第171話 交錯する戦い
「生きていた? スヴェンの攻撃が直撃したと思っていたが、逃げおおせていたみたいだね」
エルダーが悔しそうな声を上げるが、それを耳にしたガミジンは人差し指を立て、ちっちっちっと言いながら否定した。
「違うねぇ、そこのボケ老人! 僕はちゃーんと、さっきの炎の一撃をもらったよ、勿論ワザとね。勇者の渾身の一撃がどんなものか興味があったから一応受けてみたけど威力は…………まぁまぁってところだね」
「スヴェンの全力の一撃を受けて無傷だなんてありえないわ!」
ガミジンの言葉に反応したコーデリアが否定する。
「信じられないのも無理ないか……なら、お姫さん、君の全力の攻撃を僕に放ってみなよ。勿論僕は逃げないし、防御もしない。上手くいけば君たちの勝利だ。悪くはないだろう? さぁ、来なよ!」
自信満々のガミジンに注意を払いながら、コーデリアは残った魔力を総動員する。
(確かに今あの男からは逃げる素振りも魔力障壁も感じられない……本当に無防備な状態! 上手くいけば、これで終わる!)
レイピアに集中させた魔力により増幅された雷光が暗い周囲を明るく照らし出す。刹那、コーデリアの身体は視界から消え去り、一瞬でガミジンの眼前に姿を現した。
「これで決める! エクレールラピエル!!」
高速移動直後に打ち込まれた稲妻の刺突攻撃はガミジンの胸部を貫き、その身体を電撃で焼き上げる。黒焦げになった亡骸は力なくその場に横たわり、声を上げる間もなく戦いは終了した。
「やった……勝った……」
コーデリアが確かな手ごたえに勝利を確信したその時、彼女の身体を強力な魔力の波動が吹き飛ばした。
「きゃあああああああああ!!」
勢いよく地面に叩き付けられ、その美しいブロンドの髪は土埃で汚れ身体のいたる所から出血が見られる。致命傷になるほどの深手が無い事が不幸中の幸いであった。
そして、恐ろしい光景が彼らの目の前で起こる。
消し炭のようになっていたガミジンが立ち上がり、録画映像を逆再生するようにボロボロの身体が修復されていく――そして、何事も無かったかのように無傷の状態となり再び歪んだ笑みを見せる。
「ごめんねお姫さん、でもね僕は『反撃しない』とは一言も言っていないから反則じゃあないんだよ。実際、無抵抗で攻撃を受けたし、当然痛みもある。おあいこって事で」
「一瞬で回復した……そんな……どうして?」
コーデリアは恐怖のあまり声が震えていた。幼少の頃から姫騎士となるべく武芸に励み王族として騎士として高貴な志を持った彼女が今や年相応の少女のように震える事しかできなかった。
「十司祭をなめちゃいけないよ。これは僕がもらった神性魔術『再生』の力。文字通り、身体をバラバラにされようが消し炭にされようが元通りに戻ることが出来る。だから、そこで死にかけてる勇者の必殺の一撃を受けても再生して何事もなかったようになった。……つまりー、君たちが何をしようともー、僕には傷一つ付けられないんだよ! 分かったかな?」
ガミジンはスヴェン達を馬鹿にするような口調と歪んだ笑顔を見せている。そんな彼の傍らには魔法陣から身体の半分以上を外界に引き出した骸のドラゴン、勇者一行を囲むように出現を続けるアンデッドの集団がいた。
一方、勇者パーティーはスヴェンとコーデリアは戦闘不能。ジャック、エルダー、シャーリーは何とか戦闘を継続してはいるが体力も魔力も限界が近い。
恐らく魔王軍の誰かが戦っているのだろうが、あんな化け物相手にどれだけ持つのか…………。
抗いようのない絶望が、勇者一行の心を黒く塗りぶしていく。だが、そのような状況でも諦めない人物がいた。
「まだ……だ! 俺は……まだ……戦える……!」
大剣を杖代わりにして、スヴェンはボロボロの身体を立ち上がらせる。時折膝が、がくんと折れては何とか立て直し、体重を武器に預けて立っているのが精一杯の状況だ。
誰が見ても戦闘をする事など不可能な状態だ。しかし、その目だけは光を失ってはいなかった。
ガミジンはそのようなスヴェンの姿を目の当たりにし、不愉快さを感じていた。
「驚いたよ、まだ動けるなんてね。でもそんなざまで何ができるんだい? それはスヴェン、君にだけ言えることじゃない。君達全員これ以上戦いを継続する事は困難な状況だ。生も魂も尽き果てる寸前。後はこのままアンデッド達に殺されて、僕のコレクションに加わるだけなんだよ! だから、とっとと諦めて死んじゃいなよ! 無駄な抵抗なんて止めてさぁーーーー!!」
「うるせーよ、俺は勇者だ……勇者は正義の象徴……正義は負けるわけにはいかねーんだよ。特に……お前みたいな根っからの悪者にはな!」
「そうかい、それじゃあ、その悪者に殺されるんだね、正義の味方! やれ!!」
憤るガミジンが骸の竜に命令を下し、その巨大な腕が振り上げられる。全長30メートル級の怪物は腕の大きさだけでも一般的な建物と同じくらいの高さを誇る。
1軒の家屋がまるまる飛んで来ようとする状況の中、夜空に白い光が広がり周囲を照らし出した。
その白い光は瞬時に巨大な手の形を成し、町の中央部に出現した黒竜の顔面を鷲掴みにすると、そのまま地面に思い切り叩き付けた。
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