曾祖父が僕だけに語ってくれたこと

RURI

曾祖父が、僕だけに語ってくれたこと

 

 隣にいた奴がな、吹っ飛ばされてな、死んだんだ——。





 ある夏の日、曾祖父が唐突にそう話し始めた。確か、8月15日の終戦の日の直後だったと思う。夏休みを利用して、遠くに住んでいた曾祖父母に会いに行った折のことであった。


 曾祖父はは当時既に100歳を超えていたけれど、記憶もしゃべりもかなりしっかりしていて、手すりに掴まりながらならば立ち歩ける位に元気だった。とは言え、1日の大半は窓辺の椅子に座って過ごしては居たのだけれど。



 

 『昔、ひいおじいちゃんは兵隊で、太平洋戦争の時にはフィリピンの方に出兵してたんだって』、という話はされたことがあった。それをいつ、何の時に聞いたのかは覚えていないけれど、『あ、そうなんだ』位にしか思わなかったのは記憶にある。




 ちょうど、曾祖父の隣に座った時だった。


 「あのな、俺はな、戦争の時にな、南の方に行ってたんだ。」


 唐突に、そう話しかけられた。戦争の話を曾祖父の口から聞いたことは無かったから、ちょっと驚いた。


「爆弾が飛んできてな、隣にいた奴がな、吹っ飛ばされてな、死んだんだ。・・・・・・一緒に行った奴は皆死んで、生きて帰って来れなかった。」


 年を取っていたから張り上げる様な声ではなかったけれど、その声には間違いなく力がこもっていた。そして、僕をじっと見るその目にも。


「皆死んじゃったんだぞ。俺の周りの奴ら。」


「戦争はなぁ、あんな恐ろしいもの無いぞ。なぁ?」




 話はほんの数分だけだった。それ以上は語ろうとしなかったし、僕もそれ以上突っ込んで聞こうとは思えなかった。短い時間だったけど、僕に伝わったことが分かったのだろうと思う。


 


 『ひいおじいちゃんは、戦争の話を絶対に誰にもしないんだ』なんて聞いたのは、確かそれから数年後のことであった。自分から話したがらないだけじゃ無くて、戦争の話聞かれるのも嫌がっていたのだという。それだけ、辛いものだったのだろうと思う。


 なのに、僕にその話をしてくれた。それだけ、僕に伝えなくては、と思ったのだろう。


 数年後、曾祖父は亡くなった。その後も、誰かに戦争の話をしたということを聞くことは無かった。







 曾祖父が、なんで僕にだけ戦争の話をしてくれたのか、直に本人に確かめることはできない。でも、あえて話してくれたのは、きっと『伝えなくてはならない』と思ったからだと感じている。


 だから、伝えて貰った僕は、さらにその先へと伝えていこう、受け継いでいこうと思う。


 戦争ほど恐ろしいものは、この世には無い。数多の命が失われ、多くの人に一生消えることの無い心の傷を負わせ、多くの街を焼いた戦争が残したものは何だったというのか。



 反戦への想い。悲惨な記憶。


 自分自身が体験した訳じゃ無いけど、語り継ぐべき先人達の想いを、さらにその先へとつながなくては。


 ひいおじいちゃん、その想い、しっかりと受け取ったよ。

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