第二幕 トッププレイヤーたち
「はじめまして。よろしくお願いします。」
「はじめまして~」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「よろしくです。」
「よろしくね~^^」
「Nao」は、新しく加入したギルドのメンバーのLVを確認して驚いた。
(INしているメンバー5人全員が85オーバー!?)
「Nao」のLVは80。サーバー統合後、レベルの最高は80から90に上がったのだが、ギルド探しを中心にLV上げをしなかったのである。
(・・とは言っても、サーバー統合からまだ5日。・・トップ集団なのは間違いなさそう)
興奮せずにはいられなかった。特にギルマスのLVは88。全サーバー中おそらくトップのLVであろう。
「はじめまして、当ギルドへようこそ。マスターのライアスといいます。よろしくお願いします。」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。」
その当のギルマスからの挨拶。思わず、また返事を返してしまった。
「さて、新しく入った人には一応、当ギルドのルールを簡単に説明しているのですが、・・ちょうど今83Dに入ったばかりで、説明はこの後、30分後くらいでいいですか?」
今の時間を確認する。ちょうど0時過ぎ。うん、これなら。
「はい、大丈夫です。今日は1時くらいまでは、INするつもりです。」
「すいません。終わったら声かけますので。では、いってきます。」
「お~、がんばんぞ~」
「・・いってくる・・」
そしてPT中での会話に切り替えたのであろう。もうギルド向けのチャットは流れない。
でも、私は悪い気はしなかった。むしろ日が変わったこの時間でも、活動しているギルドであることが嬉しい。
(今までのギルドは、どこか手を抜いていたから・・)
<「Hiro」さんがログインしました。>
「こんばん~~。・・うわ、マジでもう83行ってる」
「こんばんは。そういうことなので、しばらくしゃべらんぞ」
「こん~。はよ上げろやw」
「ばんは。」
「ばん~。・・早く上げろ。」
「こんば~。んじゃPTチャ戻るわ。」
・・と思ってたら、またいきなり会話と言うか挨拶が流れた。ふむ、適性ダンジョンでもこの余裕というのは。
とりあえず、入ってきた方に挨拶をしないと。
「はじめまして。つい先ほど新しく入りました。よろしくお願いします。」
・・・・・
・・あれ?反応がない?まさかシカト?
「あの?」
「あ、すいません。よろしくお願いします。」
「なに噛んでんだよ?w」
「うっせ・・ってか、チャットで噛むって何だよ?w」
「www」
なんかいきなり漫才が始まった。えっと相手は「エル様」・・・様付けのプレイヤーって・・
(それでもLV85。やっぱ半端ないわ、ここ・・)
でも今入った「Hiro」というプレイヤーのLVは82。・・私よりは高いが他に比べたら・・
「えっと、Hiroさん、すいません。いきなりですが、もしよければ自分と対戦してもらえませんか?」
「・・・・・」
「おー、これはまた・・」
「イキナリすぎる!カッケーー!!w」
「不謹慎・・でも、面白そう・・」
「・・そういえば、最近、高レベルプレイヤーによく対戦を挑んでいるプレイヤーがいると聞いてことあるけど・・」
「・・たぶん、私の事です・・」
「・・いいんじゃないか。Hiro、対戦してみて。こっちもまだ時間がかかるし。」
「ライマス~~;;」
「「ライアス」や!ライマス繋げんなw ・・よし、ギルマス命令。HiroはNaoさんと対戦すること。」
「・・・しまったorz」
「なにやってんだかww」
「・・ご愁傷様・・・」
「・・・えっと、対戦してくれると言うことで良いですか?」
若干イラッとした。こんな漫才に付き合っていられない。
「・・・。わかりました。じゃあ、ギルドタウンでいいですか?」
「わかりました。」
こうして自分とHiroさんは、対戦するため「ボルケーノ」ギルドタウンに移動した。
「・・では、装備もフォームも何でも良いです。全力でお願いします。準備が整ったら言ってください。」
「・・・わかりました。装備整えるんで、ちょっと待っててもらえますか?」
そういってHiroさんはここを離れる。たぶんタウンにあるマイルームに向かったのであろう。
