第253話 覚醒の刻(とき)④
「なにっ!? 一体どこへ行った?」
ガーゴイルが必死に周囲を見回すと、離れた場所に少年が立っているのを見つけた。だが、その事実がさらなるプレッシャーを彼に与える。
(ちょっと待て、あいつはこの一瞬であそこまで移動したのか? 〝
ガーゴイルがたじろぐ一方で、急に目の前に現れたアラタにシャーリー、ロック、バルザスは驚いていた。
シャーリーの治癒術でバルザスの怪我はほぼ完治していたが、その顔は青ざめていて体調が良くない事は明らかであった。
アラタはバルザスの前で腰を下ろし、老戦士の手を取る。
「バルザス……こんな無茶をして……あの時俺は平和な時代を生きて欲しいって言ったじゃないか。あれは生き残った皆、特にお前に対して言った事なんだよ。それなのに、1000年後のこの世界で、コアが傷ついた状態で危険な旅に出るなんて!」
ムトウ・アラタという少年が知り得ない事実を、彼が語り始めた事にバルザスは驚き目を見開いた。だが、アラタの目を見ると老兵は状況を理解した。
「グラン様の記憶が……戻ったのですか?」
「ああ」
「しかし、それでは、彼の……ムトウ・アラタという少年の人格はどうなったのですか?」
「大丈夫、ちゃんといるよ。ただ、その他にもたくさんの事を思い出したんだよ。さて……と、見ていてくれバルザス。お前が命をかけて再建した魔王軍は絶対に負けないってところを!」
アラタは立ち上がり、ガーゴイルを正面に据え戦闘態勢を整える。
「ロック、シャーリーさん、バルザスを頼みます。後は俺が奴らを叩き潰す!!」
「分かりました。バルザスさんの事は任せてください」
「アラタ……あのガーゴイルとかいう石像みたいな敵には気を付けろ。勝つためにどういう手段を使ってくるか分からない。油断するなよ!」
「ガーゴイル? 確かホムンクルスの1人がそんな名前だったような?」
その時バルザスが自分の剣をアラタに差し出した。神魔戦争を主と共に戦い抜いた〝名剣バルザーク〟。
かつて魔王グランが所持していた〝魔剣グランソラス〟の原型となった両刃の剣であり、金色の
「ガーゴイルは身体を変え、以前よりも強力になっています。奴と戦うにはこれが必要かと。魔王様、あなたは昔も今も剣士です。ならば、剣がない事には始まらないでしょう?」
アラタはバルザークを手に取り、切っ先を空に向けて構える。その刀身は鏡のように使い手の顔を映し出す。
「ありがとうバルザス、使わせてもらう。それじゃあ、行ってくる!」
「ご武運を!」
バルザス達の前からアラタの姿が消え、彼が今しがた立っていた水面には波紋が広がっていた。
アラタが次に姿を現したのはガーゴイルの目の前だった。長距離の瞬影を難なくこなす魔王の姿に石像の悪魔は戦慄を覚える。
「ふんっ! 魔王と言えど、1000年間まともに魔力を使えなかったんだ。いきなり以前のようには戦えないだろう? それに引き換え、俺様は1000年間ベルゼルファー様復活のための準備をしてきた。その間、それを邪魔する連中と戦い皆殺しにしてきたんだ! 戦いの年季が違うんだよ! 俺様が負けるはずがない!!」
「だったら試してみるか? お前が過ごした1000年と俺が過ごした1000年……その差を比べてみようじゃないか」
脅しに全くたじろぐ様子を見せない魔王に対して逆に怯む石像の悪魔は、格の違いを見せつけられたような気分になる。
それは彼のプライドを傷つけ、憎悪の感情を高めさせる。憎悪と共に引き上げられていくガーゴイルの魔力は、身体から溢れだし周囲の湖面や大気を震わせる。
離れた場所からその様子を見ているロック達は、予想以上の敵の力に青ざめていた。
「冗談だろ? あの野郎、まだあんなに力を残してるのか? いくら何でも今のアラタ1人には荷が重すぎる!」
「大丈夫だ。ロック、魔王様に任せなさい」
立ち上がろうとするロックをバルザスは制止する。そして、叶わぬと思っていた新たなる魔王の戦いを目に焼き付けようとしていた。
その時、アラタは息を大きく吸うとバカでかい声を張り上げる。
「魔王軍全員に通達!! これから俺は敵戦力を潰していく!! その間、敵の足止めを頼む!! けど、危険と思ったら無理せず撤退しろ!! 絶対に死ぬな!! 以上!! スヴェン達もそれで頼む!! ……さてと、それじゃあ行くぞ、ガーゴイル!!」
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