19.宮内庁との面会

 こちらが指定した日時で宮内庁の職員が5名俺の自宅を訪問した。

 それぞれ、山本、田中、水瀬、川口、谷田と名乗った。

 しかし、あいさつではどこの所属かは伏せられていた。


 話はいきなりポンタの話から始まった。

 どうやら1,000年前の朝峰家であった出来事の模様は、克明に皇室に文書として残っているようだ。それらと照らし合わせてポンタが異世界の住人ではないかと、推測が立てられたそうだ。そして相次いで市長からの複数に及ぶ戸籍創出。

 これらをもって異世界との交流が再開されたと判断したようだ。


 俺は事ここに及んでしらを切る気はなかった。

 俺はこの宮内庁を巻き込むことにした。

 どうせどこかで国の機関と取引しないと、メライトの改革もできないし、メライトからの薬も手に入らなくなる。

 宮内庁と皇族はそこを心配していたようだ。

 交流が途切れると地球では作れない薬が入手できなくなる。

 本来なら厚生労働省の管轄だろうが、元から宮内庁の手配で気づけた案件である。


 俺はある種の治外法権を勝ち取った。

 メライトとの交易には無税とし、宮内庁職員もそれらにかかわらせるという条件を飲んだ。

 皇族からは先祖が大変お世話になった一族のため、何かあったら全面的に協力するように密命を帯びていたそうだ。

 うちに来た5名はそれぞれ昔から皇族の影の実行部隊として動いていた五族らしく、今後もそれぞれの一族から派遣されてくるようだ。


 急遽、また俺の敷地に宮内庁の出張所を立てる必要が出てきた。

 今建設中のメライト家の隣に同じようにログハウスで建てることになった。

 これらの費用は宮内庁から出るようだ。

 俺は今後のこともあり、今までの経緯をすべて話した。

 その上で、皇族認定でメライトとの通商を認めてもらい、その対価として有草の納品を迫られた。

 俺は正直にメライトでもエリクサーはなかなか作れないらしいので、努力はするがその納品を待ってもらった。


 俺は宮内庁の5人を連れてメライト領主を紹介し、宮内庁からは先祖の皇族がお世話になったということで日本の刀や着物、焼き物などを献上した。


 メライト領主からは、エリクサーの製造方法の解明に協力すると誓約を取った。

 

 事ここに及んでこれらのことを王族に報告しないわけにはいかず、宮内庁職員が持ってきた献上物をそのまま国王に献上するように助言を受けて、急遽マローン夫妻とスフィアとともに、王都に向かうことになった。


 今から用意して、3日後に出立することになった。

 宮内庁側もそれを了承し、一度日本側に帰り、皇族にご報告することと、さらなる献上品と感謝状を携えて戻ってくると言った。


 それから俺たちは一度日本に戻り、さっそく王都に向かうための用意をしだした。


 まず、朝峰工務店に連絡してもらい、もう2棟同じものを建設してもらうことにした。

 1棟は宮内省の事務棟として、もう一棟は詰めている職員の宿舎として使うことにしている。だから、宿舎等の方はできるだけ部屋数を増やして3階建てにしておいた。

 これらの費用は後程、宮内庁に請求できる。


 宮内庁職員の代表の山本さんはそこまで話がまとまるとすぐに東京に帰っていった。

 5人のうち二人の女性が残って、メライトと行き来をしながら調整することになった。

 今のところ宮内庁の職員にはまだゲートの指輪を渡していない。数も必要だが、ゲートの原理や魔法や魔力の使い方などを理解して練習してもらわないと使うことができないからだ。

