第202話 夢だと思った? いやいや現実でした

「まさか、覚えていないのですか? あなたは昨夜目を覚まし、空腹を訴え大量の食事を召し上がったのですよ。その後、そちらにいられる女性お三方とこちらの部屋で蜜月な時間を過ごされたようです。ただ、それが一晩続いていたようでして、お客様に対して失礼だとは考えたのですが、他のお仲間の方々の睡眠にも影響があるでしょうし、何よりご本人様の健康面を考えると夜間はしっかりと睡眠を取られたほうが良いかと思いまして」


「へっ……? 蜜月? お三方? 一晩中?」


 スザンヌの忠告内容に対してアラタはフリーズした。かろうじて動いている頭で情報を整理すると、自分は昨晩突然目を覚まして食事を用意させて食べまくった挙句にアンジェ、トリーシャ、セレーネの3人と、この部屋でとんでもない事をしたらしい。

 そのやりたい放題好き放題の内容にアラタはドン引きし、それを他の誰でもない自分がやったという事を聞いて現実味を感じていない状況であった。

 アンジェ達を見ると、彼女達は少し顔を赤らめながら照れ笑いをした後、スザンヌに対し「すみませんでした」という謝罪の言葉と共に90度のお辞儀を見せた。

 その行動はつまりスザンヌの言った蜜月の行為の肯定に他ならず、アラタの頬を冷汗が流れていく。

 実際の所、全く覚えが無かったわけではなかったのである。そう、彼はそれらの出来事を全て夢の中の出来事と思っていたのだ。

 その夢の内容は、目を覚まして強烈な空腹感に襲われた後、豪華な食事をお腹いっぱいになるまで食べまくり、その後はアンジェ、トリーシャ、セレーネの3人と何だかいい雰囲気になり、結果的に性的な欲望が暴走するというものであった。

 長時間の睡眠直後の出来事で寝ぼけていたのと、あまりにも現実味のない出来事であったために夢であったと錯覚していた。


「…………あの、さ、アンジェ……俺、もしかして君の――ピー――ピーした?」


「はい、しましたよ。他にも――ピー――ピーとか、――ピーもしました。普段のアラタ様からは想像できない積極性だったので驚きました」


 そこにトリーシャとセレーネが参加する。


「私はマスターに――ピーとか――ピーさせて欲しいって言われたんだけど覚えてる?」


「…………覚えてます。その後――――ピーをさせていただきました……」


 トリーシャはにこにこ笑顔で頷き、尻尾を千切れんばかりに振っている。アラタがちゃんと覚えていた事に満足している様子であった。


「それじゃあ、これは覚えているかしら? 私はアンジェちゃんとトリーシャちゃんの後だったのだけれど、――ピーしたらアラタちゃんの――ピー――ピーになって、それから――――ピーしたのよ」


「……はい、そして最後は――ピー――ピーさせていただきました」


「うふふ、正解。良かった、ちゃんと覚えていたのね」


 彼女達の証言とアラタの夢の内容が合致し、これによりエロい夢であったと思っていたものが現実であった事が証明されたのである。

 アラタはふらふらしながらアンジェ達の前に来ると、ゆっくりと腰を下ろした後、正座し床に額を擦りつける。


「大変申し訳ありませんでした!!! 謝って済む問題でない事は重々承知しておりますが、今出来る事はこの土下座以外にないと思いました!! 魔王という立場にかこつけて、仲間である皆様方にこの度大変失礼な事をしてしまいました! わたくし、ムトウ・アラタ! 身命を賭して、皆様方に報いる所存であります! ご希望がありましたら、何なりと私に申しつけください!!」


 土下座の体勢でひとしきり自らの謝罪を言い切るも、彼女達は何も言わない。メイド長のスザンヌは「とんでもない修羅場になってしまったわ」とみじめな姿のアラタに一瞬同情したが、彼がした女性3人への行いを思い出すと、原因は本人にあるのだから仕方がないと思い、この状況を静観するのであった。

 実際のところ、この後どのような展開になるのか個人的に興味があったというのも傍観者に徹する理由の1つであったのだが――。

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