10.ふぁんたじー?
街は俺たちがあまり見たことのない様子だった。
日本というより、西洋に近いのだろうか。
街は建物も道も石造りで、馬車が走っており、金髪の人も多く、中には少し目を疑うような容姿の人もいた。
「おい、友朗。あそこの女の人、やたら耳が長いような気がするが…。」
「あなた。あそこ、ほら、あの人。頭の上に耳があるよ。」
「ともちゃん。あの馬車を引いてる馬には角があるように見えるんだけど…。」
俺は三人から代わる代わる見たことがないものを指さして教えられた。
「こら、みんな。そんな人に対して指を指さないの。」
とはいうものの、俺も驚いて凝視していた。
ここはいわゆるファンタジーな世界なのだろうか?
あの人は多分エルフだろう。そしてあちらはオオカミの獣人かな?そしてドワーフ。
そして馬車を引いている馬は確かに角が生えている。
「どうやら俺たち、異世界に来ちゃったみたいだぞ。」
「「「異世界???」」」
そう言って三人は驚いていた。
いや、俺も驚いてるよ。
だって、魔法があって、ドワーフにエルフだぞ。
本の中のファンタジー世界に迷い込んでいたとしても不思議じゃない。
いや、不思議なことばかりなんだが。
俺たちはあたりをきょろきょろしながらもスフィアに何とかついていき、やがて領主邸についた。
門からしばらく歩いて、やがて領主邸の玄関口についた。
そこには執事風の男性が、スフィアを出迎えた。
「お嬢様、お帰りなさいませ。その方々はどなたでしょうか?」
「この方々の話を父上にしたいのですが、お父様に取り次いでもらえるかしら。」
「……はい、お嬢様。すぐにお取次ぎいたします。ではこちらの応接室でお待ちください。」
ずいぶんいぶかしげに俺たちを見ていたが、やがて領主に知らせに男性は行った。
俺たちは通された部屋に入り、そこに置いてあったソファーに座った。
「は~。」
ばあちゃんがため息ついた。
「まったく、あんたといるといつも退屈しないよ。中国でもマフィアの親分の家に上がり込んじゃってたし…。今更か。」
と、ばあちゃんはじいちゃんにそう言った。
じいちゃんたちマフィアの屋敷に乗り込んだことあったの??
「まあ、そういうなよ、さゆりちゃん。お前たちは俺が守るから。」
じいちゃんはばあちゃんの事、今だに名前で呼ぶんだよな。
それにしてはかっこいいな、今のセリフ。
あ、ばあちゃん顔が赤くなってる。
俺はとうちゃ、とうちゃとさっきからはしゃいでいるポンタを抱いていた。
こら、そんなに顔を引っ張るんじゃない。
そこにガチャと音を立てて一人の男性が入ってきた。
ポンタを見た瞬間にポンタに近寄ろうと迫り、俺はポンタを抱いたままソファの後ろに飛びのいた。と、同時にじいちゃんがその男とばあちゃんたちの間に立ちふさがった。
「いきなりなんだ?」
俺がそう言うと、自分の慌てぶりに気づき、その男はようやく我に返って自己紹介を始めた。
「私はマローン・メライト。このメライト領の領主をしておる。そなたたちか?うちのロックを保護していてくれたというのは。」
その男は領主だと名乗った。しかし、目はポンタにくぎ付けだ。
「俺の名前は星野友朗。こっちの端から、由美、小百合、元春だ。3人とも俺の家族だ。先ほど、スフィアにもポンタのことをロックと呼ばれて、俺たちも混乱している。ここには鑑定魔法ができる人がいるといわれて、ついてきたのだが。」
「セバス、その子を鑑定してくれ。」
と、領主は先ほど俺たちを出迎えていた男に指示を出した。
「鑑定。」
少し呪文を唱えて、鑑定魔法を発動させたようだ。
光の靄のようなものが、ポンタに向かった。
しばらく、ポンタを見ていたその男は
「間違いなく、ロック坊ちゃんでございます。」
と、領主に告げた。
男は静かに涙を流しながら
「よかった。無事だったんだな。」
とぼそりと呟いた。
事ここに及んでこの領主がポンタの父親だということは間違いないようだ。
