第23話 最弱な戦士7

 二人は部屋に戻る事にした。

「ああ、無駄な時間を費やした。悪かった。煙くなったな」

「ううん、私もルカの立場だったら、相当苛立っていたと思う」

 ニアが首を横に振った。

「そうか」

「それにしても、随分と必死だったよね」

「大方、出来のいい兄達を持って、それが重荷になっているんじゃねーのか、自分に出来るのはこれしかないと、変な使命感を作っちゃってな」

「そうね」

「だから、全部話してしまったが、あれで諦めないとは思わなかったよ」

 マルコの執念は、ルカの考えを超えていた。

「確かに」

「まあ、勧誘は日常だから仕方ねーけどな」

「そんなに受けているの?」

「まあな。人間から魔族まで、どうやら、魔王の孫と隠していても、力が出れば、欲しがるらしい、人間の姿をした異能者じゃ当然かもしれないがな」

「そうよね」

 ルカは見た目以上の力を秘めていた。

 魔王の力は相当強いと言う事が分かる。

「巻き込んじまって悪かったな」

 ルカは笑って見せた。

「大丈夫よ。仕方ない事だもん」

 ニアも笑った。

「それよりも、あんた、無茶ばっかしていたらいつか死ぬよ」

「そうだな。死ぬかもな。まあ、仕方無いよ」

 ルカはあっけらかんと歩いている。

「あんた、村にいたときからその態度ムカついていたのよ! なんでそんな態度を取るの!」

「知りたいか?」

 ルカは振り向き、ニアの目をしっかり見た。

「ええ」

「そうだな。あえて言うなら、俺は俺の命が重いと思っていないからだな」

 ルカはまた歩き始めた。

「はあ~どう言う意味よ!」

「まあ、それはいい過ぎだけど、分からないんだよ。俺がここにいる理由が、何故生まれて来たのか、一層生まれて来なければ、良かった……そんな事を……ぶたないで」

 ルカが考えながら話していると、背中に殺気を感じて、急いで振る向くと、ニアが手を上げていた。

「ぶちたい!」

「だから、言い過ぎかもって言ったんだよ。とりあえず、言葉にするのは、難しいけどこれだけは言える。俺の命の重さが他人と同じだななんて思っていないんだよ。イコールになれば、少しは大事になるんだろうな~って、ニア……いや、ニアさん……」

 ニアは手を挙げている。

「あんたね。殴られたら痛いんでしょう?」

「ああ、まあ」

「痛みを感じるのに、なんで、そんな痛みを伴う無茶をするのよ」

「それはだな」

「だから、殴りたいわ」

「殴らないで……」

「分かった殴らないわ。後で投げる事にした」

「止めて、違うから、命が軽い訳じゃないんだ。命は重いけどだな~」

「何を言っても無駄よ。要はあんた、自分の命を軽く見ているんでしょう!」

「違う。いや、間違ってないけど、そんな単純なもんじゃなくって……分かった俺が悪かった。だから、投げないで」

「投げるわ。覚悟しなさい!」

「なあ、悪かった。この通りだ。済まない」

 手を合わせて謝る。

 まるで、浮気がバレた後のような会話となりつつあった。

「私はそう言う人大嫌いなのよ。あんた最悪ね。スケベの上に命も粗末にして」

「だから、違うって」

「なにが違うのよ!」

 ニアはルカを追い抜き、早歩きをしてルカと離れた。

「それはだな」

「メフィストさんが心配するのも、よく分かるわ。そんな事していたら、きっと両親だって悲しむわよ!」

「そうか、親か」

 ルカの顔が更に暗くなった。

「そうよ親よ。私は両親に会いに魔界に行くの。大事な人だから。遠くから両親も私を心配しているのよ。心配しない両親はいないわ」

 ルカはニアを追い越した。

「そうだな」

「どうしたのよ」

「いや、なんでも無いよ。そうだな。悲しむな。本当に悪かった」

 ルカは無理に笑顔を作っていた。

「何よ。急に、ルカの両親もいるでしょう?」

「ああ、いたな」

「なによ。過去形で言って」

「俺、物心ついた頃から、じーちゃんに育てられたんだ。かーさんは物心ついた時に死んだし、とーさんは顔も知らないよ」

「そんな」

「だから、両親が悲しむとか、分からないんだよ」

「ゴメン」

「いや、知らなかったし、気にしなくていいよ。俺さ、クォーターだろう? 人間のとーさんは、魔王と人間のハーフのかーさんを捨てて、俺も捨てた。かーさんはそんな俺を悪魔と呼んだ。捨てたとーさんの面影を見ていたのか、元々持っていた魔族の血を嫌っていたのか、かーさんは俺が嫌いだったんだよ」

 ルカはポツポツ話始めた。

「そんな、子供を嫌う親なんて」

「やっぱり、俺、気持ち悪い奴なのかもな」

「ルカ……」

 ルカの背中を見て、ニアはルカとの会話を思い出した。

 同じ言葉をルカは言っていた。


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