ギナ・ファナトラ機械工学研究所 ~彼女はロボットが造りたいそうです~

八波草三郎

なんでロボット?(1)

 ぼく、レリ・アチストンは或る日彼女に呼び出されました。それ自体はさほど珍しいことではありません。


 幼馴染の彼女、ギナ・ファナトラは機械工学博士。まったく違う分野に進んだ彼女ですが交流はずっと続いているんです。

 特に恋人同士というわけではないのですが、仲の良いギナの頼みは容易に断れません。お互い忙しい身の上でも、時間を作っては研究所に通って会っています。


「で、今日はどうしたんですか、ギナ?」

 単に気まぐれで呼び出されるたりもするのです。

「この前みたいに、研究所に虫が紛れ込んだので呼んだ、では困ります」

「それはもう大丈夫なの。ちゃんと自動虫捕獲機を作ったの」

「安心しました。相変わらず仕事が早いですね」

 ギナは胸を張ります。不釣り合いに豊かなそれがゆさりと揺れています。

「案外美味しかったの」

「食べたんですか、虫?」

「冗談なの。レリも相変わらず面白いの」


 こんな調子なんです。今日ももしかしたら話し相手に呼ばれたのかもしれません。それでも、ころころと笑う彼女を責めるつもりは毛頭ありませんけど。


「ギナはロボットを造ろうと思うの」

 ぼくが微妙な面持ちになったのを見越したのか本題に入るようです。

「ロボットですか」

「なのなの」

「ロボットなら街中に溢れているではありませんか。いまさら君が手掛けるようなものではないと思いますよ?」

「でも、ロボットが要るの」


 研究所は人里離れた山中に建てられています。ギナの研究品は注目を浴びることも少なくありませんので、盗まれたりしないようぼくがこの場所を勧めました。ここなら十分なセキュリティを施せます。


「ロボットの定義を『人の仕事を代用するもの』にまで広げると多種多様に及びます。ここを一歩出て街の近くまで行っただけで、そこら中ロボットだらけなのですよ?」

 ぼくら人類は物質文明を極めんばかりの勢いなのです。

「ギナが造りたいのは人型ロボットなの」

「それだってもういっぱいありますよ」

「おっきなロボットじゃないとダメなの」

「巨大ロボットですか」


 確かにそれはあまり見かけませんね。作業用機械もほとんどの分野に進出していますけど人型のものは少ないと思います。


「人型巨大ロボットの効率などぼくが語るまでもないと思いますけど?」

 多くの研究者が否定しているから少ないのではないでしょうか。

「レリはいいの。120cmもあるの」

「は?」

「ギナは100cmしかないの!」

 彼女はいらだたしげに言ってきます。

「見下ろされてばかりは嫌なの! ギナが見下ろしたいから巨大ロボットが要るの!」

「えーっと、背が低いのが気に入らないから巨大ロボットを造りたいと言うんですね?」

「なのなの」


 そういうことらしいです。

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