外伝

外伝 パナテナイアの聖宴 side Avengers

MM地区 ランドマークタワー


マルコ班らの到着より数刻。人々の命を喰らわんと無数の生ける屍の猛攻は止まる事なく、次々と無辜の人々に襲いかからんとする。

「ったく、いい加減しつけェんだよ!!」

それを妨げるは米軍オーヴァード部隊、テンペストより派遣された荒夜。その身は彼女のコードネームの名を冠する獣の様に黒き狼の姿になりて。次々と喰らい千切っては投げ、その鋭爪で肉という肉を引き裂く。


同時、彼の後方、意識の範囲外から一体のそれが飛びかかる。

「チィッ!!」

繰り出されるソバット。しなやかな身のこなしで振り上げた右足を一気に地面に向けて叩き落とす。

声もなく地面に叩きつけられたそれ。他人の形を成していたそれは崩れ去り、血溜まりへと還り消えていく。だが次々と現れるそれらに次第に対応は遅れ、隙にさらされた。


瞬間、光の矢が次々と狂える死者を射抜きその体躯を吹き飛ばす。

「助かったぜルミ!!」

「援護は僕とマルコ班のメンバーで行う。君はこのまま前線を押し戻してくれ!」

「応ッ!!」

斉射、と同時に彼女は駆け出し一つ、また一つと狂える死者をあるべき形へと還す。


ルミは咄嗟に己がもう一つの得物である手燭へと持ち替えて、次々と燐光を生み出しす。後方からの援護として放たれた蛍のような光は、音もなく粛々と狂える死者達を血溜まりへと還して行き、荒夜の死角を全て補う。

「来るか……!」

「行かせねェッ!!」

ルミに敵が迫ろうとすればそれよりも早く彼女の爪牙がソレの頭部を叩き潰し、彼女の攻撃を邪魔などさせない。

寸分違わぬ呼吸。所属は違えどその連携は部隊内でも群を抜いていて。二人のコンビネーションにより一度は押し返された前線も今はもう彼らが優勢を取り戻していた。


だが、それの登場に空気は一変する。

「ンだよあれ……聞いてねェぞ……!!」

「全員警戒……アレは強いよ……!!」

突如彼らの現れたる鯨の怪物。人を飲まん程の、他よりも一回り大きな巨体。

大きく口を開け、その巨躯で押し潰さんと迫り来る。

「コイツは……!!」

「僕らの手には負えないね」

体当たりを回避。巻き込まれた路上のコンクリートが砕けバラバラと辺りに降り注ぐ。

「下がるぞ!!」

「ああ。全隊、牽制射撃をしながら後退!!」

二人もそれを見て咄嗟に後退の判断を下す。冷静かつ適切な判断。一つは生半可な火力ではそれを倒せぬと判断したから。

もう一つは、

「さて……ここからは」

「任せたぜ湊、輝生!!」

『ああ、俺たちに任せろ……!!』

『任されたッス!!』

彼らならばそれを倒せると、信じていたからだ。


「大人しくするッス!!」

ミナトミライオンは両の手で鯨の怪物を抑え込み投げ飛ばさんと掴み上げる。

だがそれよりも早く抵抗。暴れるその体が勢いよくその腕を弾き、僅かに後方にのけぞる。

怪物もその期を逃さず、己が大質量をミナトミライオンにぶつけた。

「っぐ……!!」

「重い……!!」

衝撃。同時にコックピット内部が大きく揺れて。二人の体は力に振られ、その身を打ち付けられる。

「大丈夫か、輝生!」

「まだまだやれるッス……!!」

彼もどこかに頭をぶつけたのか頭部から血を流すが、彼も倒すべき敵を決して見失っておらず。

「来るぞ……!!」

「兄ちゃん、サポート任せたッスよ……!!」

再度その身をぶつけんと迫るそれに全神経を集中し、そして一気に両の脚に力を込めて。

「今だッ!!」

「うおりゃあああっ!!」

一気に真上へと跳躍し、その一撃を回避した。



波打つように砕け散る路上。攻撃を寸前で避けられた鯨はその着地を狙わんとその身を縮め、今かとその時を待つ。

だが、それは降りてこない。数秒、されどあの巨体が地に足を下ろすには十分すぎる時間は経過していて。

もしそれが疑問を抱き、上を向いていればその答えは一目瞭然だった。


————飛翔


翼はためかせ、ミナトミライオンは空を駆ける。鯨の怪物の真上、そこは視界から外れた唯一の安全圏。

「死角を取った……!!」

「このまま構えるんだッ!!」

湊が叫ぶと同時、武器を構えるように輝生は体制を整えて。その傍らで湊はコンソールを操作。

ミナトミライオンは女王クイーンの翼を脱ぎ捨てて、従者ジャックの大槌をその手に空から舞い降りる。


落下。今その巨体は重力に引かれ加速して風を切る。それは上空からの襲撃を感じ取ってはいた。

だが、もう遅い。それが反応するよりも早くミナトミライオンは間合いに捉えて。

「喰らえ……」

「"ジャックドハンマー"……ッ!!」

振り下ろす。質量と速さが掛け合わされた鈍重なる一撃。鯨の身体を砕くように、潰すように繰り出された大槌。衝撃と同時に空気が震え、地面が唸るように轟く。

命は未だそこに存在し、最後の足掻きを見せようとする。だがあの一撃を受けて怯まぬ筈もなく、僅かな時間であれど見せた確実な隙。


それを、彼らは逃さなかった。


「"コスモワールド"……!」

突如それの周りが黒に覆われ、鯨の怪物はその場から逃げんとジタバタとそのヒレを動かす。だがその場から動くことさえも能わず。

それを捕らえたのはコスモクロックより解き放たれた、"小宇宙コスモ"。

強大なる重力で縛るのではない。これは全てを自由に解き放つことで、全ての自由を奪うミナトミライオンの切り札。いくらそれが空を掻き分けようともその体が動く事は無く。


「兄ちゃん!!」

「"ギガノトランス"ゥ……!!」

着地と同時、照準の中心がそれに向けられて。

獅子の口は輝き、三つの光は空へと上り、静寂が支配する。

何か来る、そうそれが気付いていたとしても目の前のそれができることはもがくことのみ。故に繰り出されるは最大最強、必殺の一撃。

「"トライタワーブラスター"!!」


————星の雨が、降り注ぐ。


小宇宙の中を埋め尽くす光と星の礫。炎はその身を焼き尽くし、星の粒がその身を打ち砕く。

たとえそれが海を統べる王であろうとも、命を喰らう怪物であろうともこの場ではあまりに無力で。


「————————!!」

叫び声と同時、それが弾ける。限界になったシャボン玉のように、赤を撒き散らしてあるべき姿へと還っていく。

ミナトミライオンもオーバーヒートによって動きを止めはしたが、それでももう、彼らの勝利は明らかだ。


「やったッスよ兄ちゃん!!」

『やったな輝生、湊!!』

『流石、MM地区支部の守護神と言ったところかい』

「ああ。だがまだ油断は禁物だ……!!」

『勿論、ここからは僕らの仕事だ』

『二人は昼寝でもしながら休んでな。起きた頃には全部終わらせて————』

ルミと荒夜が再度戦闘態勢へと移ったその時、だ。


———青き光が、空へと上り、温かで優しい光が、今彼らを包み込んだ。



to be continued to episode14……

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