そこへ、一人の女性と先ほどのスフィアが部屋に入ってきた。
「ロック!!」
と、その女性はポンタの方に歩み寄ってきた。
「これが、ロックの母親のイザベルだ。」
と紹介を受けたが、イザベルはポンタから目を離さない。
俺はポンタに
「お前のお母さんだって。」
といって、イザベルにポンタを抱かせた。
ポンタはきょとんとして自分が抱かれている女性の顔を見ていた。
やがて、にこりと笑いイザベルの顔をぺしぺしと叩きだした。
イザベルは涙を流しながらも微笑んで
「ロック。ごめんね。ごめんね。」
とひたすら謝っていた。
「さて、どういうことなのか話をしてもらえますかな?」
とじいちゃんが切り出し、俺たちはそれぞれがソファーに座りなおした。
そこにメイドが紅茶を運んできて、いい香りが漂った。
俺たちはお茶をいただき、それぞれが落ち着こうとしていた。
「実は我が家の恥ではあるのだが…。1年前にロックは誘拐されたのだ。どれだけ捜索してもわからなかったのだが…。」
「それが、俺たちの方に来ていたということか。」
「どうやらそのようだ。」
「しかし、どうやって。あの時はポンタ…ロックはまだ歩くことも這うこともできなかったはずだ。」
ポンタを発見した時の状況を詳しく話した。
すると、全員が奇妙な点に気づいた。
「子ダヌキか…。」
おおよその流れから察するに
「どうやら、その誘拐犯は先ほど俺たちが出てきた家で、一時的にポン…ロックを連れ去り、そのあとすきを見て、ポン吉とポン子がロックを向こうの世界まで引きずって行って、それを俺が発見した。」
……うん。それが一番スムーズにいくかな。
「問題はポン吉とポン子がなぜそんなことをしたのかっていうことだな。こればっかりはちょっとわかんねぇな。」
俺はお手上げ状態になった。
「でも、ポン吉とポン子は俺が出向くまで、あたりを警戒して、ロックを守ってたのは事実だしな…。すると、ポン吉とポン子が誘拐犯からロックを救ったってことになるな。」
俺たちはポンタの両親がいれば会わせてやりたいという気持ちはあった。
しかし、もう既にポンタは俺の家族の一員だ。
親が見つかったからといってはいそうですかと返すのはあまりにも寂しすぎる。
かといって、実の両親がこうやって心配していた状況もよくわかる。
いったいどうすれば…。
俺たちが、考え込んでいるのを見かねて、ばあちゃんが切り出した。
「ポンタ…ロックの両親が見つかったのは喜ぶことだよ。しかし、そうはいっても今まで育てた情もあるからね。その話はいったん置いておいて、先に話さなきゃいけないことがあるんじゃないかい?」
「?」
「ここがどういう世界かってことだよ。明らかに私たちのいる日本とは違うし、魔法なんかもある、エルフやドワーフもいる。つまり、日本から見たらここは異世界だってことになるんだろ?じゃあ、まずはそのあたりをすり合わせなきゃ、ポンタをどっちで育てるかって話もそうだけど、あの家がそのまま日本につながってるんなら、相互に行き来もできるだろうしね。その辺のところを先に話しておいた方がいいんじゃないかい?こうしているうちにあの祠の入り口が閉じちまったらシャレにならないしね。」
と、もっともなことを話してくれた。
俺と菜月はポンタが取られるんじゃないかと気が気でなかったのは事実だ。
そしてもう一方で本当の親子がせっかく会えたのに、連れ帰るのも忍びない。
ここはばあちゃんの言うようにまずはお互いの世界のことを話して、それからポンタにとってもみんなにとってもいい方向を考えればいい。
俺はそこまで考えて、ふっと息が抜けた。
「そりゃそうだな。まずはあの家の所有?や由来について話を聞かせてもらえないか?」
俺は領主であるマローンに聞いてみた。
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