第18話 最弱な戦士2

 二人と一匹は港町メズスに着いた。

 メズスは漁港が盛んな町で、魚を求めてやってくる者も少なくない。

「それで、ここから、どうやって魔界に行くの?」

 町の中の整備屋にいた。

「ああ、海を渡る。海上列車がここにはあるんだ。その列車に乗れば隣の大陸まで一日で着く。そっからまたバイク走らせたら、そうだな~一週間で着くかな」

 ルカはタバコを吸いながら、慣れた手付きでバイクの整備をしていた。

「海か~」

 ニアの目が輝いていた。

「ねえ、海行ってもいい? 海初めてなのよ」

「これだから、田舎者は」

 ニアの言葉にギギがすぐさま悪口を言った。

「あんたは五月蝿いのよ。いつか、コウモリの丸焼きにするよ」

 ニアがギギを素早く捕まえ、首を絞めた。

「苦しいでしゅ、暴力女~」

「なあ、コウモリの丸焼きって美味いの?」

 ルカが無邪気に聞いてみた。

「やった事無いわ、でも、味付けは塩とコショウがいいかな~」

「ああ、鶏肉みたいで案外美味いかも。じゃあ、作ったら教えて」

「ええ。分かったわ」

「不吉な事を言うなでしゅ!」

「まあ、今日は脅しだけでそれは次の機会の楽しみにしましょう」

 ニアはがっかりしていた。

「そうか、次か……」

 ルカもがっかりしていた。

「こいつら信用出来ないでしゅ」

 ギギが呆れていた。

「それで、海行きたいんだけど」

「そうか、海に、いいよ。ってか何、ニア水着着るの?」

「着たいけど、あんたがいなかったらね」

「なんで?」

「どうせ、私の着替え目当てでしょう?」

「うん」

 迷う事無く素直に頷いた。

「だから、嫌よ」

「残念」

 ルカはため息をついた。

「それで、行っていいのね」

「ああ、いいよ。これでよし」

 ルカはバイクを押し始めた。

「んじゃあ、俺は海上列車の切符手配して来るから、ギギ、ニアの案内してやれ」

「えーなんででしゅ」

「暇そうだから、他になにか理由は?」

「暇じゃないでしゅ」

「ふうん。ニア、今晩はコウモリの丸焼きがいい」

「そうね。丁度いい材料あるしね」

「分かったでしゅ。一緒に行くでしゅ」

「んじゃ、よろしく」

 ルカは海上列車の方に行った。

「なんで、僕が、こんな人間に」

 ギギはフワフワと飛びながら、海に向かった。

 ニアも付いて行く。

「ねえ、なんでそんなに人間が嫌いなのよ。そもそもルカも戸籍上は人間でしょう?」

「正確に言うなら、無知な奴が嫌いなんでしゅ」

「無知ね~」

「無知は罪でしゅ。僕の事を冷たい目でみるんでしゅ。魔界の進んだ科学はここでは、異物の扱いでしゅ。喋るコウモリなんて、差別の対象でしゅから、科学を知らない人間は嫌いなんでしゅ」

「なる程」

「ルカしゃんは、その辺詳しいでしゅから、僕以上に」

 ルカから学ぶ事が多かった。

「へー」

「だから、人間は嫌いなんでしゅ、勿論、あんたもね」

「随分、喧嘩腰ね」

「当たり前でしゅ。ニアは僕の敵でしゅから、ニアが現われてから、ルカしゃん、ニアにばっか構って……」

「あれ、ギギってもしかして」

「そ、それの何処が悪いでしゅか?」

 真っ黒なコウモリ姿が、一気に真っ赤になった。

「いいえ。全然、魔界の科学は素晴らしいと感心したの。感情まで、作ったなんて」

「それはどうもでしゅ」

 ギギは拍子抜けした。

 その間に、海に到着してニアは海を見た。

「うわぁぁぁ。キレイ」

 本でしか見た事無かったコバルトブルーの海を、ニアはこの時初めて目にして、感動していた。

 急いで、カメラを取り出し、シャッターを何回も押す。

「本当に、旅に出てよかった」

 ニアは笑った。

「ニアは、ルカしゃんの事をどう思うでしゅか?」

「どうって、ただの友達だよ」

「そうでしゅか?」

「ええ。好きでも嫌いでもないな。まあ、スケベな所は直して欲しいけどね」

「そうでしゅか、良かったでしゅ」

 ギギは安心していた。

「おーい、切符手に入れたぞ」

 ルカが満面の笑みでやってきた。

「これ、ニアの分な」

「ありがとう」

「僕の分は?」

「あん? 無いよ。ペットは籠に入れりゃ無料だから買ってない」

 そう言い、持っていた籠を見せた。

「僕はペットじゃないでしゅ」

 ギギは空をグルグル回り、暴れていた。

「しょうがねーだろう。三人部屋空いて無かったんだから」

「やっぱり、この人間邪魔でしゅ」

「こら、そんな事言うな!」

 ルカは無理矢理捕まえ、籠にギギを入れた。

「酷いでしゅ」

「ちょっと可哀想じゃない?」

「まあ、そうだが、しょうがないだろう。俺やニアが籠に入る訳には行かないだろう」

「まあ……」

「ギギ、ちっと我慢しろ。部屋に入ったら、すぐ出してやるから」

「分かったでしゅ」

 ギギは大人しくなった。

 二人と一匹は列車の中に入った。

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