マイルームでは多くのアイテムを収納できる。おそらくそこにおいている装備を取りに行ったのであろう。
ちなみに自分も、アイテム保管用に都心にマイルームを持っている。
しばらくしてHiroさんが戻ってきた。フォームを先ほどの機甲士からガンナーに変えている。機甲士が鎧装備、ガンナーが皮装備だから対戦では前者が有利なはずだけど、
「別に鎧装備でも文句言いませんけど?」
「・・いえ、皮のほうが装備が整ってるんで。準備OKです。」
「わかりました。では、お願いします!」
「お願いします。」
相手を指定し、「対戦」のコマンドを送る。
そのコマンドが受諾されるとカウントが始まる。5カウント後に対戦開始だ。
ちなみにこのゲームにおける通常の対戦は、戦闘中などでなければどこでもできる上に、勝敗による特典やペナルティといったものはない。対戦相手もフォームやLVによる制限などはなく、腕試し感覚で楽しめる。
もちろん、いきなり知らない相手から対戦を申し込まれたりして、受けたくない際は受けないこともできる。なので前もって、「対戦お願いします。」と相手の許可をもらうのが普通だ。
さて、Hiroなる人物は当然のことながら対戦を受け、5カウントが始まった。ここからフォーム変更は出来ない。
(・・ガンナー。剣と銃の違いはあるけど、基本ミドルレンジ主体のフォーム。防具も同じ皮だから、相手のPSとかも確かめられそう。)
こちらのフォームは舞士、メインといえるフォームだ。フォーム熟練度は900を越えており、強力なスキルも二つある。
フォーム熟練度とは、いわばそのフォームの強さだ。最大1000まで上がり、特定の数値を超えると新たなスキルを手に入れたり、他のフォームに変われるようになったりする。また、若干ながらステータスも上がる。この数値は経験値と同じく敵を倒す他、そのフォームのスキルを使うあるいはそのフォームで長時間いるだけでもランダムで上がることがある。ちなみにフォーム熟練度の他にスキル熟練度というのもある。これはそのスキルを使うことでランダムで上がるのだが、この数値もフォーム熟練度に密接に関係すると言われている。私も同じ意見だ。
そしてどちらの熟練度もその数値が高くなればなるほど、累乗的に数値が上がりにくくなる。だいたい500程度までは普通に敵を倒したりスキルを使っていれば順調に上がるが、それ以降はなかなか上がらない。特に600を越えた辺りから適当にやっていては、まず上がらない。
600以降上げる際には、まずそのフォームから変えないこと。先も言ったがフォームでいる時間も熟練度に関わっている。・・このゲームはフォームを自由に変えられることが売りだが、それに乗っかってばかりでは極められない、そういうことだろう。もう一つはスキル熟練度も高い数値であること。スキル熟練度はフォームに較べるとまだ上がり易いのだが、このスキル熟練度の数値よりフォーム熟練度の数値は高くなりにくい。・・というより、私の感覚ではまずならない。よって、極端に言えば、まずひたすら同じスキルを使いまくってその熟練度を1000まで上げておけば、かなりフォーム熟練度も上がりやすくなる。・・まぁ、それでも根気強い反復作業が必要だが。
要するに、フォーム熟練度はなかなか上がりにくいという事だ。はっきり言って、MAXの1000まで到達しているプレイヤーというのは聞いたこともない。その最大値にかなり肉薄した900オーバーという数値を有しているプレイヤーも、珍しい。・・つまり、熟練度900で習得できる、おそらくそのフォームの最強スキルが使えるプレイヤーも少ないということだ。というより、900で最強スキルを習得できるということすら、一部のプレイヤーしか知らないのではないだろうか。
舞士の熟練度900スキルは、その名も「天国と地獄」。これは周囲の味方は自分を含めて一定時間大幅HP回復、逆に同範囲の敵には一定時間大ダメージかつ行動速度の大幅低下という、文字通りといえる強力なスキルだ。ただし発動中は自分は移動が出来ず、CT、次に使用できるまでの冷却時間(CoolTime)も5分と非常に長く、ここぞという場面で使わないといけないが、戦況を作用するレベルの強力なスキルなのは間違いない。
この「天国と地獄」が先に言った二つの強力なスキルの一つ。もう一つは熟練度700で猫族のみ習得できる種族別スキル「分身」だ。
