アイナキモノのループする世界
ちょこふ
プロローグ
ああ、これはヤバい。
暗闇の中、俺は何者かに背中から刺された。
背中からかなりの量出血し、あたりに血の海を作っている。
体の感覚が全く無い……、それどころか痛みすら感じない……これが死ぬ時の感覚なのか。
人ってこうも簡単に死ぬんだな……。
最後の力を振り絞り、刺した犯人を見ようとしたが………………。
こうして、俺。
✢✢✢
突然だが、俺は友達が欲しい。決して居ないわけではないが、少数である。
というのも、大体の生徒は俺に近づこうはしないからだ。別に、髪の毛を染めてたりだとか、目つきが悪いだとか、そんな理由ではない。
俺の周りにいる奴らが、変人ばかりでそいつらが、勝手に周りで頭のおかしい事をしたりしているだけなのに、俺までも巻き込まれ変人認定されてしまったからだ。
登校中の今だって、俺を見た生徒はすぐに道を変えわざわざ遠回りする。
俺が、何をしたっていうんだ。女子に話しかければ悲鳴をあげられ、男子に話しかければ舌打ちと蔑みの目は当たり前。
もちろん、これはクラスメイトに限った話ではない。同学年のほぼ全員がそういう態度で接してくる。他学年の女子はそうだが、意外と男子にはそんな態度で接されない。まあ、一度それで必要以上に話そうとしたら、今度はホモ認定されたんだがな。
「はぁ……、もしあの時に戻れたら、あいつら変人と関わらないようにしたのにな…………」
二年一組の教室の前に立ち、ひと呼吸おいてからドアを開ける。
入った瞬間、今まで馬鹿騒ぎしていた奴らは静まり返えり、こちらを見ながらヒソヒソと話すようになった。
ただ教室に入ってきだけだぞ……。とはいえ、毎日これだから流石に慣れたが。
ため息を尽き、自分の席に向かおうとしたところで、窓際で空を眺める彼女の姿が目に入る。
名前は
短めの黒い髪に、高校生とは思えないほど胸デカい。だが彼女の周りだけ、別の空間に隔離されたような、近寄りがたいオーラを放っている。
こいつが俺を悩ませる変人の一人だ。近くに寄りたくないが席が隣なので寄らざるおえない。
少し憂鬱になりながら近づくとこちらの気配に気づいたのか、振り向く。顔は確かに部類としては美人だし、高身長でスタイルも抜群……、初見ならまず間違いなくその姿に見惚れるんだが性格がなぁ。取り敢えず、挨拶くらいは、しておくか。
「おっす、時雨」
そんな他愛もない挨拶に対し、時雨は満面の笑みで答えた。
「おはよう、星雲くん。あなたは、貧乳と巨乳どっちのおっぱいが好き?」
…………ん!? なんか、朝っぱらから卑猥な単語が聞こえた気がするが、これが時雨だ。別に不思議なことはない。というか、こいつは空を眺めながらそんな事を考えていたのか。
「それ、俺が答えなきゃだめか?」
「もちろん。貧乳には貧乳の良さがあり、巨乳には巨乳の良さがある。私にはどっちが上かなんて、決めつけられない。だから、少しでも男の意見を聞いて参考にしたいと思ったの」
そんな事を大声て言わないでくれ、クラスの女子の目線が痛いじゃないか。
「俺は貧乳派かな」
「それはなぜ?」
「お前が巨乳だからだ」
「私が巨乳だから……。つまりあれ、ツンデレってやつ?」
「今の何処にデレ要素があった? ツン率百%だよ!」
「そうなると、私の考えが少し変わるわね」
「どういう意味だ?」
時雨はガッツポーズをし、言い放った。
「男は全員、巨乳大好きでおっぱいおっぱい言うものだと」
「お前の男のイメージはどうなってんだ! むしろ、おっぱいおっぱい言ってるのはお前だろ!」
「ええ!? 私いつおっぱいっていったかしら。それに、何故そんなに赤くなってるのかしら。おっぱいおっぱい。おっぱい最高! イエーイ」
「お前、おっぱい言いたいだけだろ!」
「うわ、なんか男子生徒が教室でおっぱいとか叫んでるぅ。変態だぁ、誰か助けてぇ」
「お前のせいだろ!」
ふと、周りの様子を確認してみると女子生徒が、ゴミを見るような目でこちらを睨みんでくる。はぁ……、こいつのペースに乗せられるといつもこれだ。確かに、俺が乗せられてしまうのも悪いがもとはこいつのせいだ。
