第100話 ファイナルアンサー

 連敗続きの彼の元に今度は、セレーネがやってきた。彼女はついこの間までドラゴンだった人間である。

 果たして、こちらの常識が通じる相手かどうか疑わしい。そして、ニコニコ顔の彼女が見せたのは右手に白いちょっと露出度高めのワンピース、左手に黒いおとなしめのチュニックであった。


「アラタちゃん、どっちがいいかしら?」


(…………形も色も違うんですけど……)


 今度は更に難易度が上がっていた。色どころか形状も異なる、それぞれ全く違う衣類を比較対象として持ってきたのだ。

 アラタは何度も彼女の右手と左手に視線を動かし、それを彼女が着た状況を想像していた。

 結果、白のワンピースは過激すぎて日常的に着るのには適さず、黒いチュニックならば、普段着として申し分なく色的にも元ブラックドラゴンの彼女に親しみやすいと考えた。

 何処かで某クイズ番組の如く「ファイナルアンサー?」と言われた気がした彼は、しばらく考え込むような顔をしていた。そしてカッと目を見開く。


「ファイナルアンサー!!」


「え? ふぁ、ふぁいなる? ……へ?」


 突然目の前で意味不明な言葉を繰り出す魔王に、セレーネは目を白黒させる。


「黒のチュニックでお願いします!!」


 異常な気迫の中、彼の出した答えに対し、セレーネの反応は――ちょっと渋い表情であった。


(またか――)


 考えに考え抜いた結果が間違いであった事で、彼の心のライフポイントは0になっていた。

 うなだれる彼を不憫ふびんに思ったのか、アンジェとトリーシャが救いの手を差し伸べる。


「私達としてはアラタ様と同意見であったのですが、セレーネはそのワンピースの方がいいと言っていまして……」


「……そうなの?」


「だって、今まで1000年以上も黒一択の生活だったのよ? せっかく人間になったんだから別の色を試してみたいじゃない?」


 そう笑顔で言いながら、彼女は胸元が大きく開いた白いワンピースを両手で持ってひらひらさせている。

 

「確かに、色については納得がいったけど、それなら白いチュニックとかでもいいのでは?」


「それは……こっちのほうがアラタちゃんが喜ぶかなって……」


 セレーネがそう言うと、アラタは間髪入れずにアンジェ達の方に無言で目を向ける。すると、はぐらかすように視線を合わせないようにする2人の姿がそこにあった。

 どうやら、アラタが比較的スケベだという事実は、魔王軍の女性メンバー全員に知れ渡ってしまったようである。

 その後、この店でセレーネは白いワンピースに加えて白いチュニックも購入した。今回彼女の服を複数そろえる目的であったので当然と言える結果か。

 ついでに、アンジェとトリーシャも彼女に便乗して選んだ服を購入していた。


「さて、皆の所に帰って昼食にしよう!」


 女性の買い物に付き合うという、リア充イベントをこなしたアラタは精神をすり減らす思いをしながらも、少し成長したような気分になり心は晴れやかであった。

 だが、ここで彼は自分の耳を疑う発言を聞くのである。


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