第18話 希望

MM地区 ベイブリッジ “海"


冷たく暗い、"海"の底。

水は決して彼らの動きを阻害はせずとも、確かに冷ややかに彼らの肌に纏わり付く。

この冷たさは少女の悲しみか、命の嘆きか。

その真実を知る者はこの場にいない。


ただここにあるのは、彼女を救うというたった一つの信念のみ。


「マリアさん、禅斗さん、黒鉄さん!!」

「ああ」

「さあ、すべてを終わらせるとしようか」

「行くぞ……!!」


今彼らは、最後の戦いへとその身を投じた……



迫り来る2体の四肢を持ちし鯨。

青年は決してその異形に臆す事なく駆ける。

「さて……まずは小手調べだ……!!」

彼の両手から投射されるは蒼雷宿したナイフ。

見た目以上の破壊力を持ったそれは2体の鯨の肉を抉り血を撒き散らす。


それを脅威と判断したのか2体の鯨は黒鉄へと目標を定めた。

そしてそれこそ彼の目論見通り。

「垂眼、マリア……!!」

「一気に……!!」

「終わらせる!!」

注意の逸れたそれらが垂眼とマリアの斬撃を回避することなどはできず。

『——————!!』

それらは声とも言えぬ叫びを上げながらその場に伏した。


だが所詮はまだ数多ものうちの2体。

「前方に3体、後方に2体……!!」

「前方はオレが相手しよう。二人はそのまま突っ込み、背中は———」

「任せろ……!!」

阿吽の呼吸。

禅斗の放つ重力場によって圧された三体の鯨は動きを止め、その場に動きを縛られる。

「助かります……!!」

「行くぞ……!!」

その脇を駆け抜ける二人。


それを追おうと、止めようとする残る2体の鯨が一気に迫る。

一気に距離を詰めた巨躯。禅斗を潰さんとその四肢を振り上げた。

されど、彼がそれを許さず。

発射ファイア……!!」

放たれた二発の蒼雷がその四肢を弾き、爆ぜる。

「さすが相棒……!!」

「誰が相棒だ……!!」

そしてその隙を逃さず、禅斗は二人を阻む敵を全て圧し潰した。



そして二人は屍を背に、己が剣を構えイリスを取り込んだ化物に立ち向かう。

「イリス……!!」

「焦るなよ、垂眼……!!」

それは決して彼らに対して反撃も回避もすることもなく、ただそこに有るものとして佇んでいる。

だが避けぬのならば、好都合。

纏わせるは風、鮮血。刃を研ぎ澄まし、狙いを定める。

「おらああああああっ!!」

「斬り裂け……!!」

放つは一閃。

二つの刃が少女を解放せんと、同時にその巨躯目掛け振り抜かれた————



が、それは意味を為さず。

「硬ってえ……!!」

「こうも届かんものか……!!」

二人の研ぎ澄まされた刃でさえも、その身に傷一つつけることはなかった。

それが微塵たりとも動かなかったのは、もはや動く必要すら無かったからなのだ。


同時、孤立した二人の周りに再度現れる。

「クッソ、しつけえな……!!」

二人は振り上げられた四肢を回避し幾度かその剣撃を叩き込む。

一体は動きを止め、その場に力なく崩れ落ちた。

だが気づけば彼らは三体の化け物どもに囲まれていた。


「好きにはさせん……!!」

マリアは己が血をその刀剣に纏わせる。

身の丈を超えた赫の刃を持ってして鯨を叩き斬る。

一つの屍を乗り越え二つのそれらが姿を表す。

マリアは再度その刀身に赤を塗り迎撃せんと構えた。

「くっ……」

揺らぐ赤の刀身。

ブラム=ストーカーの能力の大半は己の血を源としてその能力を発揮する。

これまでの連続戦闘による消耗は決して小さなものではなく、マルコの隊長たる彼女であっても誤魔化しの効かないものとなっていた。


そしてその僅かな隙は、致命的なものとなり得た。

「マリアさん……!!」

咄嗟の垂眼の攻撃。

化物を倒し切らずともその体躯は揺らぎ、それ以上の追撃は叶わず。