「なんで、そんな夕飯がカレーと楽しみにしながら帰ったら、カレイだったような顔をしているの?」
「例えが分かりづらいからどんな反応したらいいか、分からないんだが」
「取り敢えず、おっぱい最高! ……って叫べばいいと思うわ」
「まだその話引きずってたの!?」
「もちろんよ、私は自分が飽きるまで一つの事を引き続けるわ。たとえそれが、人から蔑まれる事でも」
なんで、そんな堂々としてられるんだ……。
「もう、お前何がしたいか全然分かんないな」
「フッフッフ、私はこれからクールキャラになるわ」
「クール? お前が? というか、なんでいきなりその発想になったんだ」
傍から見たらそうだが、発言が完全にクールキャラが、言う言葉ではないんだよな。
「クールキャラ。つまり、皆を冷たくすればいい。だから、カレーとカレイをかけたの。どう、寒い?」
「クールキャラはクールキャラでも、全く意味が違うからな!?」
クールはクールでもクール違いなんだよな。しかも、その認識だとつまんないキャラになりたいってことなんだよな。
「違うの? じゃあ、星雲がなにか手伝ってと私に頼んだときに、断って、罵声を浴びせればいいのか」
「もう、訳分かんないんだが。これまだ続ける?」
「もちろん、私がクールになれるまでね」
そもそもの、クールの意味が分かってないのになりたいって意味がわからんな。
「それじゃあ、まず下ネタをやめろ。そうすれば、一気にクールキャラに近づくぞ」
「拒否するわ。私から下ネタを取ったら、何が残るのかしら」
「そんな事で威張ってんじゃねぇ!」
時雨はムッとした顔になり机を叩く。
「そもそも下ネタというものはどういう意味なのかしら? 下いネタ。別に言うだけで変態扱いとかおかしいと思うのだけど」
「普通の奴はそんな毎日毎日、下ネタ言ったりしないんだけどな」
「え? 嘘でしょ?」
「何故そんな驚く。普通そんな連呼しないから! おっぱいだとか! お前がおかしいんだって」
「間違ってるのはこの国のほうだわ。首相になってこの日本を変えてやる!」
「もしお前がなったら、この世の終わりだよ!」
ああぁぁぁぁ、もう! なんで、授業が始まる前に変人の相手をして疲れなきゃならんのだ。ため息をつきながら、腰をおろした。
ふと、教室のドアの方を見るとじっとこちらを女子生徒が見ていた。
「また、あいつか……」
その女子生徒の名前は
いや、自意識過剰とかではなく、本当にずっと見ているのだ。登校中も何故か、後ろの方からじっと見ていたり、授業中は全く授業を聞かずじっと見てくる。前に、俺が男子トイレに入った時に入ろうとして、教師から怒られていた。
体型やそのせいもあって、クラスメイトに水羽を俺が脅して無理やり従わせているという噂が立っているらしい。なんで、わざわざ俺がそんな事をしなきゃいけないんだ。
時雨の話をこのまま永遠と聞くのは、精神的にもよろしくない。まだましの水羽の所に行くとするか。
「座ったと思ったら、今度は立ち上がって何処に行くの? トイレ? ちゃんと手は洗ってきなよ」
「お前は、何を想像してるんだ。ただちょっと水羽と話すだけだ」
「なるほど、水羽さんをトイレに連れていって処理してもらうと。……うわぁ、引くわ」
「そんな事するか! それに、どの口が言ってるんだ!」
「上の口。今から、星雲くんが使うのは水羽さんの下の口」
「口は上にしかねぇよ!」
立ち上がっただけで、何処までボケてくるんだこいつは。憎い……己のツッコミ体質が! ため息をつき、ヨレヨレしながら、水羽のもとまで行く。
「おっす水羽。今日はどうしたんだ? なんか、あったのか」
「おはよう……。特にはない……かな。ただ、星雲くんを見てい…………んん、なんでもない。ただの暇つぶし」
暇つぶしで、朝からずっとストーカーされても怖いんだけど……。
「俺はもう慣れたから別にいいけど、他の人にはするなよ。訴えられるかもしれないし」
「大丈夫、星雲くん以外にする気はない」
俺以外にはする気がない……、迷惑だなぁ……。一応こいつも美少女なんだが、それを差し置いても普通にずっと見られてるのは嫌だな。
「結局、二人ともトイレに行かないのかしら?」