熟練度700では特定の種族が特定のフォームであれば、スキルを習得できる。例えば私の種族、猫族であればシーフ、モンクそしてこの舞士で700まで上げるとスキルを習得できるが、他種族では習得できない。逆に私が他のフォームで700まで上げてもスキルは習得できない。これが種族別スキルだ。
スキル「分身」は、その名の通り短時間だけ3人に分身し攻撃ならびにスキルを同時に出せるスキルだ。もちろんCTが3分と長い、3体共にダメージ判定がある、一部スキル(先の天国の地獄がまさにそうだ)は使えないという制限もあるが、これも強力なスキルなのは間違いない。
この二つのスキルを習得してから、私は対戦で負けたことはない。倒した最高のLVは私よりLV3高い83だったが、普通に勝つことが出来た。
もちろん装備も良い方だと思う。剣、盾、防具とも全てカスタムし強化も施してある。特に剣はLV80ダンジョンのボスから運よくドロップしたレアものが基となっているので、非常に強い。ワンランク上のレアと匹敵あるいは上を行っているはずだ。
・・ただ、本統合サーバーにおいて、トッププレイヤーと称される程のプレイヤーとは、残念ながら対戦したことはない。
私がこのギルドに来た理由の最大がそれだ。ギルドマスターのライアスはもちろん、今83ダンジョンに潜っている残り4人のうち、・・先ほどの「エル様」を除く3人も、無くなったばかりの「アイン」におけるトッププレイヤーと聞いている。・・欲を言えば、最強と称されているライアスか他の3人の誰かと対戦したかったが、LV差がありすぎるので、正直相手にならないだろう。LVを同等まで持っていってからだ!
Hiroは自身にバフをかけているようだ。カウント中はまだ相手に攻撃できないが、自身に強化系のバフスキルをかけることはできる。対戦の基本だろう。もちろん私もバフをかける。
そしてカウントゼロ!
対戦が始まる。
(まずは距離を詰めないと話にならない!)
舞士は近接型、スキルを使えば約15m範囲で攻撃できるが、ガンナーの方が通常、スキルとも約20m範囲なので、ぎりぎり離れて攻撃されたら面倒だ。
・・と、思っていたら銃弾が飛んできた。回避に失敗しダメージを受ける。
(ぇ?まだ30mはあるのに・・!?)
しかし、相手の武器をよく見て疑問はすぐに解ける。相手の武器は射程の長い「ライフル」だったのだ。
(・・スナイパーじゃなくてもライフルは撃てる。・・誤算だった。)
とはいえ、普通、予想できないだろう。ライフルは確かに射程は長いが、威力は低く、スナイパーフォーム以外はスキルもバフ以外ほとんど使えない。プレイヤーの間では、もっぱら遠くの敵を釣る際に使う程度という認識だ。
(・・まぁ、いつぞやの吹き飛ばされる攻撃よりはまし!)
意表をついて遠距離から仕留めるつもりなのかもしれないが、流石にスキル攻撃でなければほとんど痛くない。私は構わず前進し、範囲に入ったと見た瞬間、すぐに相手に突進して攻撃するスキル「ストライド」を使う。
(ここから一気に攻める!)
ここぞとばかり、私は決めスキルの一つ「分身」を使う。舞士のスキルは範囲が多いのでこうなるとほぼ回避は不可能だが、正面にいては3人分の範囲を食らうことになる。
「分身」そのものを知らなかったであろう相手はそのまま一気に倒せたが、Hiroは違った。なんとか正面から外れようと動き、多段ヒットを食らわないような位置から、ときおりライフルを撃ってくる。分身体にダメージ判定があることも知っているようだ。
(く、結構上手い。・・だったら!)
程なく、分身の効果が切れて一人に戻る。だがこの瞬間、あれが使える。
私は再びストライドで接近するやそのまま、「天国と地獄」を使った!
(スキル発動成功。HPが今8割ほどで回復中。ガンナーにも自己回復スキルはあるけど、焼け石に水。仮に生き残れても一気に倒せるはず!)
これが私の必勝法。「分身」も「天国と地獄」もCTはそれぞれ3分、5分なのでもうこの対戦では使えないが、これで決着か、もし耐えたとしても瀕死に持ち込める。私はほぼ全快なのであとは消耗戦だ。
・・・だが、今回は違っていた。
(・・・私のHPが、少しずつ減っている!?)
その光景を、私は信じられなかった。
Hiroは、「天国と地獄」の射程範囲のぎりぎり外から、いつの間に持ち替えたのか2本の拳銃を手に、明らかにスキルを使った攻撃をしてきているのだ!
