第一幕 中堅ギルドのギルドマスター
「はじめまして、ミアと言います。宜しくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします。Klessと書いてクレスといいます。」
「テルです。よろしく~ なんかあったら、気軽にはなしてね~^^」
「女性キャラ歓迎! 私は唯。よろしくね!!」
ギルドランクは4、現状ギルド最高ランクは8なので、ちょうど中堅に相当するギルド「ともしび亭」に、一人のプレイヤーが新しく加入した。
彼女の名は「ミア」。種族はエルフの女性キャラ。
レベルは43。システム上の最高レベルが現在90なので、これまた中堅クラスのプレイヤーといえよう。
「はい!まだまだわからないことも多いので、いろいろ教えてください!」
女性キャラのやる気のある言葉に、好意的な反応を示すギルドメンバーたち。
一昔前に比べ、このようなゲームにおいても女性のプレイヤーが増えてきているが、まだまだ男性プレイヤーの方が多い。それを考えると、女性キャラがもてはやされるのは妥当だろう。
・・実際は男性のプレイヤーが、女性キャラをさも女性プレイヤーが動かしているかのように振る舞う、いわゆる「ネカマ」も多数いるが、それも承知した上で、本人が言わない以上は詮索しないと言うのは暗黙のルールである。
周囲に害を及ぼす、明らかに悪質な行為といったもの以外は、原則自由なのだ。ココ、MMORPGにおいては。
「早速だけど、今いるメンバーで43LVのダンジョンに行こうとしてたんだけど、LVもちょうどいいしミアさんもきますか?」
「今からですか?えっと、クレスさん・・あまりPTには慣れてないんで迷惑をかけるかもしれませんが・・」
「問題なし!気にしないでいこう^^」
「わからないことあったら聞いてください」
「では3ch集合で、PT飛ばしますね。」
かくして、新人メンバーを加えた4人パーティーでのダンジョン攻略が行われた。
・・結論から言うと、攻略はできたものの、新人のミア自身はほとんど何もできず右往左往しているうちに、他メンバーで攻略した感じに終わった。
「お疲れ様です。」
「おつかれさん~~」
「おつかれです」
「お疲れさまです。・・すいません、何もできませんで・・」
「気にしないでください。・・自分も上手くフォローできなかったんで・・」
「慣れよ、慣れ。ガンガンやっていこう!」
「そうそう。また時間あるときに一緒にいきましょう」
「・・はい・・」
新人ギルドメンバー、ギルメンの芳しくない返事に、誘った本人であるクレスは少々気になったが、
「・・すいません。これから用があるので今日は落ちます。お疲れ様です。」
「あ、俺もやることあったんだった。俺も落ちますわ。またよろしくね~。」
「・・もう23時か~。う~ん、明日早いんで私も落ちるね。これからヨロシク♪ お疲れ様です。」
「あ、はい。 皆さんお疲れさまです。」
順次ログアウトするギルメン。・・だが、クレスだけは「あること」をやってから落ちたのであった。
(・・みんな優しそうな人たちで良かったなぁ。う~ん、でもなかなか上手くならない。どこが悪かったんだろう?)
自分以外のギルメンがいなくなってからも、ミアは落ち込んでいた。
・・そんなところに、
<「魚の人」さんがログインしました。>
というシステムメッセージ。・・へっ?魚の人?
「こんばんはっす~」
(ぇ、「魚の人」ってキャラ名なんだ・・)
「ぁ、こんばんは。今日からギルドに入りました、ミアって言います。よろしくお願いします。」
とりあえず無難な挨拶をしてみる。・・が、なかなか返事が返ってこない。む、基本喋らないタイプの人なのかな?変な名前だし・・
「あ、はい。・・こちらこそよろしくお願いします。え~っと、一応ギルマスやってますが、気軽に話してください。」
・・へっ?この人がギルマス、・・ギルドマスター!?
