35.タクマ王
さて、ご対面だ。
俺たちが領主館に近づくと20名ほどの騎士たちが槍を構えて誰何してきた。
「メライト侯爵!その後ろの男は誰だ?」
と、一番偉そうにしている派手な鎧を着た騎士が尋ねてきた。
「なんだお前ら?学習能力ってもんがないのか?俺は星野友朗だ。タクマが俺に会いたいってわざわざメライト領まで来たらしいんで会いに来た。」
「待て、今国王陛下にお伺いを立ててくる。」
「うるせぇ。通るぞ。」
俺は騎士たちが槍の柄で塞ごうしているところを悠々と歩いて押していった。
無魔法の魔力壁を自分の前に展開して押しているのだ。
俺は庭先まで入って庭の中にいた騎士たちとも対峙した。
庭には50名ほどいるだろうか。
俺は魔力壁で俺と一緒にマローンたちも包んでいった。
「おいタクマ。お前が俺と会いたがってると謁見を申し込んできたそうだから来てみたが、なんでこんなに騎士がうようよいるんだ?お前、俺と又ケンカしに来たのか?お前が申し込んできた会見だろう。お前が迎えに出てこんか!」
と領主館に向けて殺気とともに大声で言った。
領主館からはわらわらと貴族と思われる男たちが出てきた。
「国王陛下に向かって何たる口の利き方。頭が高いわ。おいお前たちそのものを膝まずかせろ!」
と吠えだした。
それら貴族どもをかき分けてタクマが俺の前まで来て膝まずいた。
それを驚きをもって貴族たちは見て口々に
「国王陛下、御立ちください。こんなわけのわからない、出自もあやふやなものにひざまづく必要などございません。おいそのものを打ち据えろ。」
「ならん!!王国をつぶすわけにはいかんのだ。異邦人様、なにとぞお許しを。」
そう言って土下座の姿勢になった。
「お前な。その姿を貴族に見せつけて、俺への怒りをあおってるだろ?
前回の時もお前のうさん臭さには気づいていたんだけどな。さすがに国をつぶすわけにもいかんだろうと、賠償金程度で引いてやったんだ。おい、タクマ。お前、メライト領に嫌がらせをしに来たな。メライト領に手を出すとどうなるか、先日言っておいたはずだが。」
俺はそう言いながら頭上に大きな火の玉を浮かべた。
直径5mほどの火の玉だ。
向こうが威嚇するつもりならこっちからも威嚇してやる。
「王族はお前を入れて後何人残ってるんだ?」
俺は火の玉を徐々に大きくしながら聞いた。
俺やマローンたちにはシールドのおかげで何も感じないが、国王たちはその火の玉の熱でかなり熱いはずだ。
「お前は俺との和解の条件を破って兵をあげてメライト領に乗り込んできた。これは和解の意思がないとみなす。覚悟はいいか?」
と聞いた。
「お…お待ちください。この者たちは私が止めるのも聞かず兵を連れてきてしまったのです。私に異邦人さまに逆らう意思はございません。」
震えながらもようやくそう答えた。
俺はふ~っと息を吹いて、火の玉を消した。
周りは火の玉が消えてほっとしたようだ。さっきまでぎゃんぎゃんほえてた貴族も座り込んでしまった。
「おい、タクマ。お前今自分で自分の部下は私の言うことを聞いてくれません。私はそんなつもりはなかったのに部下が勝手に兵を上げてメライト領に押し寄せてきたんですって言ったってことは理解できてるのか?」
俺はタクマを見下ろしてそう言った。
「なんたる無礼な!由緒あるゼクウ国王に無礼を働くこと許さん!」
と、何人かの騎士が抜刀して切りかかってきた。
しかしシールドがあるから、近寄ることもできずにいた。
俺はそいつらをちらっと見てウィンドカッターでその騎士たちの首を飛ばした。
ひぃと情けない声をあげながら、他の騎士たちは後ずさった。
「あのな。こんなこと言いたかないけどお前んとこのぼんくらな王は、お前らに非があって自分には非がないとさっき宣言してたんだぞ?その上土下座までして許しを乞うてるんだ。