「助かった……!!」

「マリアさんが倒れたらどうしようもないですから!!」


次に狙われたは垂眼。

化物は己の巨大な体躯で垂眼を押し潰さんと迫る。

「オラァこいよ!!」

軽やかな足取りで回避。

直後、四肢が振るわれるがそれも回避。

全ての攻撃を一度たりとも食らう事なく、彼は一人化け物を翻弄し続けたのだ。


刹那、前後左右全ての方向からそれは迫った。

「オイオイオイ、死ぬわ俺」

針の穴を通すが如く、僅か僅かに生まれた攻撃の隙間を掻い潜り躱し続けるがそれも限界が訪れる。

「っても、タダじゃやられねえ……!!」

風纏し剣を振るう。

化物の拳と交差し、一刃が肉を切り裂く。

頬をかすめた拳に体が持っていかれそうになる。


それでも今はまだ立ち続けなければならない。

倒れれば立ち上がれない、そんな予感がしたから。

強大な力に抗うように右足に力を込めて踏ん張った。


————力が抜けた。

「っ……!?」

油断ではない。

たしかに力は込めたはずだった。

なのに体が揺らいだ。


迫る残りの化物ら。

この隙は僅かなもの。

だがこの一瞬が終わりに繋がる、彼はそれを理解した。

1秒後に訪れる、死を覚悟した。


だが、2秒の時が過ぎた。

見上げればそれらは動きを止めていた、いや、"止めさせられていた"。

「うぉっ!?」

3秒目では体にワイヤーが巻きつけられ、勢いよく後方へと引き寄せられる。

「マリア、一度下がれるな」

「ああ……助けはいらん……!!」

彼が気がつけば解かれたワイヤーを袖の中に収容する黒鉄と魔眼の力で動きを止める禅斗の姿が。

「すんません助かりました……!!」

「礼はいい。一人として欠ければ勝ち目がなくなる、そう判断しただけだ」

「素直になれよ黒鉄。誰かが欠けたらイリスちゃんが悲しむと思ったんだろ?」

「……それも多少はあったが、それでも一番は戦力としてだ」


黒鉄は正面の化物らに目を向ける。

先程、垂眼を殴りかかった鯨。

それが負っていたはずの傷は、みるみる塞がり始めていた。

それは確かに垂眼の生命力を奪い、傷を癒していたのだ。

「オイオイ、キリがねえじゃねえか」

「掠っただけでもダメとは……厄介だな」

「加えて数も多い。こうも数が多いと食べきれず廃棄処分が出てしまうな」

「食う前にこちらが先に喰われてしまいそうだがな」


軽口を叩いてはいるが、状況は何もかもが最悪だ。

単騎の戦闘能力も、数も、リソースも、何もかもがあの遺産には敵わない。

一つ間違えれば、誰かが死ぬ。

誰かが死ねば、全員が死ぬ。

一つのミスすらも許されない、綱渡りも同然。

それも時間と共に綱が細く、ゴールが遠ざかる地獄のような戦いだ。


それでも彼らはそのゴールを見据える。

「マリアさん、何か手はないんすか……?」

「イリーガル、お前に確認したい。奴らの数の最大は」

「7だ。それ以上は増えていない」

「やはりか」

「どういう事っすか」

「なるほど、リソースは無限にあれどそれを使える量は限られるというわけか」

掴んだ一つの勝ちの目。

彼らはそれを手繰り勝利をこの手に掴もうとする。


「あとはあの硬さをどうするかだが……」

「……禅斗」

「みなまで言うな黒鉄。奥の手、だろ?」

「ああ」

示し合わせる二人。

支部でのしたり顔……ではないが、二人は確信していた。

「何か、策があるんだな?」

「30秒でいい。時間を稼いでくれ。」

「30秒でどうにかなるんすか……?」

「どうにかなるかはお前たち次第だ。だが———」

青年は身の丈程の黒い鞄からソレを取り出し、

「それまでの道を切り拓く事だけはできる」

確かな、彼が飾らずに答えられる最大限の言葉で答えたのだ。


「なら、その策に乗せられるとしよう」

