シーズン3

愛の形

女は若く、美しかった。

多くの男たちが求婚してきたが、最後には老い先短い資産家の老人と結婚した。

周りからは遺産目当てだとか、狡猾な女だとかと後ろ指を刺されたが

当の女は気にもしなかった。


「ねぇあなた、わたしたちこれからもずっと一緒よ。」

「ああ、そうだな。私も長いこと生きてようやく最後に掴めた幸せだ、

どんなことがあっても手放さないよ。」

「もう、うれしいわ。」

口ではそんなことを言っているが女は

その資産家の命がそう長くないことを知っていた。

豪邸の中で老いた彼が倒れ、緊急搬送された時もショックで泣き叫ぶ演技をした。


昔、その美貌から小さな劇団でヒロインをやっていたこともあり、

誰もが女の演技に騙された。

大きな病室の窓際に置かれたベッドの上で、資産家は女を呼んだ。


「調子はどうなの。いつになったら元気になって一緒に帰れるの。」

「今まで隠していてすまないが、実のところ私はもう長くない。」

「そんな。信じられない、嘘だと言って頂戴。」

嘘でないことは女が一番よくわかっていた。

「すこし気が早いかもしれないが、愛する君のために私の死後の準備を始めている。

大切な人に残す私なりの愛の形を、是非受け取って欲しいんだ。」

ついにこの時が来た。と女は思ったが必死に高鳴る気持ちを抑える。


「そんな弱気なことお願いだから言わないで。

私はいつまでもあなたを支えるから。」

「そう言ってくれると嬉しいよ。」

すると病室に弁護士と思われる男が入ってきた。

「すみません、例の件で手続きや書類のごたごたが発生してまして。」

きっと相続の話だな、と女は思い邪魔にならないように部屋を出た。


その後も資産家の病室には弁護士の男や白衣姿の男たちなどが出入りをし続け、

日に日にその頻度はあがり、女は老いた彼の死期が近いのを察した。

そしてとうとう資産家は息を引き取り、女のもとには例の弁護士が訪れた。

女は我慢できず、思わず弁護士に詰め寄った。

「それで、彼の遺産はどうなっているの。

唯一の家族なんだから、私が貰えるんでしょう。」


すると弁護士はばつの悪そうな顔をし、

「実はですね、遺産と言いますか、

旦那様の残されたものを本日はお届けに参ったのです。」

そうして弁護士は合図をすると、

停まっていたトラックからなにやら大きな鉄の塊が出てきた。


女より少し背の高いその箱の前には、大きな扉が厳重についていた。

「これは何かしら。中にお金や宝石が入っているのかしら。」

「それは自分でお確かめになるのが一番かと。」

女は弁護士を押し除けてその箱に駆け寄り重い扉を開けると、

煙と共に中身が現れた。


中には死んだはずの資産家が眠っており、

扉を開けて陽が当たったのか目を覚ました。

「ああ、ついにこの時がきたのだな。また会えて嬉しいよ。」

驚いて声も出ない女の手を握った資産家は笑いながら話す。

「実は自分の余命を知ってから、

君のために何かできないかと調べていた時に、最新のクローン技術に出会ってね。

全財産を投げ打ってクローンを作った私は死ぬ間際の記憶を

この新しい体に移植しておいたのさ。

おかげで一文無しだが、こうして二人でまた愛を育んでいける。」

「そんな、信じられない。嘘だわ。」

女は腰を抜かし、顔も真っ青だった。


「驚くのも無理はない、中に入って詳しく説明するよ。

なるべくわかりやすいようにじっくり話すからわからなかったら言ってくれ。

幸い二人の時間はゆっくりあるのだから…」

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