カクワカ(隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される・おまけ短編集)
永久保セツナ
短編01・少年趣味の女性は何かと苦労する。
少年趣味――プラモデルやカードゲームなど、男性が夢中になる傾向にある趣味を好む女性というのは、何かと苦労がつきものである。
私、藤井こずえも、その例にはもれない。
「はあ……」
「どうしたんですか、こずえさん。ため息なんてついて」
スマホを見ながら思わず嘆息する私を、旦那であるスバルさんが気遣うように見る。
「ちょっとこれ見てくださいよ」
私はスマホの画面をスバルさんに見せる。
画面には私が登録しているSNSが表示されている。
「最近SNSにプラモとかカードパック開けたときの写真とか載せてるんですけど、知らない人から『お前ネカマだろ』って言われちゃって」
ネカマ。「ネットオカマ」の略称である。男性が女性のふりをしてネットで活動していることを揶揄する蔑称だ。
最近私は誰かと趣味を共有したくてSNSで前述したようなプラモやカードゲームの写真、少年漫画の感想なんかを投稿しているのだが、男性だと思われてしまうことが非常に多い。
別に趣味に男女とか関係ないと思うんだけどなあ……。少女漫画が好きな男がいたっていいし、戦車が好きな女がいたっていい。自由とはそういうことだ。
「しかも『女性ですけど……』って返すと『証拠を見せろ』と来たもんですよ。どう証明しろと? 仮に自撮りを上げたって『どうせ拾い画像だろ』とか言うんですよあいつらは」
「こずえさんは苦労人ですね、お可哀そうに……大丈夫ですか? そいつ潰しますか?」
「いえ、そこまでしなくていいです」
スバルさんは本気でやりかねないから怖い。権力や財力を持った人間は恐ろしい。物騒ぅ……。
「というか、こずえさんSNSやってたんですね。そんなものに写真なんか載せなくたって、わたくしにだけ見せてくださればいいのに」
「スバルさんはまたそうやって私を依存させようとする……」
いえ、そういうところも好きなんですけども。
「わたくしに隠れて他の人間と趣味を共有して繋がりを持とうとは……これはお仕置きが必要ですね」
「ひえぇ……浦島太郎鉄道百年プレイは勘弁してください……」
あれはマジで堪える。
「いえ、それは流石にわたくしにも堪えるのでしませんけど……というか『お仕置き』という単語でそれが出てくるこずえさん、純粋ですね……」
「?」
「今日も愛らしいという意味です、気にしないでください」
よくわからないが、スバルさんが幸せそうな笑顔を向けてくれるので良しとしよう。
「というわけで、フォローしました」
「はい?」
スバルさんの発言と同時にスマホの通知音が鳴って、画面を見ると「藤井スバルさんにフォローされました」という文字が。
「は!?」
私は驚愕の表情を浮かべた。一企業の社長にフォローされるとかヤバすぎ案件では?
「こ、これ会社の宣伝用アカウントでは!?」
「本来プライベート用に作ったアカウントですが、まあ結果的にそうなってしまったというか」
スバルさんのアカウントを見てみると、フォロワーの数がとんでもないことになっている。まあ経済誌にも載るような有名人なので当然といえば当然なのだが。
「っていうか、なんで私のアカウント……」
「さっき写真を見せてくれたときにアカウントのID見えてましたよ?」
やらかしたー!
スバルさんは妙に記憶力がいいのだ。一瞬見せたものでもすぐに覚えてしまう。瞬間記憶能力でもあるのか?
「わたくしたち、SNSでも繋がれましたね」
語尾にハートマークでもついていそうな甘いセリフを吐いて、スバルさんはにっこりと笑う。
この……この笑顔には弱い……。
私は渋々とスバルさんのアカウントにフォローを返すのだった。
〈おわり〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます