32.ゴブリンでもできる
魔導回路は行書体の平仮名と漢字で構成されている。
一筆書きで書くときに立体交差する部分も考慮されている。
原理でいえば魔力インクを樹脂が覆っているひものようなものを使って魔力回路を描いている。
これが3Dプリンターを採用している理由だ。
それの両端に魔法を行使する人間の肌に触れるように接触面を作ると魔道具になる。
そうやって俺は魔道具作りに没頭していた。
そうそう。拘束具は使い方を間違うと奴隷の首輪のような使い方もできてしまうために、あえて作らずタイラップを採用することになった。
30㎝程のタイラップがあれば大抵の大男でも拘束することは可能だ。
街中を見回っている騎士たちは、腰からタイラップの束をぶら下げている。
相変わらずポンタは俺と離れたがらず、いつもまとわりついているがそれにも慣れた。
最近では日本で買ったおもちゃの車を魔道具化して走らせたり、空を飛ばしたりして遊んでいる。
そういえばポンタももう2歳になっている。春頃生まれたらしいので、今では2歳半か。
ちょうど誕生日のころに王国に行っていた計算になる。
誕生日が明確になっていないのは、メライトでの年の数え方にある。
メライトでの正月を迎えると、みんな一律に1歳年を取るという考え方のようだ。
日本も昔はそうだった。数え年というやつだな。
日本の暦に合わせると4/1ぐらいがポンタの誕生日になるんだろう。
日本の戸籍上はポンタを見つけた7月17日になっている。
源蔵さんは俺が翻訳した薬術大全の初級、中級、上級に洋子さんにイラストを入れてもらって、日本語版の薬術初級、薬術中級、薬術上級を完成させた。
それとは別に薬草の育成方法だけを抜粋した教本も作った。
これは洋子さんにマンガにしてもらって、『ゴブリンでもできる薬草の育て方』として印刷している。
その教本を使ってもうすぐ日本でも薬草栽培の教育を始めていくそうだ。
同じものをゼクウ語で編纂したものをマローンに監修してもらっている。
ゆくゆくはメライト領でも薬草畑を管理していく予定だそうだ。
また、源蔵さんは薬術大全の上級までの薬を調合して、それを日本の分析機関にかけてもらっているようだ。薬として販売するにはいろいろと検証が必要なのだそうだが、漢方薬やサプリメントとしての販売だと大分ハードルが低いようだ。効能はうたわず成分表記することで、それぞれの成分がどのような効能があるかを書く必要はある。
今、ひそかに大ブームを巻き起こしそうな塗り薬が目の前にある。
源蔵さんの悲願である毛生え薬だ。
少し薄いかなというぐらいだったが今ではふさふさになって艶もいい。
実は女性も高齢の方は薄毛で悩まれている方が多いそうだ。
これを「朝峰育毛剤」と銘打って販売していくそうだ。
ゼクウ王国の宝庫にあった薬剤調合機はすでに解読して、日本製の新しい調薬機が調合施設に据え付けられることになる。
薬剤調合などは埃も嫌うために別にクリーンルームを備えた調合施設を建造している。
これが完成すると量産体制も出来上がることになる。
朝峰一族から人を選抜して調合チームがすでに訓練をしている。
元の源蔵さんの家の裏の畑はすべて薬草の畑に切り替わっている。
従来作っていた野菜はうちの畑で作るようにしている。
何せ人数が多くなってきているので、別途食堂を作って、そこで調理師も雇ってみんなに食事を出している。
おかげで母さんたちの負担はだいぶ減ってほっとしているらしい。
朝から晩まで食事作ってたからね。ご苦労様でした。
それでも我が家で食事している人は多く、母さんたちもそれぐらいならと頑張ってくれている。
うちの周りはちょっとした街になっている。
全部がログハウス風というのが少し異様かもしれない。
今のところポンタ商会は年間に2億ほどの出費となっているが回収は0のままだ。
税務申告は国税局公認で皇室の管轄枠での申告を行っている。
歳出名目は様々な物品と薬草の開発となっている。
これでも株でなんとか会社を支えられてはいるので良しとしておこう。
おかげで株取引での経費計上でこの2億は相殺されている。
今では年間10億ほどを株取引でコンスタントに出せている。
相変わらず感は冴えていて、今のところ失敗はない。
毎朝株式市場はチェックしているけどね。
やはり俺の思い過ごしではなく、気の循環の訓練をしている人は魔力量も増えているし、運動能力や頭の回転が結構速くなっているようだ。
それに気づいたころに源蔵さんにそれとなく話すとやはり源蔵さんたちも実感しているようだ。
集中力が増して、単純作業も苦にならなくなっていたり、細かい作業も早くできるようになっているらしい。
それと身体能力向上の余波か、視力も回復しているそうだ。
実は薬術大全の中にも視力回復薬はあった。
しかし、それを服用しなくても改善が見られたのだ。
そのため、今洋子さんにお願いして朝峰家限定で配布するための、『ゴブリンでもわかる気の育て方』というマンガを描いてもらっているようだ。
それができたら俺たちにも分けてもらおう。
東京の道場の子供たちにも是非読んでもらいたい。
元々は星野家の技術だからね。
じいちゃんにそう言うと嬉しそうにしていた。
じいちゃんは説明下手というか、なかなかその辺はうまく教えられなかったらしい。
これからどんどん普及していけば優秀な子供が増えるなと思っている。
一方で、この洋子さんが書くゴブリンシリーズの説明役のゴブリン君がメライト領で爆発的な人気になっているそうだ。
急遽慌てて、ゴブリンはあくまで魔物なので不用意に近づかないようにという巻末注意を付け足したぐらいだ。
頭が良くて、ユーモアがあって、一生懸命勉強している姿のゴブリンはゴブオとゴブコとして、メライトの家庭に浸透している。
ゴブリンでもできるんなら俺だってと挑戦者も後を絶たないようだ。
現在、印刷部数は生活魔法が1万に達している。
ポンタ商会の魔法教室は連日満員だそうだ。
併せてかるたや絵文字板なども売れているという。
かるたも2,000セットまで増刷した。
この状況は早い段階から予想できたので、印刷は東京の印刷所から朝峰系列の印刷所に変更している。
朝峰印刷の社長は、特需になったこれらを大喜びで印刷してくれている。
次に印刷で企画しているのは日本の紙芝居と絵本だ。
意外にも菜月も結構イラストを描くようで、この話に意欲的だ。
現在いろいろと仕事が殺到している洋子さんの手伝いをしながら、タブレットで少しずつ書き進めているようだ。
ゼクウ王国では娯楽が少ないようなんだ。
かなり早い段階から目のいい商人が魔法教本マンガに注目していて、何とか売ってくれと引き合いが切れないらしい。
当面の間、メライト領で秘匿技術としておくそうで、公開は予定していない。
しかし、メライト領の人たちが次々に魔法を使うのを魔法協会が見逃すはずもない。
魔法協会からの技術公開を迫られたが、これを軍事技術だとマローンは言い張って、公開していない。いずれ公開せざる負えなくなるとは思う。
が、それでも「気」の操作の部分だけは絶対に公開しないそうだ。
あくまで気の操作については、星野家の独占技術だとしているらしい。
まあ、それで何事もなければいいなと思っていたが、やはりそうはいかず年末近くなって、マローンがまた俺に話があると真剣な顔をして申し訳なさそうに話しかけてきた。
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