慌ててギルド画面を確認する。・・確かに「マスター:魚の人」と書かれている。LVは50。
「えっと、すいません、今気づきました。改めてこれからよろしくお願いします。ギルドマスターさん。」
「ぁ~、そう呼ばれるの苦手なんで適当に呼んでいいですよ。ギルメンにはマスターだったり呼び捨てだったりお魚さんとかも呼ばれてます。・・・「生もの」だけは、さすがに勘弁してもらいましたが・・・」
「ww生ものって(^^; わかりました。ではマスターとこれから呼びますね。」
「・・よかった。ああは言ったけど、変な呼び方こなくてw では、そゆことで。」
「はいw」
「魚の人」という名前には驚かされたが、案外まともな人そうだ。・・まぁ、あんまり変な人だと、ギルメンはさすがについてこないだろうし。
「・・ところでいきなりだけど、ミアさんってPT戦まだ慣れてないのかな?クレス氏からメールでちょっと来てたんだけど。」
「えっと、メールですか?」
「うん。「ミアさんという新人さんが入りました」ってのと「43D一緒に行ったんだけど、あまり説明できなかったんで後ヨロシク♪」みたいに書かれてた。・・相変わらずマメな奴やのう・・」
「そ、そんなメールが。」
「・・と言うか、ギルメンにこきつかわれるギルマスな俺って・・;; ぃぁ、良いんですけどね。・・ほ、ほんとだよ!? w」
「www」
面白いギルマスだなぁ、この人。
「さて、そゆ訳で時間があればだけど、43D・・は2人じゃきついから、・・36D辺り行って見ますか?」
!!
(36D・・・あの時のだ・・・)
でも、あの時とは違う・・はず。
「・・ぁ、はい。まだ時間は大丈夫なので、出来ればお願いします。」
「わかりました。3ch現地集合で。PT飛ばしますね~」
「はい」
そして私は、自分にとってちょっとしたゆかり?因縁?のある場所に、再び向かうことになった。
・・・おおよそ対象LV3おきに、世界各地にある高難度ダンジョン。その36の場所を知っているか聞かれなかった事に、いっぱいいっぱいのその時の私は気づく由もなかった・・・
「俺がナイトでタンク、えっと、壁役やるんで、ヒーラーお願いです。」
「・・わかりました。」
即座にマスターはナイト、私はヒーラーフォームにチェンジする。
・・ちなみにマスター、「魚の人」は、やはりというか最初に選べる5種族の中でもダントツで人気の低い種族、魚人族だった。・・まぁ、それ以外だともっとおかしいんだけどね。
このCFOというゲームは、簡単に違う戦闘スタイルに変更できるのが売りだ。戦闘中や一度チェンジした後は10秒経たないとまた変身出来ないといった制限もあるが、いろんな楽しみがある。
・・もちろん、個々人に得意、不得意はあるし、PT構成によっては不得意でもやらざるを得ない場合もあるけど、幸い私は魔法系・・と射撃系はまだましな方だ。
「それじゃあ、まず雑魚を倒していくけど、自分がタゲとり、・・敵が全部自分に向かっていったのを見てから回復をお願い。余裕がありそうなら攻撃魔法で援護を。」
「はい。」
この辺はわかる。
「ただし、もしミアさんの方に敵が来るようだったら、自分の近くに近づいて2人とも範囲回復。タゲは何とか俺が取るんで。もし万が一死んだらそのままで。自分で生き返るとデスペナが発生するんで、戦闘後に自分が復活させます。」
「後HPと力が上がる「タフネスアップ」と、MPと知力が上がる「マインドアップ」は切れかけたら掛けなおすこと。・・とりあえずこの辺かな?わからないことあります?」
「あ、はい、大丈夫です、たぶん・・」
「・・OK。んじゃ行ってみようか。時間はかかるかもだけど、基本どおりなるべく少ない敵を釣って行くんで。」
マスターについていきながら回復をやっていく私。釣り損ねてこちらに来る敵はほとんどおらず、いても気づいて敵をおびき寄せるスキル「タウント」で自分にひきつける。
先ほどのPTでもクレスさんが同様に釣っていたが、たまにテルさんに敵の攻撃対象が移り、唯さんがそれをフォローしていた。
「うっし、最初のボス到着。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。・・というより、こっちに全然来なかったです。さっきはたまにテルさんに敵が攻撃していたのに。」
