第10話 ギルド登録
魔王軍を代表してアラタとセスが受付嬢の所に行った。
エトワールの時と同様にセスの存在に気が付くと、そのイケメンに対し受付嬢の目はハートマークになってしまう。
「初めまして。私はギルド協会ファルナス支部受付を担当しておりますメアリーと言います。本日はどのようなご用件ですか? 私今一人暮らしをしているんですけど、住所はここですぅ」
「あのさ……セス。いつも思うんだけど、お前って普段から相手を魅了するような魔術使ってないよね? 行く先々でいつもこんな感じになるけど、どうなってんの?」
「そんなこと私に聞かれても困りますよ。私は普通にしているだけです」
会話に介入してくるアラタに対し受付嬢メアリーの視線は冷たかった。
その目は「私とこのイケメンのいい雰囲気を壊すな、このボケ」と言っているようだと魔王はひしひしと感じていた。
ついさっき魔王軍の女傑二名から思いきり叱られたばかりで、女性に対し恐怖を抱く魔王は華奢な受付嬢にすら恐れを抱いていた。
「あの、すみませんメアリーさん。私たちはギルドの登録に来たのですが、その受付をお願いできますか?」
「え? あ、はい。ギルドの登録ですね。……それでは受付を開始致します。まずどなたがギルドマスターでしょうか?」
無事に手続きが開始され、アラタとセスはホッとしていた。先ほどまでとは打って変わり、すぐに仕事モードに入れるあたりさすがは一流企業の職員だと思わされる。
「俺がギルドマスターのアラタです」
「アラタ様ですね。失礼ですが魔闘士のランクはいくつですか?」
「ランクって、あれか。……一年前、一応測定はしたんですけど途中で測定用のスフィアが壊れちゃって。多分、測定用スフィアじゃ俺の魔術レベルは測れないと思います」
「測定用スフィアが壊れた、ですか。……分かりました。その件は後にしましょう。次に、ギルド名とギルドの種類を教えてください」
「種類は傭兵ギルドでお願いします。ギルド名は……」
アラタはセスや後ろにいる皆と目を合わせて互いに頷いた。
「ギルド名は〝魔王軍〟でお願いします!」
「へっ!? 魔王……軍……ですか!?」
受付メアリー嬢の声が周囲に響き渡り、先程までざわついていたエントランスが水を打ったように静まり返る。
その後、メアリー以外の受付嬢たちもエントランスにいた他のギルドの者たちも驚いた顔をして「えっ? 今魔王軍って言った?」という顔をしている。
「そりゃ、まあ、こういう反応するわな」
「そうですね」
ギルド名を決める際、特に議論にはならなかった。何故なら魔王軍全員が同じギルド名を希望したからである。
それが〝魔王軍〟であった。もしもバルザスが生きていたら、きっと彼はこの名前を希望したはずだと皆が考えてのことであった。
だから、この名を出してどのような反応をされようとも構わないという覚悟が皆にあった。
「あ……えっと、基本的にギルド名は自由なのですが、時世的にその名前はどうかと……実際に現在、本物の魔王軍が活動をしているということなので色々と誤解を生んでしまう恐れがあると思います。ギルド協会としましては出来れば他のギルド名をお勧めしますが……」
「それなら、問題はないです。その魔王軍って俺たちのことですから」
アラタたちは自分たちが巷で噂されている魔王軍であるという事実も隠さずにいこうと決めていた。
魔王乱立時代に好き勝手を繰り返した他の魔王軍とは違い、自分たちは千年前に破壊の神と戦った本物の魔王軍の後継であるという自負があったからである。
できれば穏便にこの地で暮らしていきたいと考えてはいたが、自分たちが魔王軍であるという事実を隠すことだけはしたくない。
それが彼らの思いであった。
「へっ!? 本物の……魔王軍?」
受付のメアリー嬢は大きな目をぱちくりさせて、アラタとセスを交互に見ていた。セスを見るときは表情がちょっと蕩けていたのは言うまでもない。
「ちょっと支部長を呼んできて!」
事態を重く見た他の受付嬢たちが慌ただしく動き出し、そのうちの一人が階段を上がって行った。
「やっぱり、ちょっと
「それは、まあ、我々は魔王軍ですしね。驚くのは無理もないですよ」
アラタとセスが不安げに階段を見ていると、少しして先程の受付嬢と一人の中年の男性が下りてきた。
その男性の姿を見て、魔王軍全員が「あっ」と声を出す。フラン以外のメンバーはその男性に見覚えがあったからだ。
「リクルートさん!? あれ? エトワールで働いていたんじゃ!?」
「ああ、本当だ。魔王軍の皆さんじゃないですか! お久しぶりです!」
アラタとリクルートは握手を交わす。この渋い中年の男性リクルートは魔王軍にとって恩人と言える人物なのである。
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