「頼んます、黒鉄さん」

マリアと垂眼はそれぞれの剣を構え、再度敵へとその目を向ける。

「さて、オレたちは奥の手を出すとしようか」

「ああ」

禅斗、黒鉄の両名はそれぞれの奥の手を握る。

「行くぞ……!!」

「はい!!」

そして二人が駆け出すと同時、最後の攻撃が始まる。

少女を救い出すため、今彼らは全力を解放した。





コイツを構えると同時、口に砂糖菓子を咥えた。

かつては狙撃の際に余計な感情や雑念を排除するため、その頭の中を煙で満たし思考をクリアにしていた。


それももう、過去の事。


今はタバコを模した砂糖菓子だからいくら吸おうとも煙はなく、雑念も感情も消え去ってはくれない。


だからこそ、はっきりと見えるものもある。


少女を救いたいと全力を尽くす、皆の覚悟が。

誰も傷つけたくないという、少女の願いが。


人の想いが、この状況を覆し得るということも。


そして、彼らを見ることで余計に確信できた。




————俺は決して彼らのようヒーローにはなれない、と



俺には彼らのような覚悟も想いも、自己犠牲の精神もない。

冷酷で、打算的な、ただの人殺し。それが俺という、黒鉄蒼也という男だ。


それでも憧れは止められず。

それでも願いは見捨てられず。


ならば己がなれなくても構わない。

ただ誰かを救いたいと願う、その人の路を切り拓く。


それがきっと彼らに応える唯一の方法で、虚無ヌルではない、蒼雷フルグルの在り方だから————




閃光。


彼の右腕は蒼雷に覆われ、その全てがソレのキャパシタに吸い込まれて行く。


彼が構えしソレはアンチマテリアルライフル、"NTW-20"。

彼が死神と呼ばれたその頃から愛用する最強の長銃。

その弾丸は鉄の壁をも穿ち、あらゆる命を奪い去る。


まさに彼を死神たらしめた象徴とも言えるそれの銃口を、エレウシスの秘儀へと向けた。


————出来ることなら、使いたくなかった。


そんな雑念が彼の頭をよぎる。


これは命を奪う、殺しの為の武器だ。

俺が殺す事しかできない人間だという事を再認識させられるから。


だが今は、彼らの道を切り拓ける。

誰かを救うために使えるのなら—————


「それがお前の奥の手か、黒鉄」

「ああ。これが俺の最大戦力だ」


隣で魔眼を構える禅斗。

二人はただ一点に、一つの結末に狙いを定める。

「さて、準備はいいかな?」

「ああ」

少女を救う為、希望を彼らに託す為、二人は切り札を開放した。


「あと5秒……黒鉄さん……!!」

「全員射線から離れろ……!!」

再度、雷をその右腕に宿す。

身を焼き尽くさんほどの雷が、彼の右腕から溢れ出す。

蒼き光の全てが一点に集中し、雷糸が迸る。

「お前達の道は俺が切り拓く……だから———」

持てる全ての力をその手に集め、

「お前たちの為すべき事を為せ……ヒーロー共!!!!」

徐に引き金を弾いた————




瞬間、蒼雷が瞬いた。

射線上の全てを飲み込みながら、それは地を斬り裂きながら進み続ける。


それは絶望を切り拓く、一筋の光。



そして一矢が通り抜けたその線上には、もはや何一つ残らず。



そこにいたはずの鯨の化物も跡形もなく、弾丸は確かにエレウシスの秘儀に突き刺さった。



「禅斗……!!」

「ああ」

禅斗は静かに、穏やかにそれを構える。



「オレはいつだって君を見守る……。イリスちゃん、君がオレたちの庇護を必要としなくなって独り立ちするその時まで……!!」

それは彼の大人として、彼女の幸せを願う一人の男としての誓い。


数多もの世界を見た。


数多もの悲劇を見た。


少女を救えなかった未来、誰かが犠牲となった未来。


その全てを、彼はその目で見た。



だが今ここには確かに、救える未来が存在する。


