第104話 魔王も適性確認やってみた

 その後、彼が促すままに魔王軍の他のメンバーも魔力値の測定を行った。結果は、アンジェの言う通りに皆Sクラスであった。

 それは彼らの様子をうかがっていた周囲のギルド員達にも知れ渡り、このギルド協会支部の熱気は最高潮に達していた。

 皆口々に、「俺は最初から分かっていた……あいつらが只者ではない事を」とか「傭兵ギルドに新星が現れた」などと適当な事を言っていた。


「なんだあいつらは……さっきまで俺達を腫物のように扱っていたくせに」


「マスター、傭兵ギルドの人間なんて大抵あんな感じよ。掌返しの凄さで言ったら彼らの右に出る者はいないわ。気にしても仕方ないし、無視していた方がいいわよ」


 トリーシャの酷評を聞いた、荒くれ者達の何人かは睨みを利かせてきたがトリーシャやドラグが睨み返すと、逆に怯えて視線をそらし後ろの方に下がっていった。

 アラタには彼らが微妙に震えている様に見えたが、それは見なかった事にした。小動物のように震える強面の男達の姿は違和感バリバリであったのだ。

 

「あのー、もしよかったらあなたも魔力測定してみませんか?」


 男性職員がアラタにも魔力値の測定を促してきたが、当人は遠慮する。


「俺は魔力ないんで意味ないですよ」


「それなら大丈夫です。この魔道具は魔力だけでなくマナも測定し、そこから予想される魔力値を算出しますので」


「え? そうなの? それなら……やってみようかな……」


 実のところ、魔力のない魔王はこの魔道具に興味津々であり、自分もちょっと測定してみたいと密かに思っていたのだ。

 ドキドキしながら測定器であるスフィアに手をかざす。魔王軍全員もスフィアの表示に注目していた。

 さらに、彼らを取り囲むようにしているギルドの者達も固唾かたずを呑んで見守っている。

 その時、突然スフィアが今までとは違う発光をし始めた。表示も次から次へと変化している。

 そして、一瞬だがスフィアに、文字が表示される。


『属性:不明  適正タイプ:……リビト  魔力値:SSSS』


 間もなく表示は消失し、魔力測定用のスフィアはガギギギと鈍い音をたてると発光が止んでうんともすんともいわなくなってしまった。


(あれ? これ……壊しちゃった? …………ヤバくね?)


 アラタが青ざめて皆の方を見ると、彼らも同様に青ざめ表情は引きつっていた。恐らく全員同じ事を考えているのだろう。


((賠償額……いくらかかるんだろう……))


 魔王軍の金銭的蓄えは充実しているとは言い難い。貴重な魔道具を破壊したとあっては、おそらく全財産を支払ったとしても足りないであろう。

 そう考えていると、アンジェとトリーシャ、そしてセレーネの3人が意を決した面持ちで頷き合っていた。


「アラタ様、私達3人は少しおいとまをもらいます」


「え? どこに行くの?」


「この町の西側には、そういう類の店が多数あるという事なので、指名の数次第ではありますが数日あれば、ある程度まとまったお金が手に入るはずです」


 アンジェがそう言うと、後ろでトリーシャとセレーネが頷いていた。どことなく悲しそうな表情をしている。


「マスター……安心して、お金で苦労はかけないから。だから、例え私達が穢れたとしても嫌いにならないで……」


「どわわぁー! ストップ、ストーップ! 一体どこで働く気だよ!? それは却下! 俺の責任なんだから俺がなんとかするよ」


「では、一体どうするのですか? ……! まさか、アラタ様……ご自分の身体を使って荒くれ者相手に?」


「……おい、そこの変態メイド! 今何を考えた? ……いや、言わなくていい。言わなくていいから!! ただ、その妄想を今すぐやめなさい!」


 女性3人とアラタの終わりのない問答が続く中、ギルド職員の男性が話に入って来る。


「スフィアの弁償の事でしたら、別に必要ないですよ? そこまで高価なものではないですし、結果に納得のいかなかった人によく壊されたりもしますから、問題ありません」


「「……本当ですか? 良かった、本当に良かった!」」


 安堵する魔王軍の面々、最悪のシナリオは無事回避されたのであった。

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