山奥の老人

山奥の小さな小屋で暮らしている老人のもとに、ある男が現れた。

「すみません。この山ですが、私が丸ごと保有することになりましたので、

あなたの小屋も取り壊させていただきます。お立ち退きを。」


突然の失礼な訪問者に老人は顔をしかめる。

「そんな急に…あんまりだ。

私はあなたが生まれるずっと前からこの山に住んでたのですぞ。」

スーツ姿の男はやれやれと言った顔で、鞄から権利書を出した。


「ほら、この通り。あなたが山にこもっていた間に、時代は変わったんです。

全ての土地や区分の管理が見直され、権利の所在が一通り決め直されたのです。」

「こっちの意見も聞かずにいつの間にそんなものを。」

「権利は権利。何にせよ、期日までに次の住処を見つけることですな。」

そうして二人がいがみ合っていると、突如あたりが暗くなった。

驚いて二人とも空を見上げると、巨大な宇宙船のようなものが宙に浮いていた。

宇宙船からは明らかに地球のものでは無い見た目の生命体が。


「阿。ア、あ。これで通じるか。

ここの言葉に翻訳機のチューニングを合わせたぞ。」

スーツ姿の男は腰を抜かしながらも恐る恐る問いかけた。

「お、お前ら、俗にいう宇宙人ってやつか。」

「まぁ諸君から見たらそんなところだ。」

老人は落ち着いて宇宙人に話しかける。


「何をしに来なさったんですか。地球侵略のつもりか何かですか。」

「いや、その必要はない。この星の権利を買い取ったのだ。」

「買い取るとな。そんなことありえない。」

「諸君らには想像もつかないだろうが、この広い宇宙では、

星の権利の売買を裏で取り仕切っているやつらがうじゃうじゃいるのさ。

そいつらから買い取ればこっちのものって訳だ。

そんなわけで、君たちにはこの星から出ていってもらうぞ。」


身勝手に話を進める宇宙人たちに老人は憤る。

「そんな無茶な内容が通ると思ってもらっては困る。

何より、私はこの山を愛しているのだ。とっとと帰ってくれ。」

「ほう、老人ふぜいが盾つくとは。我々もみくびられたものだ。」

宇宙人は光線銃のようなものをむけ、引き金に指をかけたが、

それよりも早く何者かが宇宙人の頭を撃ち抜いた。


「間に合ってよかった。局長、大丈夫ですか。」

いつのまにか上空に現れたもう一台の宇宙船から、

若い青年がこちらに手を振る。

老人は少し呆れた顔をしながらも、手を振り返す。

「これぐらい自分で対処できたのに。」

「そうもいきません。銀河系管理局の元局長なのですから。

引退後も我々が身の安全を守らないと。」

「引退後くらい好きな星の好きな場所でのんびり過ごさせてほしいのだがな。」

事態から取り残されたスーツ姿の男は、開いた口が塞がらなかった。

「なんだ、あなたはここの人間じゃなかったのか。」

「今となってはただの山籠りの隠居爺だが、

元は広い銀河系の宇宙を管理する責任者と言ったところだな。」

「そのお方に自分勝手な言い分で立ち退けだなど、なんて無礼な。」

銃を手に、青年は腰を抜かした男を威圧する。

「ひっ…お、お許しを…」


老人はそれを見てため息をつく。

「まぁいい。

とにかく、裏で星の権利を勝手に売り捌いている悪徳業者の摘発が先だ。

私も久しぶりに現場にも顔を出すとするか…」

「そうですね、このままお送りいたします。」

青年と老人を乗せた宇宙船は、

権利書を握り締めた男をよそに空の向こうに消えていってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る