第248話 傷だらけのトリーシャ
ガーゴイルは翼から発生するエアリアルの力場を最大にして、湖にぶつかる寸前で落下の軌道をずらし、湖面を後ろ側に滑っていき事なきを得る。
「ちっ、空中で俺様に一撃を入れるとは中々やるじゃないか!」
トリーシャは、バルザス達を守るように彼らの前方に降り次々と仲間を傷つけた石像の悪魔に対峙した。
最初は新たな乱入者の出現に渋い顔をしていたガーゴイルだったが、トリーシャの姿を見て目を細めながら笑い出す。
「おいおいおいおい! まさか、お嬢ちゃんそんな状態でこの俺様とやり合おうってんじゃないだろうな!? 冗談キツイぜ!」
「………………」
敵の嘲笑に対してトリーシャは答えなかった。彼女のローブは所々破損が見られ、身体のあちこちから出血し、今もローブを赤く染め続けている。
「そう言えば、お前さっきダッゴンの魔術を食らって湖の中に落ちたよな。よくもまぁ、それで無事に這い上がって来れたもんだ! ふはははははははっははははは!」
「一体どういう事なんですか? 湖の中で一体何が起こったの?」
満身創痍のトリーシャの姿を見て、彼女の負った傷がただ事ではないと感じたシャーリーが疑問をこぼす。
それに答えたのは、石像の悪魔だった。
「ダッゴン周囲の水中はなぁ、奴が発生させた渦が広範囲に展開されてるのよ! その渦に巻き込まれた奴は二度と浮上して来れずに死ぬ。渦から逃れたとしても、水中は高速回転する水の刃だらけで身体を切り刻まれる! その女は後者だったらしいが、水中でバラバラにされずに脱出した事から大した実力者なんだろうよ。でも、俺と戦うには受けたダメージがでかすぎたな! このまま放っておいても出血多量で勝手にくたばるだろうな! しっかし最高だなぁ、今回の魔王軍は! どいつもこいつも俺を愉しませてくれる! ふふふははははははははははあはははははははっはははははは!!」
身体をのけぞらせながら大笑いをするガーゴイルの声が広がる中、突然大きな衝撃音が発生し不快な音声を遮る。
笑い声を止めたガーゴイルが前方を見ると、傷だらけのルナールの少女が槍で水面を吹き飛ばしていた。
「あんた、気持ち悪いのよ最初っから!! バルザスを侮辱するとこから始まって、相手を少しずつ痛めつけながら大笑いして! 不愉快極まりないわ!! こんな下劣な男が神魔戦争を生き抜いた猛者なんて信じられない! あんたなんてマスターが戻ってくる前に私が倒してやる!!」
「…………お前ら、まさかあの魔王が生きて戻って来ると本気で思っているのか?」
「…………え?」
急に冷静な口調になったガーゴイルの様子に不気味さを感じるトリーシャ達。キョトンとする彼らの姿を見て、ガーゴイルは手で顔を抑えながら再び笑い出した。
「あはっははははあはははははは!! これは今日一で笑えるネタだぜ! 魔王にかけられた呪いはベルゼルファー様が……神が直々にかけたものだぞ! それを人や精霊風情が知恵を絞ったところでどうにか出来る訳がないだろう? 例え、その背後に豊穣の女神の加護があったとしても無意味なんだよ! 仮に呪いの術式を魂から上手く引きはがしたとしても、そこからが面白くなるのさ!!」
ガーゴイルが言い放つと、まるでそれに応えるかのようにアラタを包む光球が光を強める。その光を目の当たりにして、トリーシャは嫌な予感を感じていた。
「マスター、お願い……無事に帰ってきて」
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