第269話 それぞれの修行先

 皆が冷静になるとアラタは話を再開した。


「正直言って、今の俺達は弱い。十司祭の一人や二人を相手にして全滅しかかっている。こんな調子だと、これからの本格的な破神教……いや、〝セラフィム〟との戦いで生き残る事は難しいだろう。それは俺にも言える事だ。魔力を自由に扱えるようになったと言っても、かつてには遠く及ばない。だから、強くなる時間が欲しい。これからの戦いを勝つためだけじゃなく生き残るための力を付ける時間を!」


「勝つだけじゃなく、生き残るための力……ですか?」 


「そうだよ、ドラグ。たとえ戦いに勝ったとしても死んでしまっては意味がない。俺は皆に死んでほしくない。命のやり取りをする戦場で〝生き残る〟っていう事はとても難しい事だ。でも、魔王軍の皆にはそれを貫いてほしいと思っている。俺のこんな甘ったれた理想に付いていけないって思うのは当然だとも思う。……それでも、この甘ったれと一緒に戦ってもいいっていうバカには、頑張ってもっと強くなってもらいたい」


「あははは! バカか……確かに大甘のバカの考えだな。でも、そんな大甘な理想が気に入った俺はバカって事だよな」


「ロック、バカバカ言い過ぎだ。それでは魔王様の意見に同意する私も大バカと言う事ではないか!」


 セスの突っ込みにロックだけではなく魔王軍全員が笑う。彼らから強い決意の意思を感じ取ったアラタは話を続けた。


「修行の期間は一年。セラフィムが本格的に活動し始めるのは恐らくそれぐらいになるだろう。だから、この一年で俺は徹底的に自分を鍛え直すつもりだ。皆もこの一年で可能な限りのレベルアップをしてもらいたい。そして、より強くなって一年後にまた会おう! 以上だ!」


 その後、魔王軍一時解散は翌日の運びとなり、各々準備をしていた。と言ってもそれほど荷物がある訳でもないのでそれらはすぐに済んでしまい、修行先の話で盛りあがっていた。


「セスはどこで修業するの?」


「私は魔王軍に入る前にいた魔術都市カルディアに戻るつもりだ。あそこには、まだ閲覧していない魔導書がたくさんあるし、強力な魔術を学ぶ機会が多いからな。トリーシャはどうするんだ?」


「私は実家に帰るわ。私の槍術の師匠は母さんなんだけど、真剣勝負で勝ったことがないの。だから、母さんと互角以上の力を身に付けるのが目標ね。ロックは?」


「俺は師匠の所で鍛え直してもらおうと思ってる。そして、獅子王武神流の奥義を習得する。最低でもそれをこなして武闘家としての高みを目指す。それぐらいしないとアロケルとまともに戦えないからな」


「十司祭アロケルか……獣王族は非常に身体能力が優れた種族。恐ろしい相手だが、ロックお前なら勝てる。拙者もお前に負けないように精進するつもりだ」


「ドラグはどこで修業するの? 私達みたいに魔王軍に参加する前にいた場所に戻るの?」


「拙者はセレーネと一緒に竜族の里で修業する。元々拙者は武者修行の道中でバルザス殿と知り合い魔王軍に参加した根無し草だからな。竜人族のルーツであるドラゴンと関わる事で根本的なレベルアップが可能と思ったのだ」


 ドラグはセレーネの方を見て目を輝かせながら答えており、彼のドラゴンマニアとしての一面を知るロック達は「単に様々なドラゴンに会いたいのだろう」と内心思う。


「竜人族はかつてドラゴンの守護者としての役目を持っていたわ。守護者の文献が残っているから、そこに当時の戦術が記載されているはずよ。私もローブである〝ドラゴンブラッド〟の力をもっと引き出せるようになりたいし、そのためには竜族の里の環境が一番いいと思ったの。ドラグちゃんにとっても私にとっても修行場所としては最適なはずよ」


 アラタとアンジェ以外の魔王軍メンバーの目的地が明らかになり、彼らが二人を探そうとした時、大きな声が反響する。それはスヴェンの声だった。

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