ひとくち文庫(3分で読めるショートショート集)

秋内夕介

Youtubeアニメ「ひとくちキネマ」原作小説

推理の行方(第一話 オカシな犯人 原作小説)

「それで、ここが現場ですか。」

古びた屋敷の一室に案内された探偵はキョロキョロと部屋を見渡す。

「今朝うちのメイドがここで倒れていてな。

まったく、何がどうなっているのか。」

屋敷の主人は部屋の隅でうつ伏せに倒れているメイドを指差す。


「第一発見者は鍵を開けた貴方だったと聞いております。

この部屋には他の出口がないところを見ると、現場は完全な密室だっと言えますね。」

「そう、だから君を呼んだのだ。

私にも誰の仕業なのかこれっぽっちも検討がつかないのだよ。」

「傷痕を見るに、凶器は足元に落ちているこのレンガでしょう。

これで前頭を一発といった感じですかね。」

「ああ、そのようだ。

誰かが目の前に立って、思い切りレンガを振り下ろしたんだろう。」

「問題は犯人がどう脱出したかですね。

他の出入り口はなく、隠れる場所も鍵のスペアもないとなるといよいよ不可能な犯行のように思われます。」

探偵は少し考えたあと主人に尋ねる。


「あのメイドさんはこの屋敷で随分と働かされていたそうですね。」

「そ、それは事件と関係ないだろう。

第一住み込みで働いているのだからそんなものだ。」

「とはいえ、かなり体を酷使した跡が見られます。

ほら、ここの関節とか。これはもしやすると…」

探偵は考え直すように続きを濁した。


「なんなのだ、さっさと言わないか。」

「いえ、もしかしたら自殺なのかもと。

部屋の鍵をかけ自分で頭を強く殴ったのでは。このレンガで。」

「まさか。そんなはずないだろう、ありえない。」

「でもそう考えると全て辻褄が合うんですよ。」

「しかし前例がないし聞いたこともないな。自殺など。」

「でもこれ以上新しい証拠がない限りはそう仮定づけるしかありません。

私もにわかに信じがたいので今日は一旦帰って整理させてください。」


そう言うと探偵は頭を抱えながら帰っていった。

誰もいなくなった現場で屋敷の主人は倒れたメイドをまじまじと見ながら呟く。

「いやはや、働かせすぎたということなのかな。

それにしても信じがたいがな。人型家事用ロボットが過労自殺なんて…」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

こちらはYouTubeにて公開中の、ショートショートWebアニメ「ひとくちキネマ」第一話の「オカシな犯人」の原作小説になります。

作品は以下よりご覧いただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=QmazZ_p_j1k

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