第270話 昼ドラは現場で起きているんだ
「精霊界で修業する!? 正気か!?」
「アラタ、それはさすがに無理なんじゃないかな? 精霊界は大気中のマナが濃すぎて人間は五分と持たないと聞いた事がある。とても修行なんて出来る環境じゃないよ」
スヴェンに続いてルークが精霊界での修行は現実的でないと指摘するが、当の本人は全く気にしてはいなかった。
「普通の人間にとっては確かに危険な場所かもしれない。でも、俺はマナの保有量が常人とかけ離れているから、マナが濃い環境でも問題ない。むしろ、マナの回復が早くなるから魔力を大量消費する修行の環境としては最適なんだ」
「何だよそのチート設定は……」
「アラタ様の〝破壊の魔術〟は世界樹〝ユグドラシル〟によって直接作り出されたもの。ですからアラタ様自身、ユグドラシルが直接創造した存在である〝星の守り人〟そのものなのです。ですから、同じ星の守り人である精霊達が住む精霊界でも問題なく活動出来るのです。女神である私も星の守り人なので、アラタ様と同じく精霊界で活動出来ます。アラタ様にとっても私にとっても色々と充実した一年になりそうですね、ふふふふ」
「え? ああ、そうだね。頑張らないとね」
「頑張るだなんてそんな……人前で大胆発言すぎます」
顔を紅潮させ身をくねらせるメイドの姿を見て、アラタ達は「頑張る」対象が食い違っている事に気が付き、彼女の思考回路に疑念を抱く。
特に女神である彼女の手によって、このソルシエルに転生したルークは先日アンジェが女神だと知らされたのだが、当時と現在の彼女のギャップに驚いていた。
その時、会話を聞いていたトリーシャとセレーネが不満げな表情で会話に加わる。
「ちょっと、アンジェ今の話本当なの!? マスターと一緒に精霊界で修業するの!?」
「本当です。魔王専属メイドとしてご主人様に尽くす事が出来る、充実した一年になりそうですね、ふふっふふふ!」
「アンジェちゃんが何を頑張ろうとしているのか、その笑顔を見て分かったわ! いくらなんでもずるいわ! アラタちゃん独占禁止法に引っかかる行為じゃないかしら!?」
(いつ出来たんだそんな法律……)
「これがメインヒロインの特権です。サービスシーンが多めになるのですから、これくらいの優遇処置は許されるのではないでしょうか?」
「おいアンジェ、これ以上その危険な会話を続けるんじゃない! トリーシャもセレーネも落ち着いて。俺達は精霊界に遊びに行くわけじゃない、修業しに行くんだ」
「……でも、する……でしょう?」
「それは……まぁ……する時もあるでしょうな……!」
数秒の沈黙後、トリーシャがぷんぷん怒りながらアラタに詰め寄った。
「ほらー! やっぱり! エッチなマスターの事だから時々とか言って毎日する気に違いないわ! 全くもう!!」
修羅場と化した四人をワクワクした表情で残りの女性陣が見ていた。シャーリーにいたってはせんべいとお茶を完備しており、まるで昼ドラを視聴しているかのようである。
しばらく四人の言い合いが続く中、アンジェの理論が展開される。
「確かに二人にとって納得のいかない話なのは理解できます。でも、よく考えてください。私達三人の目が行き届かない環境にアラタ様を放置したとします。女性の身体に飢えたアラタ様なら、修行開始から一週間以内にウンディーネやシルフあたりに手を出しかねません。それでいいのですか!?」
「うっ! それは確かに……」
「アラタちゃんならやりかねないわねー」
「…………あのさ、君達。俺を何だと思ってるの? さっきから黙って聞いてれば、酷くない!? 俺の評価は犯罪者前提かよ!?」
非難する魔王を三人の女性が一瞬見るが、背を向け再び三人で話を進めて行く。団体を組んだ女性達の前では一人の男の反論など何の意味も持たないのである。
「というわけで
「その勢いだと全裸になっちゃうわよ?」
「それも止むを得ないでしょう」
「てか、それが目的でしょうアンジェ……」
「ですから、今宵はお二人の好きなようにしてください。私はサポートに回ります」
「え……いいの?」
「分かったわ。それで手を打ちましょう!」
こうして魔王軍の女性三名による落としどころが決定したのだが、勝手に犯罪者扱いされていた魔王はご機嫌ななめであった。
それでもトリーシャとセレーネのパワーはアラタを圧倒しており、その夜一部始終を見ていたアンジェは、まるで飢えた二頭の雌ライオンとふてくされた草食動物の戦いの如く一方的な内容であったと後に語る。
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