09.石の祠
……ひょっとして……
ポンタってあの祠の向こうから来たんじゃないだろうか?
そんな疑問が俺の中に浮かんだ。
何一つ根拠はないが、なんとなくだ。
ばあちゃんもなっちゃんも俺が触れた石の祠あたりに触れても、向こう側には行けなかった。
そこで、俺と手をつないでもらって渡ってみると移動できた。
どうやら俺とじいちゃんは渡ることができて、ほかの人は無理なようだ。
但し、こうやって手を引いて連れて行けば渡れるようだ。
そうこうしてようやく俺たちは祠の中の部屋に入ったのだが、すでにじいちゃんの姿はそこになかった。
移動したらしい。
俺たちも慎重に周りを見て、鏡の向かい側にあったドアから外に出てみた。
そこはさっきの部屋より明るくて、どこかの廊下のようだった。
建物自体は、石造りの洋館ってところだろうか?
俺たちはまた慎重に廊下を先に進んだ。
するとそこにはホールがあり、どうやら玄関ホールのようだった。
そこにじいちゃんは周りの絵や、彫刻を熱心に見ながらいた。
「何やってるのかね、この人は。」
とじいちゃんの頭をはたいてばあちゃんが言った。
「いやなに、こんな彫刻の様式なんぞ見たことなかったもんだからな。これは何と言うか龍?西洋風に言うとドラゴンか?」
といいながら、じいちゃんが見ていた彫刻を指さした。
確かにドラゴンのようだ。
それも東洋の細長い竜ではなく、西洋の翼があるタイプの龍だ。
俺とじいちゃんは玄関の向こう側から気配がしたのを察し、身構えた。
すると玄関が開き、若い女性が屋敷の中に入ってきた。
「あ…あの~。」
その女性は俺たちを見て硬直し、間抜けな声を上げた。
「ああ。俺たちは別に怪しいものじゃない。俺の家の裏山の祠が、どうやらここの家の鏡に通じていたようで、ここがどこかわからず、家の中をさまよっていたんだ。俺の名前は星野友朗という。こっちのじいちゃんが星野元春。ばあちゃんが星野小百合。そしてこの女性が俺の嫁の星野菜月という。そして背負っているのが…。」
俺がそう説明していると、その女性はいきなり菜月の方に近寄り大きな声で名前を呼んだ。
「ロック!!ロックでしょ?」
いきなりポンタに近づく女性を俺はその間に入って阻止した。
「この子は俺の子のポン…じゃなくて、未来という。」
「え?ロックじゃないの?」
「君が言うロックがだれかわからない。しかし、一年ほど前、さっき話した祠の前に未来は倒れていて、それを保護して俺の子供として育てているんだ。」
「な…なるほど。そうでしたか。その子はおそらくロックです。ロックは私の弟で、生まれて3か月ほどで誘拐されてしまいました。方々探したのですが、見つからず、途方に暮れていたのです。もう会えないかと…。父にもあっていただけませんか?それと、その子がロックであるかどうかは鑑定魔法で調べることができます。」
「鑑定魔法…。ここには魔法があるのですか?」
「はい?皆さん魔法をお使いになるのじゃありませんか?かなり魔力量が大きいようにお見受けしますが…。」
俺たちはそれ以上そこで話していてもらちが明かないと判断して、その女性の父親に会うことにした。
その女性が先導し、屋敷から外に出ようとした。
「ところであなたのお名前は?」
俺はそう聞いた。
「これは失礼いたしました。私はこのメライト領の領主マローン・メライトの娘、スフィア・メライトと申します。以後よろしくお願いいたします。」
そう言ってスフィアは頭を下げた。
俺たちはかなり困惑していた。
ポンタの親が見つかったのはいいけれど、どう見てもこの人は日本人のようには見えない。それなのに日本語が通じている。
まあ、話が通じているのに不便はないので、今のところはそれでいいんだが。
それにどうやら、ここは日本ではないようだ。
…とすると、あの祠がどこかとつながっていたんだろう。
う~ん。これってひょっとして…異世界ってやつなんだろうか?
それに俺たちを見て魔力量が多いって言ってた。
魔法のある世界で、魔力量って…。
…ひょっとして、俺たちの認識での『気』なのか?魔力って?
う~ん。わからんことばかりだ。
とりあえずこの子についていって、事情を聴くしかないか。
俺はそう思って、みんなを促してついていこうとすると、なっちゃんとばあちゃんに止められた。
「いやいや、友朗。あんたあの女性が話してたことが分かったのかい?あんたは日本語で、あっちは訳の分からない言葉をしゃべっていたようだけど。」
俺はなっちゃんを見るとうんうんとうなづいていた。
あれ?俺だけが日本語に聞こえた?
「じいちゃんは相手の言うことが分かった?」
「うん。明確な言葉としてではなくて、なんというかニュアンスのようなもんじゃがな。なんというか…こう…頭の中に直接理解させてくるというか…。テレパシーとかいうのがこんなもんなのかもしれん。」
じいちゃんにはあいまいながら通じていたらしい。
それにしてもテレパシーか。
そう言われてみると俺もそんな感覚で日本語だと理解していたような気もする。
「う~ん。よくわからんけど、俺にだけは通じるみたいだね。あの人はスフィアというそうだ。領主の娘で、ポンタのことをロックと呼んでいた。一年前に誘拐されたスフィアの弟で探していたらしい。どうやらここでは魔法があるらしくて、鑑定魔法というのでポンタを鑑定することで判断できるようなんだ。だから一度領主のところについてきてほしいそうだ。」
そういう風に説明した。
スフィアが、俺たちがいつまでたっても屋敷から出てこないので、もう一度戻ってきた。
「どうかされましたか?」
「いや、どうやら俺にしかスフィアさんの言葉が理解できないようで、困惑してるってところかな。今、どういう状況かは説明しました。」
と、俺が言うと。
「なるほど…。ひょっとしてトモロウさんだけに翻訳の魔法がかかっているのかもしれませんね。それじゃ、皆さんに翻訳の魔法をかけてみますね。」
そう言ってじいちゃんたちに手をかざして、何やら呪文を唱えると、かざした手から光が降り注ぎ、ばあちゃんたちに魔法がかかったらしい。
これでどうやらみんなにも言葉がわかるらしい。
ほっとしたのもつかの間、俺たちは驚愕した。
「とうちゃ、とうちゃ。」
俺はギクッとその声の方に振り向いた。
そこには俺を指さして無邪気に笑うポンタがいた。
「ぽ…ポンタの言葉がわかる。」
するとばあちゃんも、
「確かに。今父ちゃんって言ってたような…。」
するとスフィアが
「あ、なるほどロックちゃんにもかかったんですね。この魔法は言葉というよりも思考を理解できるようになる魔法なのです。考えていることがすべてわかるとかじゃなくて、話そうとしている言葉が相手に伝わりやすくなるという意味ですが。それでロックちゃんの思考が伝わってきたんですね。」
俺の方に手を伸ばしているポンタを俺は菜月から受け取り、菜月はおんぶひもを外した。
俺たちはスフィアに促されながらも、街の中を歩いて、領主邸に向かった。
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