 翌朝から、俺たちの鍛錬に混じる水瀬さんと川口さんの姿があった。

 宮内庁側の5人は田中さんと山本さんは男性で、水瀬さん、川口さん、谷田さんは女性だった。

 今回の案件では赤ちゃん(ポンタ)がかかわっていたこともあり、女性が多く選ばれたらしい。


 五族は皇室の影の仕事をしていただけあり、それぞれが拳銃を持っており、戦闘訓練も受けているとのこと。

 俺も今度の王都行きには猟銃を持っていこうと考えている。

 道中にあう可能性がある魔物の話になり、水瀬さんと川口さんは慌てて宮内庁に連絡を取った。

 王都まで片道10日の馬車旅になる。

 こちらからは宮内庁の7人と貢物。

 星野家からは俺と嫁と妹とポンタ。あと、ポン吉とポン子もつれていくことになった。

 野生の感で番犬代わりにでもなってくれればと思っている。

 宮内庁からは翌日には増員された職員が派遣されてきた。

 当面、ユニットハウスなどを仮設して、執務室として使うようだ。


 増員の職員の中には自衛隊の迷彩服を着た人も混じっていた。

 彼らは宮内庁の影の五族から自衛隊に所属している人員からの増員とのことだった。

 しかし、持ち込んでいる銃器を全部持っていくわけにもいかないぞ。

 せいぜい携行武器ぐらいだろう。

 俺はそれらのリーダーと話をして、携行武器のみの所持を許可した。

 向こうでの権限は俺の方が上になる。


 いつの間にか今回の一連の国交樹立の最高権限者は俺になっている。

 本来なら源蔵さんのはずなのだが、面倒が嫌いだという理由で娘婿の俺にお鉢が回ってきたことになる。

 どうせ俺が始めたことだから、俺が責任者であっても覚悟はできている。


 馬車が一日に走る距離は50㎞ほどだと思われる。つまり、王都まで500㎞ほどになる。

 車はメライトに乗り入れることができない。

 ゲートの鏡の大きさはせいぜい畳一枚分ぐらいだ。

 そこで現代の馬、バイクを持っていくことにするようだ。

 くれぐれも馬とか周りの人を驚かすことのないようにお願いし、静音性の高いオフロードバイクが5台用意された。

 これなら何とかゲートを通った。

 俺もツアラーを乗り入れたかったが、ポンタもいることだし、おとなしく馬車で行くことになった。

 部品で様々な機器をメライト側に運び込んで迎賓館で組み立てる作業にかかった。

 畳一枚分の幅以下の台車を使って輸送した。


 各バイクには武装と索敵のためのレーダー類も装備されていた。

 そして、バイクに乗り切れないものを持っていくために馬車をもう一台手配してもらった。

 馬車は領主サイドで3台、こちらで3台、騎士団が20名随行することになっている。


 俺は日本に戻り、ホームセンターなどをはしごしてキャンプ用品を買いあさった。

 大型テント10張り、2~3人用が10張り、ターフを10張り、カセットコンロを10台にガスカートリッジを300本、鍋などのコッフェルキットを10セット用意した。

 それ以外にもシュラフカップなども50個づつ用意した。


 ……セバスに頭を下げて、馬車をもう一台追加してもらった。荷物専用の馬車だ。

 その分騎士団の野営用品を減らしてもらって身軽に移動してもらうことになっている。


 他にも菜月や由美が馬車の乗り心地を危惧して大量のクッションを買ってきた。

 それに乾電池式のLEDランプなども各馬車に装備しておいた。

 各馬車に装備したものには乾電池式の省電力トランシーバーも用意している。これは自衛隊の部隊からの借り受けだ。それぞれが相互に連絡できるようにしている。

 騎士団長と副長にも携帯トランシーバーを装備してもらった。


 そのほかにも水の浄化装置や予備の水タンク、着火剤、などなど馬車にこれでもかと詰め込んだ様子だ。

 そのままでは過積載になる恐れがあったので急遽備品を持ち込んで、メライトで使う馬車の改造も行った。この手の作業に慣れていた自衛隊員にお願いして、ゴムタイヤにして、車軸にベアリングを装備することでかなりの軽量化を図り、剛性も増した。

 サスペンションも日本で荷車に合うものを探して入手し、それに付け替えてある。

 これでずいぶん馬車の旅が快適になっただろう。


 また、陛下や皇室関係者への報告は別としてゼクウ王国のことは緘口令が引かれた。

 万が一にも欲にまみれた輩にこれらの秘密が知られてはいけないので、契約魔法で縛らせてもらった。


 秘密保持の契約魔法で誓約したもののみが今回の件にかかわることになっている。

 秘密保持の魔法をかけた羊皮紙が大量に用意されて、宮内庁で関係者に自筆のサインをさせている。

 それらの締結を待ったために準備に5日かかってしまった。

 いよいよ王都への馬車旅だ。

 ポンタとポン吉とポン子も馬車に乗せたがはしゃいでしまってじっとしていない。

 本当にこいつらは兄弟のように仲がいい。

 念のためポン吉たち用のペットフードも持参している。

 それぞれが荷物を積み込み、乗車を確認して、王都に向けて出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る