「あ~、テルっちの攻撃力は高いからなぁ。あのLV帯だとヘイトの関係で多少移るのは仕方ないんよ。クレス氏が悪いわけじゃないし、唯さんがフォローしてたっしょ?」
「ヘイト、ですか?」
「・・・うんと、モンスターの敵意って言えばいいのかな。高い攻撃を食らうほどモンスターは怒ってその相手に向かっていく感じ。これがヘイト。」
「なるほど。だから私のところには来なかったんですね。」
「ん~、いきなりランダムにタゲ変える奴とか、一応回復魔法にもヘイトが発生するから、時々回復役を襲ってくる奴もいる。・・ここの最後のボスは後者、かな?」
「えっと、その場合どうすれば?」
「それは・・とりあえず、まずはこのボスを倒そう。このボスの注意点は特に防御力ダウンのデバフだね。でもこれはキュアで治せるから、こまめにお願いです。」
「ぁ、はい。・・でもどうやって判別すれば?」
「食らうと体が紫のもやに包まれるからそれを見るか、自分の簡易ステータス、HPが表示されてるところの下に鎧の壊れたようなマークが出るからそれが出たらキュアだね。・・まぁ、1,2発は多分耐えられるから、気楽にいこう。」
「・・了解です。」
「ぁ、あともしレアドロップでたら、自分はいらないんでミアさんもらって良いよ。「申請」と「譲渡」って選択肢が出るから「申請」で優先的にもらえる。譲渡はその次。ちなみに申請同士、譲渡同士だとダイスロールが発生、要するに運勝負になるから。」
「あと、いらない時は右上のバッテン選ぶか何も選択しないでいると時間切れでキャンセルになる。そうなったアイテムはもう拾えないから注意ね~。」
「なるほど、そういう仕組みだったんですね・・・というか、レアドロップってなかなか出ないんですよね?悪いですよ。」
「・・うんと、ここのボスのはもう持ってるから気にしないで。欲しい時は遠慮なく言うからw」
「ぁ、あと野良PT、知らない人とPT組んだ時、ドロップアイテムに対して特に何も言われてなかったら、「譲渡」するのが無難かな。・・中には気にする人もいるし。」
「あ、はい、そういうことなら。」
レアドロップはかなり確率が低いって聞くけど、運がいいのかなこの人?
「そんじゃ、二人なんで時間かかるだろうけど、いっくよ~。」
「はい!」
ここのボスは「防御力ダウン」以外にはさほど癖もなく、時間はかかったもののなんとか倒せた。
ちなみに、レアドロップは出なかった。
「・・ふぅ、お疲れさまです。」
「ほい、おつかれ~ ・・で、もう一体いるけど。時間は大丈夫?」
「今23時半ですね。・・24時位までなら。」
「りょかい。落ちたくなったら遠慮なく言ってね。んでは再び雑魚退治~~」
「はいw」
再びボス前まで。相変わらず敵はこちらに来ない。これが普通なんだろうなぁ。
「はい、ボス前~ ・・で、さっき言った、もしボスが回復を襲ってきたらって話だけど、・・ボス部屋から出ないように走って逃げようw」
「は、はい?」
「ぃぁ~ タゲ移ったあと、前タゲったキャラは、しばらくタゲ取りできないみたいなんよ。アタッカー辺りもう一人いればそっちでしばらく持ちこたえられるんだけど、今は2人だから、ふたたびタゲ取れるまで逃げてもらおうかと・・ぁ、ボス部屋でちゃったタゲ切れてボスが最初の状態に戻るから注意してね。」
「・・・・・」
「も、もし死んでも生き返らせるから、ね?」
36Dの最後のボス「ギガントサイクロプス」は、状態異常攻撃などはないが、基本的な攻撃力が高めだ。
・・LV43でも、ヒーラーは防御力が低めの布装備なので、一撃耐えられるかどうかといった感じなのである。
「・・・わかりました。何とかやってみます。」
「・・OK。ではいきます」
まずは順調で、マスターは良く耐えてこちらに攻撃を持ってこさせなかった。・・だが、残りHPが4割と言ったところでそれは来た。
「グオォォーーー!!」
突然ボスがこちらを向いて襲い掛かってくる。・・マスターがタウントらしきものをやっているが、言っていたとおりタゲは移らない。
・・足はそんなに速くはない。何とか逃げないと
慌てて右方向に回り込むように逃げる。この距離なら!
ズゥゥゥーーーン!!
しまった、広範囲攻撃! こいつはダメージはほとんどないが、一定時間「移動不可」になる。
・・それは今の私にとっては致命的であり、後ろからサイクロプスが。
ズガッ!!