誰もが笑える世界を。

友とは肩を並べる事はできずとも、友の理想と共に、皆が、少女が笑える世界を。


その手に触れた、世界を守る為。


「オレの見守る目、それは君を縛る災厄を射抜く眼光……!!」

彼の手の上に浮かぶ黒き魔眼は次第に、次第に小さくなっていく。それは手で摘める、弾丸程に。

「貫け、我が奥義」

そして音もなく、それは静かに放たれた。





————魔眼、それは全てのバロールが持つ黒き球体。

その存在は明らかになっていない、不可思議なものだ。


されど、彼の物だけは既存の物に当て嵌めることができた。


この世に存在する光さえも呑む、なによりも強大な重力を持つ球体。




ブラックホールだ。




彼が放ちしそれは高密度のブラックホールを更に圧縮。

その密度は、この世に存在するありとあらゆる金属など比にならず。


それは黒鉄の放った弾丸を楔とし、確かに今、

「これがオレの切り札、その一だ」

エレウシスの秘儀を撃ち抜いた……



大きく孔の空いたエレウシスの秘儀。

「———————!!」

それに意識があるかは定かではない。

だがそれは確かに、初めて命の危機を感じたのだ。

死への恐怖。

それは怪物を暴走させたるにはあまりにも十分で、最後の抵抗を見せようとする。


されどそれよりも早く、彼は駆けていた。

「オレの役割はここまでだ。さあ、眠り姫を呼び覚ますのは王子様の仕事だ!!いけ、垂眼!!」


少年は振り返らず、ただ彼らに託された想いに応える為、ただひた走る。

狙うは拓かれた傷。

既にそれは塞がり始めていたが、彼の速さ前では間に合うはずもなく。


「これが俺の……切り札だオラァ!!!!」


斬り裂く。

二人が開いた傷を広げるように。

刃が皮を裂き、風が肉を抉る。


トドメを差し切ることは出来ずとも、その刃が彼らの勝利を、少女の未来を確かなものへと変えた。


「マリアさん……あとは頼みます……!!」


そして彼の言葉に応えるように、彼女はその刃に赤を纏わせる。


潜血で象られたそれは、もはや禍々しいとも言えるほどに。

「この一撃で全てを終わらせる……」


幾度となく悲しみを見た。

不条理とも言える強大な力に、何もかもを奪われた人々を。

絶望の最中で苦しみ人たちを。


どれだけ救おうと思っても必ずこの手から零れ落ちて。

そしてそれはいつの日も悲しみをもたらした。



それでももう、これ以上は奪わせない。

たった一つ、それさえも守れないのならば、ここに自分がいる意味がない。


だから————


「イリス、あなたを救ってみせる」


誓いの下に、その剣を振り抜いた。




一閃。

振り払われたその刃は禍々しき鯨の身体を一瞬にして両断。

血と水が撒き散らされ、その威力の激しさを物語る。


二つに分かれた体は繋がる事はなく、エレウシスの秘儀は生命の終わりへと導かれた。




————筈だった。


「っ……!?」

力の逆流。マリアの全てを込めたその一撃が、彼女の元へと返る。

それは遺産、人ならざる物さえも斬り裂く強大な一刃。

それだけの威力が人の身に耐えられるはずもなく。

「アガっ……!?」

今彼女を、彼女自身の刃が斬り裂いた。


「マリアさん!!何だよそれ!!」

垂眼は駆け寄ろうとするが、それよりも早く復活した鯨の化物が彼の行手を遮る。

「邪魔すんじゃねえ……!!」

垂眼はそれを怒りのままに斬り伏せ彼女の元に向かわんとする。

だがどれだけ斬り伏せてもそれが途絶える事はないのだ。


「マリアさんはオレが……!!」

禅斗が駆け寄ろうとした瞬間、その足元からそれは蘇った。

「っ……!!」

振りかぶられる拳。

回避は間に合わない。

未来がそう告げているから、そう受け入れようとしたその瞬間。

