18.充実した日々
それから3か月ほどがあっという間に過ぎた。
俺は東京で公共事業にかかわるあらゆる技術書を買いあさった。それに伴って、基本的な学問である数学、物理、化学、科学、それとおばあちゃんの知恵袋的な本も買った。
ゼクウ語の翻訳のためにゼクウ文字のフォント化も行った。それらのソフトをインストールしているノートパソコンを5台メライト側の文官に預けて、基礎学問の本の翻訳を行ってもらっている。
辞書は概ね完成を見た。現在それの編纂のためにゼクウ語と日本語の並列表記でどんどんパソコンに入力していっている。これは由美と菜月が担当している。
おふくろにはパソコンの使い方を教えて、メライトから持ち込んだ本をまずスキャンしていってもらっている。
追加で借りてきた本なども随時スキャンしている。
俺たちが勉強に使うのは当面はこれらをプリントアウトしたものを使うことにした。
借り物を汚すわけにはいかないからね。
スキャンしたものは早々に返却しておいた。
迎賓館と領主館には水力発電機を取り付けた。
ある程度の電気工事は俺でもできるので、俺が取り付けを行った。
この家を建てるときに電気工事なども行わなければいけないので、第二種電気工事士の免許は取得している。
みんなが一斉に勉強しだしたので、それぞれ勉学意欲が増したのか、源蔵さんやおやじは利き酒師の資格を取ったし、女性陣は食や美容に関する資格取得のために勉強しだしている。
俺は少し気になったことがあったので、成分分析機をいくつか購入した。
金属に関するもの、食品に関するもの、水質検査機などを迎賓館の大広間に設置させてもらった。
これからこの迎賓館が日本からの製品の入管管理所にも似たところになるため、日本からの食品や物品の持ち込みなども必要に応じて検査している。
それと、メライトで流通している食品や金属なども検査していってもらっている。
これらには信用できる主婦の方々を領主館で雇ってもらって時間の空いた時に勤務して検査してもらっている。パートタイムで人を雇うということがなかったらしく、その勤務の仕方、管理の仕方は大いに驚かれた。
これで寡婦の仕事が増えたそうだ。
魔物が蔓延る世界なので、ハンターたちがその駆除にあたっているが、大勢の死者も毎年出しているのが現状だ。そうすると当然寡婦も増えていくことになる。そういう人たちの中には子育てを行っている人もいるので、都合のいい時間でのパートタイムはメライト領としても推奨されて広まっていった。
それとマローンに手洗いを勧めていたが、彼は思い切って領都のみならず、メライト領全域の家庭に石鹸とシャンプーを配ることにした。
領都だけで1万世帯ほど。領全域で5万世帯ほどになるので100円均一ショップで100円で5個の石鹸のパックを5万セット注文した。シャンプーもボトルに入ったものを同数注文し、それらの使い方や効能を説明するために各集落の代表者たちを集めて説明会を開いた。また、領都では銭湯の建設も進んでおり、各集落で最低1か所の銭湯を設置するように要請した。これはこの建設に従事するものの費用を領全体でまかない、材料などは自給自足で集めてもらった。3か月たった今ではすでにそれぞれの集落に銭湯は完成していた。
奥さんたちからの突き上げが相当あったらしい。どこの女性も清潔できれいでいたいのはすでに本能だと思う。
それに伴って各集落にポンタ商会(メライト家と星野家の合同出資の商社。両者の意見の一致でこの名前になった)が作られていき、石鹸やシャンプーがいつでも買えるようになっていった。ポンタ商会の第一陣の商品がこの石鹸とシャンプー(原価はそれぞれ100円)となった。俺は日本でそれらの商品の卸元と交渉して、大量の商品を発注していった。卸価格は半額の50円だった。
そのため、税務面からも日本でもポンタ商会を設立した。会長は俺で、社長はポンタだ。
1歳にして会社の社長だ。実質は俺が勿論動かしているのだが。
なるべく安く流通させるために石鹸は5個入りで銀貨1枚(1,000円相当)、シャンプーも同額とした。これで利益は銅貨9枚(正確には9.5枚)、粗利から払う税金が3割で残利益が銅貨6枚これを折半することになるので銅貨3枚が利益となる。
それが月に各家庭で2セット平均を売上ているので、石鹸10万セット、シャンプー10万セットで合計20万セット。つまり、銅貨60万枚が利益となった。金貨に換算すると6,000枚になる。ここから人件費などが引かれるので(人件費は折半としている)、50人(50か所)×銀貨5枚(5,000円相当)×30日で銀貨7,500枚、つまり金貨750枚となった。これの半分が分担金なので、金貨375枚が人件費として差し引かれた。
差引金貨5,625枚が粗利益となった。
