第179話 覚醒の胎動①

「……いける! これならパワー負けしない! うおおおおおおおああああああ!!」


 アラタは刀身に込めた魔力を瞬間的に高めて火花を小爆発させた。その反動でお互いの武器が吹き飛ばされそうになるが、その現象を起こした本人はしっかりつかを握り締め衝撃に耐える。

 一方アサシンは武器を吹き飛ばされ無防備になるものの、すぐに素手による近接戦闘へと移る。

 だが、この戦いをコントロールしているのは魔王の方であった。敵が再攻撃に入るより前に接近し剣を持っていない左腕に魔力を集中させる。


「遅い! 〝白零・腕びゃくれい かいな〟!!」


 白いオーラを纏った正拳突きがアサシンのみぞおちに入り、衝撃が身体中に轟くと同時に吹き飛ばす。

 その直線上にいたアサシン1人を巻き込み、2人の黒装束は勢いよく地面に叩き付けられた。


「セス! 止めを頼む!」


「魔王様、分かりました! 術式形成、空間固定! フレイムジェイル!」


 倒れた2名のアサシンの周囲に炎の鉄格子が形成されていき、瞬く間に炎の牢獄が完成する。攻撃に巻き込まれた黒装束が立ち上がり、そこから無理やり脱出を試みるが、炎の檻に触れた瞬間その身に炎がまとわりつき、その身を焼く。

 

「燃えろ!」


 セスが術式に最後の指示を出すと、炎の牢獄は収縮を開始し内部は炎が充満し、間もなく爆発した。


「……2名倒した! 魔王様、アンジェ!」


「聞こえているわ! 私も続きます!」


 アンジェは周辺にいたアサシン数名を斬り捨てるとヴォーパルソードを消して、自身の真下に術式を展開し、魔力を充填する。

 水色に光り輝く魔法陣の上で、アンジェは両手でスカートの裾をつまんでお辞儀をするような仕草をした。


「皆様方、少々危険な噴水ですが、どうぞご堪能ください。……スプラッシュ!!」


 顔を上げると同時に右足を前に出し、再び地面に下ろす。すると術式が発動し、アラタ達を包囲しつつあったアサシン達の足元からいくつもの水柱が発生する。

 強力な水圧によって空中に吹き飛ばされるアサシンの集団は、水の圧殺によるダメージよって動きが麻痺し空中で無防備な状態を晒した。

 敵が地上から離れた所に移動した事を確認すると、魔王軍参謀は素早く対応するのであった。


「アンジェ、いいぞ! 止めは任せろ、既に術式は完成している!」


 空中に放り出されたアサシン達のすぐ近くに巨大な赤い魔法陣が出現し燃えるように激しい光を放ち出す。それは既に魔力が充填され魔術の行使が可能である事を示している。


「赤き煉獄の炎よ、その絶大なる力を持って悪しき魂を焼き払わん! エクスプロージョン!!」


 魔法陣が巨大な炎の塊へと姿を変え、それは一気に爆発し周囲の空間を呑み込み炎上する。その範囲内にいた黒装束たちは、超高温の爆発により全身を燃やされ、ばらばらに吹き飛ばされた。

 最初は20名程いたアサシンも残り1人となっていた。その最後の暗殺者とアラタは激しい剣戟を繰り広げる。素早い動きと小回りの利くダガーの長所を活かし手数で攻めてくる黒装束に対し、アラタは回避と防御でしのぐ。


「こいつ他の連中より強い! 隙がない!」


 互いの武器の刀身がぶつかり合う度に火花が散る。ダガーの手数は多く、先程使用した小爆発によって隙を作るという技術もこの敵に行うのは難しい事であった。


(こいつ明らかにさっき俺がやった武器飛ばしを警戒してる。くそっ、何かないかこいつを一瞬でも圧倒する何か……こいつのスピードを越えるには――!)


 アサシンと何度も刃を交える中で、戦術を練るアラタの脳裏に以前圧倒的なスピードと戦法を繰り出した敵の姿が脳裏をよぎる。


(もし、あいつと同じようなことが出来れば勝てるかもしれない。でも、今の俺にあんな高度なことが出来るか? 魔力が不安定なこの状況で。……いや、弱音を言ってる場合じゃない! やって見せる!!)

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