尋常ではない魔力を感じ試験会場にいた誰もが振り向いていた。


「いくぞっ! 白零びゃくれいっ!」


 アラタの掌に展開された白い魔法陣から、サッカーボール大の白色の光弾が発射された。

 光の弾は魔力測定用の壁に直撃すると、爆発し壁を粉々に吹き飛ばした。


「とりあえず、これぐらいなら建物に影響はないし、そこそこ威力も示すことが出来たし問題ないっしょ!」


 アラタは手を振りながらトリーシャとロックのもとへ歩いてくる。二人も手を振りながら一仕事終えた魔王にねぎらいの声を掛ける。

 ただ、その隣にいたリクルートや会場内にいた者たちは驚きのあまりに声を失っていた。

 実は先程アラタが破壊した魔力測定用の壁は、ファルナス所属の錬金ギルド『アルケー』によって作成された特別品で、魔術に耐性のある材質で出来ており、さらに耐  魔術の術式が組み込まれていたのである。

 特別製の壁は、撃ち込まれた魔術の威力を数値化し、魔闘士としての適性判断に用いられていた。

 今までこの壁に傷をつけられた者は皆無であり、『アルケー』によるとSクラス以上の魔闘士による強力な魔術であれば少しなら損傷は与えられるだろう、という自信作であった。

 

 それが今、たった一発の光弾によって粉々に吹き飛ばされたのである。

 この壁のことを知っている者からすれば、アラタが尋常ではない存在に見えたのは想像に難くない。

 この異常事態に気が付かなかったのは破壊した当人とその仲間だけであり、壁は破壊されてしまったため、結局アラタの魔力の値は不明のままであった。

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