「ひぇ!? 時雨いつからそこに?」
驚いて変な声を上げてしまった。
「大丈夫、星雲くん以外にする気はないってとこからかしら。星雲くんのどこをを何するのでしょう。私きになります」
「何もしねえよ! 水羽も何赤らめてんだよ! 誤解されるようなことするな!」
「星雲くん……。まさか、やるだけのことはやっといて捨てるの? 私とは遊びだったの!?」
「いきなりお前はなんの話をしてるんだ! そもそも俺がそんな事をするわけ無いだろ!」
「えっ……しないの?」
本気で、困惑したような顔でこちらを見る。
「しねーえよ! 俺をなんだと思ってるんだ」
「けだもの?」
「だから、違うって言ってんだろ!」
「星雲くんなら……」
「だから、お前は誤解されるような事を言うな!」
クラスメイトから「えっ水羽ちゃんを襲ったの?」「星雲……やっぱロリコンだったか」「やっぱり、変態だ!」などの声が聞こえてくる。ここで、誤解を解こうとしても、何故か叫ばれたり、先生を呼びに行ったりと、誤解を解くどころか悪化してしまう。
本当に……、俺にまともな友達は出来ないのだろうか。
「はーい、皆さん席に座ってください」
前の教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。
その言葉に従い、全員各自の席へと戻る。変人共に絡まれていたせいで時間が経つのを忘れていたが、もうそんな時間だったのか……。
「それでは、ホームルームを始めたいと思います」
「先生!」
そう大きな声を発し、時雨が立ち上がった。すでに、嫌な予感がするんだが……。
「なんですか? 時雨さん」
「ここに居る、星雲くんが、トイレでイキたいそうです。イカせてあげてくれませんか?」
「トイレでイキたいじゃなくて、トイレに行きたいだよ! お前、わざとだろ!」
「もちろんよ。でも、これなら誤魔化しが効くわ」
てかそもそも、普通トイレでイキたいとか女子に言うやつなんて居ないだろ。
「それを言ってる時点でアウトなんですがね」
「それで……、星雲さん。トイレでイ……トイレに行きたいんですか?」
「いや、大丈夫です」
先生も間違えそうになってるんだが……。
ホームルームが始まるということは、今日あいつは休みなのかな?
その思ったのもつかの間、ダンッッ! という激しい音を立て教室のドアが開き、そこには不良のような金髪の美少女が居た。
「ふぅ、なんとか間に合った」
そう言った後、美少女は走ってこちらに向かい、いきなりドロップキックをしてきた。
「オラァ!」
俺の横っ腹らにクリティカルヒットし、横に倒れる。
「ぐはあっ。……痛ってえ、いきなりなにするんだ!」
「挨拶よ、親友!」
この理解不能な美少女の名前は、
「挨拶じゃねえんだよ! 毎度毎度こっちは痛いんだからな! それに、今ホームルーム中だしお前遅刻してきたよな?」
「細かいことは気にしないほうが身のためよ!」
「別に細かくねえよ! あと、なんで俺の事を蹴り飛ばすんだ!」
「ふっふっふ、なんとなくよ」
「なんとなくで、蹴ってんじゃねえ! こっちの身にもなってみろ」
漆原は元ヤンキー、体をかなり鍛えていたようで、蹴られると骨が折れたような痛みを感じる。
「なるほど。つまり、あたしの事を蹴りたいってこと?」
「ちげぇよ、痛いからやめろってこと」
「それは、親友でも却下だわ」
「なんでだよ!」
「コホン……」
先生が、咳払いをしこちらを睨んでくる。ついつい、漆原のペースにのせられてしまった。
「漆原、取り敢えず座れ。先生に怒られるぞ」
「仕方ない……、というかあたしの席って何処だっけ?」
「俺の後ろだろ?」
「そっかそっか。いやぁ、なんか忘れちゃうんだよね、ハッハッハ」
いや、普通そんな毎日毎日忘れないから。
「はぁ……、なんでこのクラスには問題児が四人も揃ってるのかしら。……毎日毎日、疲れるわ」
いや、先生四人って……、俺の事を入れないでくださいよ。こっちだって大変なんですから。
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