第210話 閃光と豪炎①
「リュウさん、俺はやっぱり最初は無難に醤油ラーメンから始めたほうがいいと思うんだよね。醤油だったらこの辺りでも既に馴染み深い調味料になってるんでしょ? いけるんじゃね?」
「いやいやいや、何言ってんのアラタ! まずは味噌ラーメンだよ! これは外せないよ。何より僕の一番好きな味だし、これを食べたいがためにラーメン作りを始めたんだよ?」
「でも、味噌の開発はまだ途中なんでしょ? だったら、後回しにしたほうがいいって! 俺は醤油ラーメンを早く食べたい」
「あっ! それが本音か! ずるいじゃないか! ……今決めた、絶対最初は味噌ラーメンでいく。これは決定事項だよ」
現在ルークが秘かに進めているラーメン作りで、最初はどのスープから着手するかというお題目の下、アラタは醤油派、ルークは味噌派で意見が分かれ口論となっていた。
そんな2人の間には昼食前の他人行儀な壁は見られず、すっかり打ち解けている状況であった。
アラタはルークを前世の名前である
「なんか2人とも、めっちゃ仲良くなってる!」
2人の距離感の変貌ぶりにどよめく周囲の人々。そんな彼らの反応はお構いなしに、ラーメン話に夢中になる異邦人の魔王と勇者であった。ちなみに彼らが異世界にてラーメン作りで一波乱起こすのは1年以上後の事である。
「あいつと随分仲良くなったもんだな、ルーク。お前が特定の誰かとあんなに親密になるなんて珍しいな」
その夜、ルークの部屋で勇者2人がチェスで勝負をしていた。と言っても脳筋のスヴェンの攻撃は単調で逆に一方的に攻め込まれており勝負にはなっていなかった。
彼らの目的は遊戯に興じる事ではなく、これまでの情報共有といったところか。
「そうかな? 僕は誰に対しても平等に接しているつもりだけど」
「ある一定のところまではな。でも、そこから先になると壁を感じるぜ。今でこそ俺もこうしてチェスをする間柄だけど、それもつい最近だろ? きっかけは……そう、確かマリクでの一件でお前が魔王に関して俺にあれこれ質問してきた事だったな……ん? 結局はあいつ関係かよ!」
「ははは、そうだね。同じ勇者といっても以前はスヴェンともそんなに話したりはしなかったね。思い返せばスヴェンと仲良くなれたのもアラタのおかげって事だね」
スヴェンは「はぁー」とため息をつく。ゲームに意識を向けるといつの間にかルークの手勢がスヴェン側のキングに迫っていた。
「ぬおっ! いつの間に!!」
「話をしている時に気を抜くからだよ。……そういえば、スヴェン。アラタと君は何でも正義の味方を目指しているんだって?」
「……そんな事まで話したのかあいつは。ったく口の軽いやつだ」
スヴェンは呆れた表情をしながらも、どこかまんざらでもないようである。ルークはスヴェンの反応を見て、この話題を先に進める。
「ちょっと話の流れで僕が色々聞いたんだ。僕はとてもいいと思うよ。勇者と言っても結局はアストライア王国騎士団の役職みたいなものだし。……ところで、ものは相談なんだけど、その正義の味方の件、僕も一枚噛ませてもらってもいいかな?」
「お前が? 意外だな、お前はどっちかっていうとドライな性格だろ? 正義の味方とかそういうのは鼻で笑うタイプかと思ってた」
「普通に酷いなー。でも、そう言われればそうかもね。アラタと話してみて、何だかようやく自分のやるべき事が見えてきた感じがするよ。今までの僕は、たぶん無意識にこの世界に積極的に関わろうとしていなかったんだと思う」
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