「禅斗……!!」

突き飛ばされる。体は大きく逸れ、拳の軌道からも外れていた。

だがその拳の先に、

「黒鉄!!」

彼はいた。


「黒鉄さん!!」

宙を浮かび、地を転がる黒鉄。

垂眼は掠ったからからこそわかる。

あれをモロに喰らった人間が、生きることは叶わないと。

たとえ立ち上がったとしても、もうまともに戦えるはずがないと。

「ああ、クソ……ガラでも無い事はすべきでは無いな……」

鞭打つように立ち上がる黒鉄。

だが迫る鯨のその攻撃を避ける余力など、もう残っていない。


ならば、せめて———

「右腕の一本くらい……!!」

彼はその右手に最後の雷を宿す。

せめて、少しでも彼の行先が開かれるように。

そして鯨の化物がその大口を開けると同時、

「垂眼……」

その右腕を突き出し———

「あとは、頼んだ」

光が、瞬いた。



爆ぜる。

蒼雷が爆ぜ、肉と血が撒き散らされる。

「黒鉄さん……!!」

確かにそこに彼の体はあれど、その身体から右腕は失われ、力なくその場所に倒れる。

ほんの僅かな綻びが、彼らを死の淵へと追い込んだのだ。



絶望。



その二文字が頭をよぎる。


あの瞬間、誰もが全力だった。

出し惜しみなど誰一人していなかった。

それでも敵わぬのなら、勝てないのではないか、救えないのではないか。


もはやこれまで。

そんな考えが、よぎった。




「もう……やめて……」

声が聞こえる。涙混じりの、少女の声。

それは、エレウシスの秘儀の方から聞こえた。

「イリス……!!」

振り向けば、斬り裂かれたその深奥に彼女の姿が。少女は涙をその手で拭うが、その手は濡れ続け、乾く事はない。


「なんで、なんで私の大切な人を……誰も、誰も傷つけたくないよ……!!」

叫ぶ、ただ必死に、それに呑まれながらも。

今はもう嘘偽りのない、その言葉を吐き出す。


ただみんなに幸せに生きて欲しかった。


自分はこの運命から逃れられない。だからせめて、せめて、そう願ったはずなのに。


でももし叶うなら。


まだ願うことが許されるなら。


「タレメ……お願い……」

彼目掛け手を伸ばし、

「助けて……!!」

最後の願いを、口にした。




塞がる傷がイリスの悲痛な顔さえも覆い隠していく。


そこに有るのは絶望。

ただそれだけ。



その筈なのに。



「垂……眼……」

微かに聞こえるマリアの声。

彼女もまた力尽き、そこに倒れている。

己が戦えぬ事は理解していた。

故に彼女もまた、手を伸ばす。



そこに有る、唯一の希望に向けて。




「ちっくしょう……揃いも揃ってどいつもこいつも……」


きっとここで挫ければ、楽に死ねたのだろう。


きっとここで倒れれば、もう苦しむ必要もなかったのだろう。


きっとここで絶望に呑まれれば、もう後悔なんてものもしなくてよかったのだろう。



「弱ぇっつってんのに俺を頼るんだもんな……」


それでももうその選択はしないと、心に決めていた。


救われたいと願った少女がいるから、救いたいと願った彼らがいるから。


その願いを、託されたから。


「絶望してる暇もねぇや!!!!」


少年はその願いと共に、剣を強く握りしめた。



吸い上げた生命を用いて身体を再生する巨躯の獣。

その向こうで、彼女が彼を見ている。


振り返るな————

たとえその先が見えなくとも。


立ち止まるな————

深き絶望の底にあろうとも。



彼女の明日を———


未来を———


希望を———


その手で、心で勝ち取れ。


折れる事のない、強き心で。




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