12.ありくさ…ねぇ
それからお互いに状況を話していった。
俺からはポンタは拾った時に医療などを受けるためにも警察や役場にも届け出ており、今の時点で行方不明になると今度はこちらの世界での捜索が始まること。
既に戸籍は習得して俺と菜月の子供として育てているので、できれば日本で今まで通りに育てたい。
そちらの世界はどうかわからないが、日本は医療も教育も進んでいるので将来そちらにポンタが戻っても十分その知識が活用できるだろうことを話した。
菜月からは今更ポンタを取り上げられたら、寂しくて仕方がない。しかし、本当の両親がいるのにそのままというのも問題があると思っていると話した。
源蔵さんからは菜月が言っていた先祖の話が出た。
確かに薬草を探すためにこの山に入り、1年ほどたってから山を下りてきて『有草(ありくさ)』という薬を持って帰り、当時の天皇家に献上したという文献が残っているらしい。
それ以降、製薬業を営んでいたが、当時のこのあたりの領主に名主としての仕事も任されたため、ここら一体の小作人の管理もしていたそうだ。
いつの間にか、薬草が取れなくなり、農業だけがこの地に根付いたということだった。
「ひょっとしてその薬、有草…エリクサーじゃない?」
と話を聞いていたスフィアが声を上げた。
「なるほど。エリクサーならどんな病気でも直してしまうだろう。」
とマローン領主が答えた。
「エリクサーって…日本でもファンタジー系の物語やゲームに出てくる万能薬だよね。確かにありくさと聞き間違えて残ってるのかもね。」
「まあ、ご先祖探しはまたいずれすればいい。それよりポンタをどうするかじゃ。」
とじいちゃんが言った。
ポンタとポン吉とポン子は無邪気に遊んでいる。
それを見ながら先代さんが
「こうしてロックの元気な姿が見れたのもトモロウさんのおかげじゃ。いっそのこと、こちらにわしらの家も建てて、いつでもこちらに来れるようにしておくのはどうじゃ?見たところ、わしらの世界よりかなり文化が進んでいるように見える。わしらがそれを学ぶチャンスでもあるしの。」
「それはいいですね。私ももうロックとは離れ離れになりたくないのです。」
「そうすると、国籍の問題も出てくるな。戸籍が何とか作れたらいいんだけど、今の日本の制度ではそういうことの裏付けがないとなかなか国籍が取れないしね。」
「それじゃったら、朝峰一族のものに市長と助役がおるから、さっそく相談しておこう。何せご先祖様がお世話になった一族のことだからな。何とかするように言っておくよ。」
と、源蔵さんはこともなげに言った。
話がひと段落ついたところで、昼食となった。
「人数が多くて急だったんで今日のお昼はカレーね。領主様が食べるような上品なものじゃないけど我慢してね。」
と貴美子さんとお袋が寸胴で2つもカレーを作ってくれていた。
その匂いに刺激され、みんなは掻き込むように食べた。
そうそう、テーブルは話が終わってからそれぞれの家から椅子と一緒に持ってきてもらった。
うちのだけじゃ全然足りないからね。
「いや~。こんなにうまいものは初めて食べた。奥方様、ごちそうさまでした。」と先代さんは貴美子さんとお袋にお礼を言った。
「急だったもんだから何も用意してなくてごめんなさいね。夜はバーベキューにでもしましょうか。」
と俺に振ってきた。
「わかりました。じゃあ、あとで買い出しに行ってきますよ。ついでに皆さんの服や靴、下着なんかも買いに行きましょうか?」
と言ったのだが、ことのほかスフィアさんやイザベラさん、シャーロットさんが食いついた。
「今日は全員で行くのは無理なので、取り急ぎの服と靴と下着類は俺たちで買ってきます。あとで寸法を測らせてください。で、その服を着て、明日街に出ていろいろと日本を見てください。」
と俺は切り出した。
由美と菜月でそれぞれ女性陣の寸法を測り、俺が男性陣の寸法を測った。
源蔵さんはさっそくどこかに電話を掛けだして、戸籍の相談をしに行くようだ。
どうせならと、今回来た全員分を頼んでおいた。
ポンタをおふくろたちに預けて、採寸した寸法表を手に、俺と菜月と由美で買い物に出かけた。
とりあえず、服の量販店で普段着使いのできる服を上下3着ほど。下着は5組ずつ、靴は1足とサンダルを1足。それにスリッパが足に合っていないようだったので、大きめのスリッパを1足ずつ買った。
いや、彼ら日本人に比べて大きいんだよ。
明日にでも日本がどんな国か見てもらうために街に出てみることにした。
騎士団長のマルコスで2mあった。その次が先代のマルクスさんで190㎝。この二人、名前が似てるなと思っていたら、兄弟らしい。つまり騎士団長は当代の叔父にあたる人になる。
当代のマローンさんは180㎝。
俺は175㎝で親父も似たような背丈だ。
女性陣はほとんど日本人と変わらない背丈だったらしい。
あまり詳しいことは聞かなかったが、当代の奥様のイザベルさんで170㎝ぐらいで、メイド長以下メイド隊は同じような背丈だった。
問題は今日みんなをどこに泊めるかだな。
当代と先代はうちでいいだろう。メイドたち女性陣は源蔵さんのうち、男性陣は親父たちの家に分かれてもらえたら、すんなり泊まることはできるだろう。
それにしても客用のベッドが足りないな。
仕方がないので、客用のベッドも追加で注文して届けてもらうように手配した。
ベッドカバーやシーツも必要だな。
身体が大きいからセミダブルぐらいの方がいいか。
今俺のうちはじいちゃんとばあちゃんで一部屋、俺と菜月とポンタで一部屋使ってるので、残りの3部屋に2つずつベッドを入れとけばいいか。夫婦同士でも親子同士でもどのようにしても泊まれるだろう。あと、スフィアのベッドもいるのか。じゃあ、5台だな。
メイド長とメイドは全部で5人か。あ、あと騎士団のシャリーは女性だから合わせて6台のベッド、これも3部屋に分かれて2人ずつ使ってもらえばいいか。
騎士団長たちと執事のセバスで3台か。これは部屋があるだろうから、それぞれの部屋に1台ずつでいいか。
何とかなりそうだな。
あ、それと全員座れるほどのテーブルと椅子がなかったな。
リビングは結構広いので、面積的には十分広いんだけど、家具類はないからな。
14人増えたから少し大きめの6人掛けを4人で使うとして、4セットほど買い足しておこう。
これも夕方までに届けてもらうように手配した。
あとはバーベキューって言ってたな。
スーパーに行ってこれも大量買いだな。
…それに屋外用のバーベキューセットも追加で購入しとかないといけないな。
5台追加して、屋外用のキャンプチェアを15脚購入しておいた。
俺のワゴン車が初めてパンパンになったよ。
〆て200万円ほどしたな。
まあ、ポンタのためだ。気にしない気にしない。
あ、そういえば明日全員連れて街に出るとすれば足がないな。
帰りに駅前にあるレンタカー屋によってワゴン車を2台自宅まで持ってきてもらえるように手配した。
運転手は俺と親父と源蔵さんでいいか。
女性陣はポンタの面倒を見てもらわないといけないしね。
家に帰って大量の荷物を車から下ろした後、家具が搬入されてきた。
全て組み立て式だったらしいが、店で組み立ててから持ってきてもらうように頼んでおいた。
だから、かさばったのもあるけどトラックで5台ほどで持ってきてくれた。
それぞれメイドさんや騎士団に頼んでそれぞれの家に搬入してもらった。
いや、みんな力持ちで助かるよ。
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