第180話 覚醒の胎動②
敵の攻撃を薙ぎ払い一旦距離を取った後、アラタは敵目がけて勢いよく飛び込む。このまま敵に対して真っすぐに突っ込むと反撃に遭う可能性が高い。
その様子を見たセスがアラタを止めようと向かって来るがとても間に合う距離ではない。
「魔王様、そのまま突撃するのは危険です! 下がってください!」
「アラタ様!」
アンジェもセスと同じくアラタの援護に回ろうとするが、彼女もアラタの特攻を止められる位置にはいなかった。
「うおおおおおおおあああああああ!!」
アラタが突っ込む中、敵は素早い動きで背後を取ろうと回り込むように移動を開始した。勢いよく前方に走り込む現状では急に方向を変えられないし、急停止すれば隙が出来て討ち取られるかもしれない。
万事休すだとアンジェとセスが思った時、アラタはそのスピードを落とすことなく敵に向かって、ほぼ直角の急激な方向転換をした。
それに一番驚いたのは、恐らくアサシンであっただろう。自分が背後に回りこもうとした相手が、ありえない動きをして対応してきたのだ。
バルゴ風穴内で戦ったグリフォンの変則的な空間戦闘術――――高速戦闘を得意とするトリーシャを苦しめた、あの戦闘術はアラタの記憶に強く残っていた。
あの戦術を使えば相手が速くても翻弄する事が十分可能なはず。そう考えたアラタは状況を打開するため、ぶっつけ本番でそれを実行したのだ。
「まだだ! もっと速く!」
アラタはさらに加速しながら剣を構え敵に肉薄する。アサシンは猛スピードで突っ込んで来る無謀者にすれ違いざまにダガーを突き立てようとする。
猛スピードの2人が接近する中、アラタはここでさらに加速した。タイミングをずらされたアサシンのダガーはアラタの左頬を浅く
一方、アラタの剣はアサシンの身体を横一文字に切り裂き真っ二つにした。上半身と下半身を分断された敵が倒れた場所に血液が広がっていく。
アラタはそれを目の当たりにし、敵が死んだのだと確信した。
「はぁはぁはぁはぁ、やったか……! そうだ、次! 次の敵はどこだ!?」
息も絶え絶え、身体に強い倦怠感を覚えながらもアラタは次の標的を必死に探し求める。そんな彼が視界に収めたのは敵ではなくメイドの姿であった。
「アラタ様、もう大丈夫です。敵は全滅しました。だから魔力を解いてください。それ以上は身体の負担が大きすぎます」
「全……滅? 全部倒したのか? アンジェ……! それにセスは大丈夫か!? 2人とも怪我してないか!?」
アラタは魔力の放出を抑えながら一緒に戦っていた2人の安否をまず気にかけていた。ふらふらになりながら心配そうな表情をするアラタを正面から支え、アンジェは愛おしそうに彼を抱きしめる。
ふと見ると、剣の
「アラタ様、剣から手を離してください。今治療しますから」
「うん……あれ……?」
手を柄から離そうとするも、戦闘中必死に握っていた影響か思うように手を開く事が出来なかった。
するとアンジェは彼の手を包み込むように手を添えて、丁寧に指を一本ずつ伸ばしていく。それは、必死の思いで戦い抜いたアラタの狂気を
「アラタ様、ありがとうございます。あなたが頑張ってくれたおかげで、私もセスも無事に戦い終えることが出来ました。魔物だけでなく人と戦い、その命を奪う行為に耐えながら必死に戦ってくれた事、私達はちゃんと分かっています。それに、魔力をあんなに開放して……身体に相当負担がかかったでしょう?」
「!」
アラタの目から涙がこぼれ落ちる。人を手にかけた罪悪感、手に残る罪の感触、自分を含めアンジェとセスが無事であった事に対する安堵。
それら様々な感情がないまぜになって混乱する心をアンジェの言葉が優しく包み込んでいく。
「ありがとう……ありがとう、アンジェ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます