34.おにいちゃ

「友朗はゼクウ王国と国交を結ぶにあたって、どんなことを危惧しているんだ?」

 と親父が聞いてきた。


「まず、そこまで理性的な国民ではないということ。これはみんなに見てもらった映像でもわかったと思うけど、魔物がうじゃうじゃいて、常に死が身近にあることからも仕方ないことだとは思う。しかし、特権階級である貴族や王室が威張ってばかりの無能が多い。これはすでにメライト領に大量に入り込んでいる他領のスパイを見てもわかる。そしてこれは日本と国交を結んだ後にも行われていく行為だと思う。すると当然、そういうやつらを利用しようとして日本側の利権を持っている連中が黙っているはずもない。」


「まあ、そうなることは十分に考えられるか。でも今は何とか日本側での情報は守られているんだろ?」

「うん。これにはマローンに協力してもらって大量の魔法契約書を用意してもらったからね。メライト側の情報はしゃべれなくなっている。でも、知らないわけじゃない。つまり、いつかは日本側でも情報が拡散する恐れはあるんだ。」


「そうなってくると、日本でもうるさいやつらが大勢出そうだな。」

「うん。今のところメライトとの行き来する場所はここにしかないからね。ここが日本政府に占有されるのはすぐだと思うよ。」


「……今、トモロウ、ちょっと変なこと言ったな。俺の聞き間違いじゃなければお前今…。」

「ああ。今のところって言ったよ。俺は是空さんの残した魔法大全、魔道具大全、薬術大全、錬金術大全を唯一読破して、その検証も終えているからね。時空渡りの門は俺にも作れる。」


 それを聞いてみんなは驚いた。


「ただ、この技術。日本で作れることがばれると、それこそ世界規模での戦争が起こる可能性もあるんだ。わかるだろ?いろんなところに兵士を送り込むこともできるし、爆弾を送り付けることもできるんだ。だから、俺はこれらの技術を秘匿編に入れている。世界が変わる可能性があるからね。」


 みんなはその意味を理解していた。


「で、なんだけどある程度限定で国交を開こうかなと思っているんだ。」

「限定?」

「うん、限定。情報も人の行き来も限定する。それを決めるのはここにいる星野家と朝峰家とメライト家にしようと考えているんだ。そしてその辺の事情を踏まえて俺は皇室のえらいさんと会うために早急に行ってこようと思ってるんだ。」


「友朗。お前の身は大丈夫なのか?」

「うん。マシンガンで撃たれても多分死なないよ。シールドの魔道具もあるし、拘束されたらまだみんなにはお披露目してないけどテレポートの魔法もあるからね。すぐに戻ってこれる。」


 俺がそう言うとみんな驚いたようだが、安心もしてくれた。


「それで、その情報を絞るための根拠を『是空日記』と『未来へ告げる』に求めたいと思うんだ。この2冊をもって明日ゼクウ国王に会ってくる。そして、その次の日にでも皇室に行って来るよ。」


「お前が始めたことだからな。お前が決めればいい。俺たちはお前の家族として間違ってると思えば止めるし、いいことだと思えば手も貸す。ただそれだけのことだ。」

「うん。俺はポンタやこの家族を守るためにも頑張ってみるよ。」

 俺はそう言って家族会議を終了した。


 翌朝。俺は最近やたらといろんなところを走り回っているポンタと追いかけっこをして、朝の鍛錬を終えた。ポンタはキャッキャと喜んでいた。

 ポンタを菜月に預けて、俺はメライトに向かおうとした。

 その俺の袖を引いて菜月が止めた。


「あなた。必ず無事で帰ってきてね。実は昨日の夜分かったんだけど、私妊娠しているようなの。3か月ぐらいだと思うわ。今日にも産婦人科に行こうと思っているの。」

 俺は突然そう告げられて、びっくりした。

 そうか、俺も新たに子供ができるのか。

 俺はうれしくて思わず菜月を抱き上げた。

 ポンタも一緒にだ。


「そうか。ありがとう。おかげでもっと頑張ることができそうだ。くれぐれも身体に気をつけてな。母さんにも言って、病院にもついていってもらわないと…。母さん!!」

「大丈夫よ。そのあたりはもうみんなに話してあるから。お母さんもついてきてくれるそうだから安心して。」

「そうか。いや~うれしいな。これでポンタもお兄ちゃんになるんだな。男の子かな?女の子かな?どっちでも健康であればいいね。ポンタお兄ちゃんもしっかりお兄ちゃんしないとな。」

 俺は菜月を下ろして、菜月が抱いているポンタの頭をなぜた。


「おにいちゃ?」

 とポンタはかわいい。

「そうだお兄ちゃんだ。」

 俺はにこにことポンタを撫でまわした。


「あなた、そろそろ行かないといけないんじゃない?」

 と菜月に促されるまで二人を撫でまわしていた。

「ああ、そうだな。よりによってこんなめでたい日に。チッ。」

「もうそんな舌打ちしないの。頑張ってきてね。」

「おう!」

 と俺は菜月にキスして、ポンタの頬っぺたにもキスしてから、メライトに向かった。


 今の俺はかなり気合が入っている。

 気分が高揚してゼクウ王国ぐらいなら一人でつぶせそうだ。


 俺がニコニコとゲートをくぐってメライトにやってきたのを怪訝そうにマローンとマルクスさんは眺めていた。


「どうしたんだトモロウ。今日の会見はあんなに嫌そうだったのにえらく機嫌がいいな。何かいいことでもあったのか?」

「おう。マローン、マルクスさん。おはようございます。今朝わかったんですが、うちの嫁に赤ちゃんができたそうなんです。」

「おお、それはめでたいことだな。実は言いそびれていたけどうちの妻も身ごもったらしい。」

「おお。それはめでたい。一度日本の産婦人科で菜月と一緒に見てもらったらどうだ?日本の病院は清潔だし、産後も安心して過ごせるそうだぞ。」

 と俺はマローンとウキウキしながら話をした。


「まったく、いい大人が二人ともはしゃぐでない。今日は国王と会うことになっているんだぞ。ちょっとは気を引き締めろ。」

「いやいやマルクスさん。マルクスさんもにやけながらそんなこと言っても説得力がないよ。」


 こうして親ばかにじじバカはそろって笑いながら領主館に向かった。

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