第21話 最弱な戦士5

 とりあえず、男の子の部屋に入った。

 男の子はスイートルームの乗客だった。

 中はとにかく広い。

 一泊しか止まらない列車にしては広い。

 ニアの感想はそれに尽きなかった。

 ニアとルカの部屋にもトイレは無く外になる。

 しかし、ここは違う。凄い清潔感のある部屋に、ベッドは勿論、トイレやキッチン、広いバスルームもある。

(こりゃ、新婚旅行にしたい気持ちも分かるな)

 ルカの言っている事は間違っていなかった。

 どんだけお金をつぎ込めばいいか、想像がつかない。

 こんな豪華部屋で新婚旅行は、夢のような話である。

「僕の名前はマルコです」

 ニアに自己紹介する。

 ニアはマルコと握手を交わすと、隣にいたルカはむすっと、顔を膨れた。

「どうしたの?」

「別に」

 ルカが気になって、声をかけてが、ルカはソッポを向いたまま、なにも話そうとはしなかった。

「しかし、また、あなたに会えて良かった」

「俺は、面倒になるから二度と会いたくなかったよ。しかも、こんな部屋で、さぞ、儲かっているんだな。白の戦士団は」

「いいえ、これは僕の実家のお金です」

「どっちでも、いいよ」

「ちょっと、今、さりげなく、凄い事言わなかった? 白の戦士団って、あの白の戦士団よね?」

 ニアも本でしか読んだ事がないが、白の戦士団は魔物を倒す為に、人間達が組織した。

 その昔は魔族との戦争でも活躍した由緒ある集団だった。

「まあな。それ以上でもそれ以下でもないよ。ただ、こいつが戦士と呼べるかは、人それぞれだがな」

「えっ? どう言う意味?」

「本人に聞け」

 ルカは話したく無いみたいで、イスと灰皿を窓に持って行き、窓を開けると、タバコを吸い始めた。

 そうとう、イライラが溜まっているようだ。

 ニアとの会話より、タバコを優先させた。

「ルカさんの言う事も最もですよ」

 マルコはルカに会った時の事を話し始めた。

 ルカは、どっかの昔話にありそうな、山に鬼退治に近い、山に魔物退治に行った事があった。

 そこで魔物に襲われていたのが、マルコであった。

(最低な戦士だ。本当に、一応、戦士なんだね)

 ニアは話を聞く限り、余りにも戦士らしく無かったからだ。

 ルカが、スケベでどうしょうもない酒飲みでも、一人前の戦士とするなら、マルコはその下だ。

 戦士は出逢った魔物と、強くともある程度までは勇敢に戦うが、マルコはそんな事をしなかった。

 マルコは魔物に出逢い怯えて、体を丸くしていた。

「よく、戦士でいられるわね」

 つい、言ってしまった。

 こう言う事は一度脳を通して、咀嚼してから言う物だが、マルコの話はそんな連鎖反応を無視していた。

「ええ、名前だけです。僕、両親も兄二人も戦士でしたから、無理矢理戦士になったのです。でも、向いていないのですよ。魔物を見ると、怖くて足が震えてしまいます」

 ニアがバカにしたように言っても、マルコは笑顔を絶やさず答えた。

(親族の七光りね)

 ニアが呆れ返っていた。

 それはそれで問題であるが、今は話を続ける事にした。

「それでルカさんは、僕が恐れた魔物も傷つきながらも勇敢に戦いました」

(まあ、あいつらしいのかも)

 ちらっと、ルカを見ていた。

 まだ、タバコを吸っている。

 出会って数日しか経っていないが、ルカと言う男は究極のバカだ。普通、解雇した村を助けたりはしない。

 これをバカと言わずなんと言う。感謝しているが、ニアはルカをそう位置付けていた。

 ニアはルカの行動に想像出来た。

「それで、ルカさん、あの時の傷、大丈夫ですか? まだ、一ヶ月も経っていませんし、かすり傷と言っていましたが、かなり急所に入っていたと、思うんですが?」

 しかも、あの時の傷を、他人に心配かけないように平然を装っていた。

(バカだ。バカ過ぎる)

