06.そして俺にも家族ができた
俺は源蔵さんを起こし、寝室に行ってもらった。
俺は貴美子さんから赤ちゃんを受け取り、すやすやと寝ている赤ちゃんを抱きながらじっくりと顔を見ていた。
かわいいな…こんなにかわいくて、男の子なんだな。
将来モテるだろうな…。
と、とりとめもなくいろいろと考えていた。
…そういえばこの子なんて呼べばいいんだ?
名前…タヌキに守られていた子供だからポンタでいいか。
そのうちちゃんとした名前がわかるだろう。
俺はそんな軽い気持ちでポンタと名付けて、そう呼びかけだした。
それを聞いた貴美子さんとなっちゃんは
「ちゃんとした名前つけてあげないと将来困るわよ。」
といわれて、未来(みらい)と名付けた。
俺の名前が友朗…Tomorrowだからね。
しかし……俺の中では相変わらずポンタだった。
何かそれがしっくりくるんだよな。
俺は貴美子さんに言われて24時間空いているスーパーマーケットに赤ちゃん用品を買いに出かけた。なっちゃんもついてきた。
哺乳瓶に紙おむつ、粉ミルクまではあったが、さすがに肌着やベビーベッドのようなものはなかった。
仕方がない。明日朝から探しに出かけよう。
俺たちはそれらを買い込んで、家に戻った。
その頃には貴美子さんが夕食を作ってくれていた。
俺たちは夕食を食べながら赤ちゃんのことを話していた。
「なんであんな山の中にいたんだろう?」
「俺には光って見えたんだけど、あれは何だったんだろう?」
「この子の母親はどこに行っちゃったのかな?」
……それぞれ、疑問は尽きないがここでどれだけ話しても解決しない。
その夜は貴美子さんが面倒を見てくれると、貴美子さんと同じ部屋にポンタを寝かせた。
子ダヌキたちは俺の部屋に連れて行って、段ボール箱に寝床を作って毛布を敷いてそこに寝かせた。
訳が分からずバタバタしてたので、俺も眠くなり、そのままベッドで横になった。
あくる朝。
みーみーという声で目を覚ました。
子ダヌキたちが餌をねだっていた。
しまったな。こいつらの哺乳瓶も昨日買って来ればよかった。
俺はそう思いながらも、昨日と同じように皿に温めたミルクでいいかとキッチンに向かった。
俺の後を二匹はついてきた。
「おはよう、ともちゃん。」
「おはようございます、貴美子さん。ポンタはどうでした?」
と俺は貴美子さんに聞いてみた。
「まだ、ポンタって呼んでるの?せっかく未来って名前つけてあげたのに。赤ちゃんはまだぐっすり寝てるよ。夜泣きもしなかったわね。」
そう言って俺に朝ご飯を出してくれた。
「あ、ありがとうございます。こいつらにもミルクやらないと。」
そう言ってキッチンの方にある冷蔵庫に行こうとすると
「ともちゃんはご飯食べてて。この子たちのミルクは私が用意するから。」
と、キッチンに戻っていった。俺はキッチンの方にミルクを少し温めてやってほしいと声をかけた。
子ダヌキたちは、貴美子さんについていき、さっそくミルクをもらっていた。
「あいつら、人間の言葉がわかるのかね?」
俺はそう独り言をつぶやきながら、朝ご飯をいただいた。
それぞれみんな起きてきて、朝ご飯を済ませたところ、ようやくポンタが目覚めた。
ミルクを作ってやると、おいしいのか勢いよく飲みだした。
貴美子さんは飲み終わった後背中をポンポンと叩きゲップさせて、俺にポンタを預けてきた。
「さて、昨日は訳も分からず「ぽんちゃんは俺が育てる」って宣言してたけど、本当に大丈夫なの?」
貴美子さんは俺にそう聞いてきた。
「いや、俺も不安なんですがね。でも、昨日の警官の話で行くと、どうやら託児施設に預けてしまうらしいし。どうせなら、縁があった俺が育ててやるのがいいのかと思いまして。」
「まあ、困ったときは私たちも助けてあげるから、ちょっと早いけど子育ても勉強しなよ。」
そう貴美子さんと源蔵さんが俺に言った。
朝から警察官が来て、俺はポンタをなっちゃんに預けて、ポンタを発見したところまで、警察官を連れて行った。
その場所には昨日置いていったままだった消火器も落ちていた。
それを見た警官は
「ああ、それが昨日言っていた消火器ですね。それで本当にこのあたりで火が出てたのですか?」
「いえ、近づいてみるとあの赤ん坊が光ってたように見えたんです。呼吸をするように強くなったり弱くなったり。俺が抱きかかえるとその光もなくなったんですが…。」
俺はポンタを見つけた地面をほかに何か落ちてないか探してみた。
そうしてあたりを探していると岩でできた祠のようなものを見つけた。
「この祠なんだろう?なんか光って見えるんだけど。」
と警官に言うと、どうやら警官には見えていないらしい。
相手が見えないものをいくら言っても仕方ないので、そのまま俺たちはあたりを捜索してみた。
しかし、手掛かりらしいものは何もなかった。
やがて捜索は打ち切り、家に戻ってきた。
警官はポンタの写真を撮っていた。
調書は取り終えたらしい。
「一応捜索を掛けますが、失踪者や誘拐の被害届は昨日時点では出ていないようでした。事件として捜査しますが、とりあえず当面の間、星野さんが保護者ということでよろしいですか?」
「はい、それでいいです。よろしくお願いします。」
「それではそのための手続きも進めますね。生まれてまだ3か月ほどだと思われるので、赤ちゃんはいろんな病気にかかりやすいです。ですから、健康検診などもこまめに受けてくださいね。」
俺は暫定的にではあるが、ポンタの保護者になった。
しばらく捜索して、引き取り手がない場合には俺の子供として認知し、医療や教育が受けられるようにしたい。
俺は無邪気に笑っているポンタを眺めながら、つい頬が緩むのを止められなかった。
こうして俺には家族ができた。
事ここに至ってはお袋や親父にも連絡したほうがいいだろうな。
お袋に電話すると、とにかく一度こっちに来るそうだ。
うん、ポンタを見れば納得するよ。
「それはそうと、お前たちもどうにかしないといけないな。」
俺は二匹のタヌキを見てそう言った。
「それなら一度町にある動物病院で診てもらったら?」
と貴美子さんに言われたので、俺はさっそくその動物病院に二匹を連れて出かけた。
その前にホームセンターによってこの二匹を入れるためのゲージを買った。
同じペットコーナーにはエサ皿や、トイレの砂などもあったので、一通り購入してから、ゲージに二匹を入れて動物病院に行った。
野生の動物を飼うなら、予防接種が必要らしい。
それにいろいろと検査させられていた。
「俺やポンタと一緒にいるためには少し痛いかもしれないけど我慢しろよ。」
と、俺は二匹を励ましながらなんとか乗り越えた。
定期的な予防接種が必要らしいのでまたこなきゃいけないな。
扱いは犬と変わらないんだそうだ。
ただ今後、山に帰るにしろ予防接種なんかは無駄にならないだろう。
俺は先生に買い方の注意なども聞いて、ゲージにいれた二匹とともに家に帰った。
リビングの一角がこの二匹の住処となった。
基本家では放し飼いだ。
こうして俺には新しい家族が増えた。
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