第6章 魔王軍レベルアップ
第98話 いざ、ショッピングへ
翌日、魔王軍はアグノス山を下山し始めた。
セレーネ曰く、今までは彼女がアグノス山の周囲に結界を張っていたため、凶悪な魔物が近づけない状態であったが、その結界は既に消失してしまったので、魔物がこの山に入り込んで来るのは時間の問題であるという事であった。
そのため、厄介事に巻き込まれる前にとっとと下山し、一旦近くの町で体勢を整える事にしたのである。
現在セレーネはアンジェの服を借りてはいたが、依然としてピチピチ感がいなめないので、衣類の購入が急務であった。
また、簡単な確認によると、彼女は強力な魔力を持っている事が分かったので後はどのような戦闘スタイルが適しているのか調べる必要があった。
上手くいけば、すぐに即戦力として活躍してもらえる可能性があるので、道中はその話題で賑わっていた。
「出来れば、私と同様に遠距離攻撃型なら、物凄く助かるんですが……何分、我々は近接戦闘系が多いですから。それにアンジェは回復支援に回ることも多いですし……そうなると、遠距離支援は実質私1人になるので……」
セスの訴えは切実であった。実際問題、魔王軍の戦力は接近戦主体のメンバーが多いため、集団戦闘をする際の遠近攻撃のバランスが悪いのだ。
一応、近距離メンバーが遠距離攻撃をするケースがあるが、セスの魔術と比較すると威力に大きな差があるので
そのため、セレーネが遠距離支援を得意とするのなら一気にこの問題が好転するのだ。そのためセスはずっと「魔術士タイプ、魔術士タイプ……」と祈りとも呪いとも取れるような1人事をブツブツ言っているのであった。
その2日後、魔王軍は宿場町エトワールに到着していた。
エトワールは、アグノス山を境にしてハンスとは逆の位置にあり、周辺では魔物も多く出没するため傭兵ギルドも多く在中している。
それゆえ、傭兵ギルド所属の魔闘士専門の武器屋や魔道具屋が豊富に揃っている。他にも、彼らをターゲットにした店が多々見られるのだ。
エトワールは、ギルド協会が主体となって作り上げた町であり、ギルドに所属する者が多く住み栄えていた。
このような場所は世界中に点在しており、国の力が及び
国の庇護がある首都や重要都市以外の辺境においては、自衛の為にギルド協会の協力が必要不可欠であり、ギルドという組織が強大になるのも当然と言える。
「やっとエトワールに着いたわね。早速セレーネの服を買いに行こうよ!」
「そうね、さすがにその格好のまま町中を歩くのは何ですし、速やかに身体に合った衣類を購入するのが最優先でしょうね」
そのようにトリーシャとアンジェが急かす視線の先には、未だピチピチの服に身を包むセレーネの姿があった。
一応、マントを羽織って目立たないようにしてはいるが、もしもそれが外れたら周りが騒ぎになりかねないので、彼女の名誉のためにも……という考えであるらしい。
「では、魔王様3人をよろしくお願いします」
「えっ? 俺だけ? セス達はどうするの?」
「我々は宿屋の手続きですとか、魔石の換金等の用事を済ませておきます」
「そうか……でも、あと1人くらい誰か来ても……」
「「…………」」
その一言に一瞬の間が出来る。そこに何か嫌な予感をアラタは感じていた。
「ほら、これから女性服専門店とか行くだろうし、そこに男が複数人で行くのも……あれじゃないか?」
「確かに! それに拙者はそういった場所では目立つので今回は遠慮させていただきます」
「私は年寄りなので休ませてもらいます」
妙に歯切れの悪いロックと次々に自分は行けないと主張するドラグとバルザスに怪訝な目を向けると、彼らは少しばつが悪そうな表情をする。
「……おい、なんかおかしくないか? 妙に連携が取れてるなお前達。それにバルザス……自分を年寄り扱いするなんて初めて聞くけど」
一瞬焦りを見せながらも、すぐに平静を装いバルザスは突然腰をさすりながら、「腰痛があるので休ませてほしい」とアピールしてくる。
「魔王様、これは社会勉強ですよ。ここエトワールでは衣類専門店も豊富にありますし、楽しいと思いますよ」
「そうそう! それに女性の買い物に同行するんだぜ、リア充じゃないの? 前に言ってたろ? リア充になりたいって」
「……それは、まあ、そうだけど……」
アラタはやはり違和感を感じていた。普段、戦闘以外でセスとロックがこんなにも話を合わせてくるのは見た事がない。
どうにも、彼らが自分に面倒事を押し付けようとしているような気がしてならない。
「もしかして、単純に女性の買い物に付き合いたくないだけなのでは?」
その一言に、ビクッとする屈強な男4人。妙に笑顔なのが逆に怪しさを際立たせていた。
「マスター、早く行こうよ」
そこにトリーシャが来て、アラタの手を取り早く買い物に行きたいと急かし引張って行くのであった。
「ちょっ! まっ! トリーシャ、引張らないで」
「はいはい、行きますよー」
アラタの左腕を抱きしめるようにして、彼を強制連行していくトリーシャは非常に嬉しそうだ。
一方の魔王も、左腕を包む女性特有の柔らかさと温かさに幸せを感じ、他の男達の怪しい行動の事など頭の中から吹き飛んでしまうのであった。
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