その相手に向かって抜刀して切りかかるお前らって誰の立場を守ってるんだ?さっきこのタクマが言ったことは王として和解を受け入れたのは嘘じゃないと宣言したんだ。つまり、この場で和解の邪魔をしているお前たちは俺の殲滅対象になってるってことはわかるか?」
俺は一通り周りが黙るのを待った。
そしてタクマを見てこう言った。
「お前は今まで王太子、国王としてみんなから、かしずかれるばかりだったから、わからないのかもしれないが、さっきからよく吠えてたそこのじいさんなんかは、お前をうまく利用しようとしか考えてないぞ?俺のことをなめてかかって、これだけいれば負けないと平気で暴力に訴えてるんだからな。お前たちは貴族ってやつを勘違いしてるようだな。貴族っていうのはな、民のために一生懸命働いて、民の幸せを守るのが義務だ。そしてそれを束ねるのが王であるお前の役目だ。それができないんなら王なんてやめちまえ。」
俺はそう言ってタクマを見たが、タクマは何も言い返さなかった。
俺は腰につけたマジックポーチから2冊の本を出した。
「これは俺の家の初代、星是空が書いた是空日記だ。この国が建国当時どういうことがあったのかが書かれている。それにこっちは未来へ告げるという、今の状況を危惧したゼクウさんからの遺言だ。そしてお前たち。お前たちの先祖はそれぞれが魔物を狩る兵士だったり、剣を作る鍛冶屋だったり、農家だったり商人だったんだ。わかるか?別にお前たちが特別じゃないんだ。お前たちの先祖がこの国にとって特別だっただけだ。なんで特別だったのか。それは民のために働いたからだ。民が幸せになったからだ。だから特別待遇を許されたんだよ。で、お前たちは何だ?その先祖が今のお前たちを見てさぞ恥ずかしい思いをしてるだろうな。」
何人かが抜刀して切り付けてきたのでそいつらの首も飛ばした。
「おいタクマ。今の俺の話も分からんような馬鹿ばかりだと国交なんか無理だぞ。」
「はい。そうかもしれません。しかし、私の話を聞いてもらえませんか。」
「俺はお前の話を聞きに来たんだ。話なら聞いてやるよ。その代わりこいつらがいるとうるさくて話にならんだろう。こいつらは連れてきた騎士たちもろとも全員打ち首にしていいな?」
俺がタクマにそう問いかけると
「お待ちください。異邦人様。この者たちは私を思いやるばかりに暴挙に出てしまったのです。なにとぞお許しください。」
「だから。お前はもうそれ以上しゃべるな。」
俺はそう言って騎士と貴族連中に睡眠の魔法をかけて眠らせた。
騎士たちはその場で崩れるように倒れた。
「な…。」
タクマは絶句していた。
「ああ、もうお前がしゃべるたびに俺はお前の話を聞く気が失せてくるんだよ。お前はさっきこいつらが王のことを思って行動に出たといったな?本当にそうか?お前は本当にこいつらがお前のことを敬ってかばっていると思うのか?それが王が話しかけようとしている相手に抜刀するという行動を生んでるのか?」
「このままでは我が国は滅んでしまいます。なにとぞお力をお貸し下さい。」
「初めからそう言えばいいものを。それを何でこいつらにも聞かせてなかったんだ?そのせいでこいつらは死んだんだぜ?」
俺は眠らせたことは言わずにタクマに己の浅はかな行動を考えさせた。
「マローン、部屋で紅茶でも飲ませてくれ。しゃべりすぎてのどが渇いた。おいタクマ。お前も一緒に来い。」
そう言ってタクマを連れて、屋敷に入っていった。
そこにセバスが紅茶を入れてすぐに持ってきた。
「さすがセバスだな。よく気が利いて助かるよ。ああ、庭を少々汚したから掃除しといてくれ。大半は寝てるだけだが首が飛んでるやつらもいるからな。頼む。」
とセバスに庭の後片付けを頼んだ。
その時になってタクマはようやく後で倒れた者たちがまだ死んでいないことに気が付いた。
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