第3話 ギルドの都市ファルナス

 ソルシエルには東、西、南、北にそれぞれ大陸がある。北のダリア大陸、西のレギネア大陸、東のカンパニュラ大陸、南のフィットニア大陸だ。

 一年前、アラタたち魔王軍の旅はレギネア大陸の西側からスタートして、同大陸の東側に向かって移動していったという流れだ。

 

 レギネア大陸の内陸にはアストライア王国の王都アストライアがあり、レギネア大陸全土を統治している。

 しかし、大陸の辺境にある町や村は、国の庇護を受けることは中々できず、そういった場所ではギルド協会の助力によって魔物の討伐や物資の搬入を得て生活が成り立っている。

 こういった事情から、表面的には対立関係にある国とギルド協会ではあるが、水面下では互いに足りない部分を補い合う協力関係を築いている。

 ギルド協会は特にそういった部分でのパワーバランスを考え、あまり国の統括範囲に介入しないように気を付けている状況だ。

 

 そういう背景から、ギルド協会はレギネア大陸において王都アストライアから離れた辺境の地にてギルド主体の町を作り、周辺の町や村を支援するという方法を取っている。

 その中でも十年前に作られた都市〝ファルナス〟は、レギネア大陸におけるギルドの町の中で特に勢いがある町である。

 レギネア大陸の東方に築かれたこの都市は、同大陸で最大の河川である〝ストレリチア川〟沿いに存在する。

 河口から上ってきた船が停泊する港が設置されており、商業も盛んで毎日賑わっている。

 ギルド協会がいくつかの著名なギルドに声を掛け、彼らを主軸として傭兵、商業、建築、錬金、鍛冶など多彩なギルドが数多く在籍している。

 町中には、ギルド在籍者が生活するための住宅や酒場、市場、果てはいかがわしい店まで充実している。


 そのギルドの都市ファルナスに、アラタ、アンジェ、フランの姿があった。魔王軍解散前、彼らは再び集う場として、このファルナスを選んだ。

 その理由は、今後魔王軍が活動していく上で必要なものがここにあるからである。

以下回想。



「それじゃあ、一年後の集合場所はギルドの都市ファルナスにしよう!」


「マスター、どうしてファルナスなの? 集合場所ならバルザスの屋敷でもいいんじゃないの?」


「それはだね、トリーシャ。今後俺たちは、セラフィムと戦う上で奴らの情報を集めないといけないだろ? 連中が根城にしている場所すら俺たちは知らないんだ。だから、色んな情報が集まる場所に拠点を置いて活動した方が効率がいいんだよ。で、そういった場所でどこが一番いいかなと検討した結果、ファルナスが選ばれたんだ」


「なるほど~」


「それじゃ、以前皆に話したように、一年後俺たちはギルド協会にギルド登録して活動していく。それに関しては皆も賛成してくれたから大丈夫だと思う。それと、これも大事な話なんだけど……魔王軍には金がない! ギルド登録したら当分は生活するためにお金を稼がなければならないと思うのでよろしくお願いします!」


 アラタが皆に頭を下げると同時に全員の表情が曇る。そう、魔王軍にはお金が残っていなかった。

 アラタにかけられていた〝魔力を封じる呪い〟を解くための旅の道中、魔物を倒して魔石を売ったり、バルザスが用意した資金を切り崩したりして食いつないでいたのである。

 だが、それもついに底をつき魔王軍の財布の中身は、すっからかんになったのだ。

 そこで思い出したのがギルドだった。ギルドに登録して活動すれば、魔物の魔石売却に加えて依頼報酬として追加資金が得られる。

 こんな美味しい話を金欠魔王軍が見逃すはずはなかった。こうして、破神教改めセラフィムの情報や生活資金を得るために魔王軍はギルドに登録する運びとなったのである。

以上回想終了。

 


 アラタたちは、大通りを歩きながら〝ギルド協会ファルナス支部〟を目指していた。

 ファルナスの出入り口にある検問所でもらった地図によれば、この大通りに沿って歩いて行けば目的地に到着するらしい。


「すごい活気のある町だなー。以前訪れたエトワールも賑わいのある場所だったけど、感覚的にはあっちは銀座でこっちは秋葉原的な違いがあるな」


 銀座のお洒落な感じに馴染みのないアラタにとって、ホームグラウンドの秋葉原に近いファルナスの空気は性に合っているらしい。

 ちなみに彼は、バイト代を秋葉原のメイド喫茶につぎ込むメイドさん好きで、高校の悪友と一緒に通い詰めていた。


「そうですね。私はエトワールのお洒落な雰囲気も好きでしたけど、この町の生命力に溢れている感じがとても気に入りました。ここでの生活が楽しみですね、アラタ様」


「うわー、凄いや! 人がいっぱいいるー! オイラ、こんなにたくさんの人間見るの初めて。あっ! あっちには猫耳族のメイドさんがいるよ!」


「どこどこ!? あっ、ホントだー! いやー、さすが猫耳は安定感がありますな!」


「二人とも騒ぎ過ぎです。それにフランはあまりしゃべらないように。小さな姿になっているあなたは、フワフワなゆるキャラでただでさえ目立つのですから、その上会話もできると知れたら、悪い人たちに目をつけられてしまいますよ」


「危なくなったら、元の姿になって逃げるから大丈夫だよ」


「事前に厄介事を防げるのなら、それに越したことはないのです。いいですか?」


「は~い」


 フランは精霊界で一年以上生活し、大量のマナを吸収したことによって急成長を遂げていた。

 体長は十メートル程度で翼を開いて飛翔する際には、中々に威圧感が出るようになっていた。

 このような町中まちなかでは、そんな状態では動けないため身体を小さくする魔術を教えてもらっていたのである。

 その姿は、体長五十センチ位で薄いピンクの体毛で覆われた、ポメラニアンに近いものであった。

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