マローンはこれらのお金で銭湯の建設費を捻出し、街道を少しずつ整備していった。
街道は幅6mほどのものを領内くまなく巡らせる計画だ。
俺はポンタ商会で石鹸をメライト領で作ることを提案した。
ゆくゆくはメライトの地場産業として定着できれば雇用促進にもつながる。
これにマローンも賛同してくれて、領都から少し離れた村を中心に石鹸工場を建てることになっている。
第一弾の石鹸は魔獣の獣脂を使ったものになる。
苛性ソーダについては大量に日本から輸入しなければいけない。
がこれも今後魔道具による精製法の確立に期待している。
苛性ソーダは扱いが難しいが、注意して取り扱えばいいということで、作業員にはゴーグル、マスク、ゴム手袋は必需で、作業方法の訓練もしていた。
これは工場ができるまでということで領都のはずれの倉庫を借りて仮工場として訓練を行っている。徐々に品質も上げてきているようだ。
魔獣の獣脂はハンターギルドと提携して、買い上げてもらうことになった。
今まで捨てていたものがわずかながらにもお金になるということでなかなか評判はいいようだ。
第2弾として植物油による石鹸製造を考えており、現在実験農場で原材料となるコーンやゴマ、オリーブなどの育成から始めている。
似たような油が取れる作物がこちらにもあればいいのだが、現在調査中である。
メライト領は活気に沸いた。
その上、メライトの住民は誰もが清潔できれいになっていった。
この噂はあっという間に王国全土に広がった。
出稼ぎに来る人達が毎日引っ切り無しに領都に集まってきた。
その人たちは街道工事や石鹸工場建設に振り分けられていった。
面接の過程で教養があり、理解力の早そうな人材は研究施設やポンタ商会で雇用していった。
問題はそれを妬ましく思う隣領の領主たちだった。
嫌がらせが起こりかけた時に農作物の種を手に俺はそれらの領主と会談を行い、味方につけていった。
コーンやゴマなど、いくつかの作物の種を売ってその作物が実れば買い取る契約を行った。
これで石鹸の原材料の確保はできるだろう。
オリーブだけはメライトの特産とするために売らずにおいた。
これで概ねメライト側では順調に事業が拡大されていった。
問題は日本側だった。
頻繁な納入業務に加えて、卸先からの利益が日本円に還元できていないことが大きな障害となりつつある。
そこで、薬草を高価で買い入れたことにして、メライト側から薬草の種などを輸入することにした。が、輸入にあたっては税関の検疫を受ける必要が出てくる。そこで薬草の畑をメライト側で作り、それの人件費などを売り上げから当てて、乾燥させた状態で、輸入することになった。朝峰薬局という昔から代々続いていた薬局を母体として源蔵さんが処理してくれた。今までは細々と営業を続けていたそうだ。また、朝峰家代々の畑から採集したこととして、薬草類を検査機関にかけて、日本でも栽培することになった。
元々はこれらの薬草で作っていたものを販売していたのだろうから、特に心配していなかったが、宮内庁から朝峰薬局の再稼働について打診があった。
その昔、初代から朝峰薬局は薬を納品していた。その当時の薬が手に入るようになったのかという打診だ。
まったく同じものかどうかはわからないが、古文書などもひも解いて製法などを現代風にアレンジして、現在調剤中だと伝えた。
どうやら皇室では、口伝で朝峰薬局の話が伝承として残っていたようで、厚生労働省などの薬局の取り扱いの部署には再開の折には連絡するように内示があったそうだ。
もう1,000年も前の事を今に伝えていたことに大層驚いた。
朝峰薬局としても製造を続けたかったらしいのだが、原材料の枯渇はどうしても避けられなかったようだ。
それとどうやら皇族には異世界と取引していたことが伝わっているらしく、それとなく聞かれた。源蔵さんは畑でたまたま生き残っていた薬草があったのを発見したということで押し切ってくれたようだ。ただ、昔の伝が最近になって復活したということだけを匂わせておいたようだ。
こうなってくると当初の問題のメライトで売り上げたものを日本円に換金できないという問題が取り残されてしまった。
しばらくは不良在庫を大量に抱えた赤字で乗り切るしかないと思っている。
税務監査などはその納入元などにも及ぶ場合がある。
出所不明のお金は犯罪と直結する可能性があるため追及も厳しくなる。
メライト側で領収書を切ってもらっても、それが日本の税務署には通じない。
要するに架空名義の領収書になるためだ。
そんなことに悩んでいたら今度は俺のところに宮内庁の職員が面会を求めてきた。
どうやらここ数年の俺たちの動きを調べ上げたようで、これは面会を受けないわけにはいかなくなった。
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