・・・HPはゼロ。私は倒されてしまった。
「・・・ごめん。一旦切って復活するから、そのまま待ってて。」
「わかりました・・」
マスターは悪くない。私のミスだ。
程なくマスターは部屋から出て戦闘領域から離脱。ヒーラーに変身して復活スキル「リザレクション」を掛けてくれた。これで生き返った場合、デスペナルティは発生しない。
「ありがとうございます。すみません・・」
「いや、・・移動不可範囲スキルがあるのを忘れてたよ。こっちこそごめん。」
「・・・ でも、どうしましょう、ここのボス?」
「・・・さっきの移動不可見て、思いついたことがある。もっかいさっきと同じようにお願いできる?これで最後で良いから。」
「思いついたこと?」
「ぁ~~っと、なんとかボスを殴らせない方法、かな?とにかく任せてもらえる?」
「・・・了解です。」
「・・ありがとうです。では、ラスト、行く!」
「ギガントサイクロプス」との再戦・・にして、たぶんこの2人PTでのラストチャレンジ。
ボスの残りHP約半分、・・さっきよりも早いタイミングで再びそれは来た。
「グオォォーーー!!」
先ほどと同じように襲い掛かってくる敵。・・だが、マスターは今度はタウントどころか、・・何もしない?効果がないからあきらめた??
(とにかくさっきよりも距離を開けて!)
だが、早く回り込もうとしたせいで、逆にボスとの距離がさっきよりも近くなってしまった。・・・ここで範囲を撃たれたら!!
ドーーーーン!!
(ああ、撃たれた。これでもう移動不可でどうしようも・・・動ける!?)
そう、移動不可はかかっていない。ボスの範囲攻撃ではなかったのだ。・・では、先ほどの音とボスは一体?
ドーーーーン!!
再び先ほどと同じ音。見るとサイクロプスが・・・吹き飛ばされてる!?
「・・ボスにも有効だったんだ、これ・・・回復、おね!」
「は、はい!」
吹き飛ばされて戻ってきたサイクロプスだが、もうマスターを攻撃してくる。タゲが移ったのだ。
・・さらに数分後、私たちは見事に36D最後のボスを倒したのだった。
「お~、メイスのレアドロップ、どぞどぞw」
「ぁ、はい。申請っと。」
出てきたレアドロップ「導きのメイス」に対して申請ボタンを押し、私は始めてレアドロップを手に入れた。・・って、あれ?
「おめおめ~~」
「あ、ありがとうございます。・・と言うか、このボスのレアはもらってよかったんですか?」
「ぇ?さっき言った通り問題ないけど?」
「?? サイクロプスの前は、何も言ってなかったと思いますけど?」
会話のログを見る。うん、確かに前のボスの時は言ってたけど、このボスについては何も言っていない。
「・・ぁ~、さっきのボスの分だけと思ったんだ。この36Dのレアドロップは全部持ってるって意味だったんだけど、勘違いさせたね。ゴメゴメ^^;」
・・ぇ?確率の低いレアドロップ2体分全部持ってる?
「うあ、そろそろ時間だよ。とりあえず都心に戻ろう。」
「ぁ、はい。」
私たちは最初の街にして、冒険者の拠点である、「都心」に戻ってきた。
「おっし、ちょうど24時。おつかれさま~ PTありです~。」
「・・こちらこそ、ありがとうございました。」
「・・ミアさん、もう落ちるよね。今日は自分も落ちます。明日以降も大体同じ時間にINするだろうから、これから宜しくお願いします~ おやすみ~」
「あ、はい、私も大体この時間にいると思います。お疲れ様でした。おやすみなさい」
「ノシ」
そしてマスターはログアウトした。
<「魚の人」さんがログアウトしました。>
このシステムメッセージを見ながら、私はいろんなことを聞き損ねたことを思い出した。
(・・あれ?ギルドでの注意点とか無し?・・あのボス吹き飛ばす武器って一体?・・あと、ボス2体分のレア全部持ってるとか・・なにより、)
私は心の底であえて貯めてこう思ったのだ。
(なんで、名前が「魚の人」なの~~!!?)
「ともしび亭」新人ギルメン「ミア」は、
右手に初めてのレアドロップ「導きのメイス」を持ちながら、
中堅ギルドのギルマスに、心の中で色々突っ込まざるを得なかった、そんな話。
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