「ああ、大丈夫だ」

 今更、ダメだったとは言えないし、言わないだろう。

 本当は大丈夫なはずは無いのだが……。

(いつか、確実に死ぬわ)

 ルカの命を軽視する考えは納得出来なかった。

(あとで、問い詰めてやる)

「でも、僕はすぐ医者を呼びに行ったのですが、戻った時にはいなくって、あの時は探しましたよ」

「そうなんだ」

 ニアは苦笑いを浮かべた。

 体質的にほとんどの傷が治っていて、一番深い所も一晩眠れば完治するとまで言われた。全く、無茶苦茶な体をしている。

 だから、医者に見せたくないと逆の説も考えられた。

 純血の人間からすれば、魔族も魔王のクォーターも変わらない。

「別に平気だったんだ。今さら蒸し返すな」

「そうですよね。それよりルカさん。こっちで、お茶にしませんか?」

 メイドがお茶とお菓子を持ってきた。

「俺は女の子をおかずにお茶は飲みたいが、男のしかもお前は嫌だぞ」

 新しいタバコを吸い始めた。

「そんな酷い事言わないで下さい」

「俺は俺の生理現象を正直に話したまでだ」

「そうですか、まあ、いいです。それより、白の……」

「断る」

 ルカはマルコの言葉を切ってしまった。

「せめて全部言わせて下さい」

「言わなくてもいいだろう。どうせ、勧誘がしたいんだろう。俺は断っているんだ! 何度も言っているだろう」

「ですが、心が変わったのかと思って」

「一ヶ月で心が変わるか!」

 ルカに似合わず、怒鳴っていた。

「大体、お前に会う前にお前んとこの副隊長にネロだったけな~」

「ネロさんですか! 今、隊長、やっています」

「そう、まあ、どっちでもいいや、とにかく、そいつにスカウトされたんだ」

「それを断ったんですか! 勿体無い。隊長さんはそう簡単に勧誘なんてしない方だ。それを断るなんて」

「ねえ、ちょっと待って」

 ニアが口を挟んだ。

「なんですか?」

「ルカの何処がいいのよ?」

「そんな野暮な質問しないで下さい。ルカさんは隊長に匹敵する程の実力を持っています。僕は一目で、ルカさんしかいないと思いました」

「あっそう」

(まあ、無駄に強いもんね)

「ねえ、来て頂けませんか?」

「嫌だ」

「どうして、そう即答するのですか? せめて理由を聞かせて下さい」

「んじゃあ、言うけど、まず、面倒、あと俺は今、大事な仕事の真っ最中なんだ。それをほっぽり出す程、腐っていないよ」

「なんつー単純な理由」

(まあ、私の事を考えているのは分かったが……)

 最初は呆れていたニアだが、少し嬉しかった。

「次に隊長が気に入らない」

「隊長さんは偉大です!」

 マルコが間髪入れずに反論した。

「最後に白の戦士団の思想が嫌いなんだ」

「思想?」

 ニアが聞き返す。

「ああ」

「隊長も、思想も偉大です!」

「それが合わないんだ。だから、断ったんだよ。そして、その言葉からして変わっていないようだし、どっちみち、俺はブラリと旅がしたいんだ。だから、俺は断る」

「何故です。あなたがいれば、魔王を倒す事も可能だ! なのに」

「それが気に入らないんだ。俺は魔王を倒す気は無い」

「何故です。魔王をこのまま野放しにすれば、いつか世界は魔王の物になってしまいます。そうなれば、元も子もなくなります」

「さっきから、理由を聞きたがりやがって、その思想が気に入らないんだ。そー言う考え方、見方をする奴がいるのは分かっているし、それを否定する気も今は無い。だが、それを無理矢理強要されるのが、一番腹が立つんだ」

 会話がヒートアップしていった。

 ルカはタバコの火を消し、もう一本吸った。

「それでも魔王は倒さなくてはならない。あなたにはその力がある。なんで分からないのですか!」

 マルコは今までに無い程の強い口調で言った。


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