(・・・ダメージイフェクトが・・なし?完全に避けられた!?そして、何この、天国の回復量を上回る攻撃スキル!!?)
天国の効果バフはまだ消えていない。・・にも関わらず、HPは7割、6割5分、6割と減っていき、
天国のバフが消えたとたん、残っていた約半分のHPをごっそり持っていかれ、あっという間に私は敗北した。
(・・・・・・・)
放心状態。まさに今の私はそれだろう。
だが、これまで対戦で勝っても負けても、勝負後に相手の装備を確認していたという習慣からか、なにげなくHiroの現在の装備を確認する。
(!!!)
そこで私は息がつまった。勝負を決めた2丁拳銃の1丁は、自分のそれと同等と思われる80カスタム。
・・そして残りの拳銃および防具は全て、最高ランクではあるが作成が非常に面倒といわれる「オーダーメイド」と呼ばれる装備だったのだ。
(え、・・オーダーメイドを装備してた人も今までいたけど、せいぜい1個か2個・・・6個装備って・・??)
・・・・・・・
「・・え、えーっと、Naoさん?」
「あ、すいません。・・え~っと、最後に私に使ったスキルはなんですか?」まだ放心状態ではあったが、私はそれらしい質問をする。
「ガンナーの900スキル「乱れ撃ち」です。ヒムの種族スキル「緊急回避」で、範囲外に避けてから使いました。威力がむっちゃ高いんですよ、このスキル^^;」
「確かに・・・」
だが、「天国と地獄」も同じ900スキル。えげつなさはどっちもどっちだ。
「・・舞士を900まで上げているだけでもすごいですよ。今ダンジョンから戻りました。」
「レア拾えたよ~。ラッキー。」
「ダイスの目が・・」
「・・次は私が拾う・・・」
「てゆうか、ヒロやん。時間まだいいんか?なんか明日早い言ってなかったっけ?」
「・・・・しまった、そうだった。って、誰がヒロやんやねん! ・・そゆことで今日は落ちますわ。 おやすみ~」
「おう、おやすみ」
「おつかれ~」
「おつおやす・・」
「お疲れさまです。」
「ちゃんと突っ込むのなww おやすw」
「・・おやすみ」
<「Hiro」さんがログアウトしました>
「さて、Naoさん。約束通りこのギルドの一応のルールを説明したいと思いますが、・・その前に聞いておきたいことはありますか?」
私はすかさずこう聞いていた。
「・・あの、さっきいたHiroさんって、オーダーメイドを6個も持ってたんですが、皆さんも同じくらい持ってたりするですか?」
「・・ぁー、そういや、ヒロやん、オーダー一式揃えてたなぁ。俺は流石にそこまでないわ。」
「自分も3つだけだな。修理費がとんでもないしw」
「・・ここにいるメンバーでも多分1~3個くらいかな?一式とかなるとマスターとHiro氏くらいですね。」
「私も3つだけ・・・マスターもヒロさんもおかしい・・・」
(・・いや、3つでも普通じゃないから・・)
「おかしい言うなw まぁヒロとは70,80時代、オーダーの素材が出るダンジョン潜りまくったからそれで、と言った感じですかね。」
「・・何故私も誘わなかった・・」
「70の頃は、たかみさんがうちに入ってくる前だったからね。入ってからは結構いってるでしょ?」
「・・・ぬう、納得いかない・・・」
「イヤ、そこは納得して欲しいんだけど^^; まぁNaoさんも80オーダー作りたいなら、時間のあるときに手伝うんで。」
「おー、そん時は俺も行く~。」
「・・いく、ぜひ・・」
「あ、ありがとうございます。」
「では、時間も押してきてるので、簡単に本ギルドのルールみたいなものを説明します。Naoさん、いいですか?」
「・・はい、お願いします。」
そして自分はトップレベルのギルドの一つ「ボルケーノ」の、現鯖で最強と思われるギルマスから説明を受け、その日はログアウトした。
すさまじい速さでLVを上げていくガチ勢。そして、全身オーダーメイドのプレイヤー。
トッププレイヤーたちの実力の片鱗を見て、プレイヤー「Nao」の中の「もっと強くなりたい」と言う想いはさらに大きくなるのであった。
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