第22話 アポロの頂で

 どうやら、火竜の子供の名前の案が浮かんだようだ。

 アラタの顔には不敵な笑みが浮かんでおり、どうやら余程考え付いた名前にそれなりに自信があるらしい。


「いいのが思いついたぞ。炎を意味する〝フランベルジュ〟っていう剣から名前を頂戴致しまして、〝フラン〟っていうのはどうかな? いい線行っていると思うんだけど」


「ええ~、ファイヤー丸やドラゴン太郎の方が強そうだし、かっこよくないか?」


「ロック。お前は黙っていろ。ネーミングセンスが壊滅的だ」


「確かに。当人の反応も今一のようですし」


 ロックの放った名前に対し火竜の子は微妙な表情を見せており、セスとドラグが非難の声を上げる。

 一方でアラタの〝フラン〟に対しては笑顔を見せ、元気よく反応している。


「どうやら決定のようですな。今後はこの子を〝フラン〟と呼びましょう!」


 ロックは少しの間、残念そうな表情をしていたが、〝フラン〟と呼んで懐いてくる火竜の子供と遊ぶうちに、彼の中でもすっかりこの名前が定着したらしい。

 後でドラグが聞いたところ、ファイヤー丸やドラゴン太郎の名前をすっかり忘れていたという。

 こうして〝フラン〟と名付けられた火竜の子供はアラタの左側を定位置として元気に歩いていた。

 その姿を見ながらセスはいたく感心している様子だ。


「それにしても、昨日はあれだけ弱っていたのに、もうこんなに元気になるなんてドラゴンの生命力はすごいですね。あらゆる書物にもドラゴンは長寿で強靭な身体を持っている最強の生物と記されていましたが、こうして実際に目の当たりにすると大袈裟おおげさな話ではなかったようです」


「確かに。ドラゴンの寿命は千年以上ありますからな。特に千年前の神魔戦争で活躍した、かのブラックドラゴン様は現在もご存命だという話です。拙者としては一度お会いしてみたいものです」


「伝説のドラゴンか。そりゃあ凄いな。名前から察するにきっとかっこいいドラゴンなんだろうなー。俺も会ってみたいなー」


「他にもいろんな種類があるぜ。中でも俺はウインドドラゴンが好きだな。ドラゴンの中で飛ぶのが一番速い種族なんだよ。やっぱり、ドラゴンと言ったら飛んでいる時のかっこよさに惹かれるよなー」


 竜族の種類としては、ブレイズドラゴン、ウインドドラゴン、アクアドラゴン、グランドドラゴン、ブラックドラゴン、ホワイトドラゴンが存在しており、各々が火、風、水、地、闇、光のマナの加護を持っている。

 これは精霊とも強い因果関係を持っており、互いに属するマナの守護者として一般的に認知されている。

 今回、炎の精霊であるイフリートがまつられている聖山アポロにブレイズドラゴンが生息しているのがいい例であり、この山に存在する潤沢な火のマナをかてとしているのである。

 男達はそんなドラゴン談議に花を咲かせており、ソルシエルの竜族について詳しく知らないアラタもRPG等に出てくるドラゴンの話を持ち込み参加していた。

 特にドラグは異世界のドラゴンの話に目を輝かせているようである。

 竜人族はドラゴンに近しい外見をしているが、一族を挙げて全員がドラゴンマニアであるらしい。

 そして、特に魔物と遭遇する事もなく、一行は山頂まで辿り着いた。

 山頂の火口にはマグマがボコボコと音を立てており、大量の煙が立ち込めている。その状況を見て、アラタに不安感が押し寄せていた。


「あんなにマグマがせり出しているけど、爆発したりしないのかな? この状態で噴火したら、俺達は確実に終わるぞ」


 そんなアラタにバルザスが丁寧に説明を加える。


「それに関しては問題ありません。このアポロに限らず、活火山の活動にはイフリートを始めとする炎の精霊が関与しており噴火しないようにコントロールしているのです。このようにソルシエルの自然現象には、該当する精霊が関わり調整を施しているので、心配には及びませんよ」


「へー、そうなんだ。それなら良かった。とりあえずは安心ってことか」


 その説明を受けて、アラタの中で精霊が人々の間で如何に重要視されているのかがに落ちた。

 ソルシエルの自然を精霊が管理している状況で、もし精霊が人間等と敵対するような状況になってしまったら、火山を噴火させたり、大洪水を引き起こしたりして一瞬で滅ぼされる。

 それが分かっているから、畏怖と敬意を持って精霊は崇められているのだ。


 そんな時だった。火口のマグマの一部分が一気にせり出し像を成していく。

 それは上昇しながら形を変えていき、アラタ達の目の前に来た時には上半身は屈強な肉体を持つ男性、下半身は巨大な炎の塊となって顕現けんげんし、全身燃えているランプの魔人のような外見となった。

 その圧倒的な存在感に、魔王軍一行は息を呑み沈黙してしまう。そんな彼らを見てイフリートが口を開くのであった。

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