第211話 閃光と豪炎②

 ルークのどこか引っかかる言い回しに対して、スヴェンが怪訝な表情をしていると、それに気が付いた爽やか青年が笑いながら補足した。


「ああ、ごめん、言ってなかったよね。僕は以前、アラタと同じ世界〝地球〟で生きていて、死後このソルシエルで生まれ変わったんだ。前世の記憶を持ったままでね。だから、昔の故郷の事で話が弾んじゃってさ」


 今まで同じ勇者として関わってきたルークのいきなりの爆弾投下に不意打ちを受けたスヴェンは、数秒程動きが停止した。

 その間、脳内では情報整理が行われ、結果としてルークがアラタと同じ異世界の人間であるという結論に至る。少し惜しい。


「って事は、ルークお前は異世界人なのか? あれ? でも、貴族の3男坊だったはず……あれ?」


 混乱するスヴェンに再度説明し、どうやら状況を理解できたらしい。


「ルーク、お前そんな重要な話をよくさらっと言えたな。いいのか、俺にそんな事を教えて? アストライアのお偉いさん連中に知られたら、面倒くさい事になるだろう?」


「そうなるだろうね、でもスヴェン、君は絶対にこの件を口外しない。僕はそう確信してる」


「……その根拠は? あのアホ魔王と違って、お前は無条件で他人をそこまで信用しないだろ?」


 ルークに真剣な眼差しをスヴェンは向ける。閃光の勇者は、盤に視線を落とし自分の陣営の駒を相手の王の下へ進めた。


「チェックメイト……理由はあるよ。まずは、シェスタ城塞都市の戦いでネクロマンサーが言っていた事だよ。そこから察するに、アストライアには破神教のスパイがいる。そうなると、あの時現場にいた僕達以外の王国関係者全員が被疑者になる。その点で君は信用できる。2つ目は、そうだねー……うん、本気で『正義の味方を目指している』って言う人に悪い人はいないと思ったからだよ」


 笑顔で言い切ったルークのこめかみをぐりぐりしながら、スヴェンは激怒していた。


「やっぱりバカにしてんだろ、お前! 悪かったな、子供じみてて!!」


「あたたた! バカにしてないよ! 言ったじゃないか、僕も君達と一緒に正義の味方を目指したいって! あ! いたたたたたたったぁーーーーーー!!」


 こうして、正義の味方を目指す魔王と勇者2名という不思議な同盟が誕生した。彼らは、後の破神教との激戦において中核を担う存在になるのだが、それを知る者はまだいない。




 夜の書庫にてセスとセレーネの姿があった。魔王軍の後方支援担当の2人は、戦力増強のため新しい魔術習得に向けて大量の魔術書に目を通していた。


「本当にここの魔術書の品揃えは素晴らしい。私の知らない書物がこんなにあるなんて。おまけに古代魔術が記載されている文献まである。あー、癒されるーーーーー!」


 セスはこの屋敷に来てからというもの、家主であるルークの許可を得て書庫の魔術書を読み漁っていた。本の虫であるセスにとってここの環境はまさに天国そのものであった。

 一方、セレーネは睡魔と戦いながらも何とか意識を保っている状況である。


「セレーネ、今日はおひらきにしましょう。いくつか収穫はありましたし十分でしょう」


「ごめんなさいね、セスちゃん。でも、さっき見つけた、この〝影渡かげわたり〟っていう闇魔術はすごそうよ。ルークちゃんの一瞬で遠くまで移動する〝星渡ほしわたり〟と同じ性能みたい。習得できれば、今後の移動が一気に楽になるわ」


「ええ、一度行った場所であれば一瞬で移動できる闇属性の古代魔術ですね。習得できそうですか?」


「うーん、術式が複雑だから実用できるのは、ちょっと先になるけど……大丈夫、〝シャドーセイバー〟ほど難しくはないからいけるわ」


 セレーネは「お姉さんに任せなさい」と言わんばかりに、胸を張る。彼女の事をよく知らない人が見れば、とても不安感を煽る状況であるが、彼女が如何いかに優秀かを知るセスは安心して任せるのであった。

 2人が書庫を後にし、自室に戻る途中で「ガタンッ!」と何かが倒れるような音が聞こえてくる。急いで物音のした方へ行くと、そこには床に倒れているバルザスの姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る