抜け目のない犯行

ある静かな夜、皆が寝静まった頃、

その暗い夜影を縫うように一人の男が屋敷へするりと忍び込んだ。

男は泥棒で、屋敷に住む富豪の金を狙っていた。


なんでもその富豪はビジネスで成功し、この大きな屋敷を買ったようで、

警備の方も完璧に固められていた。

難攻不落の警備システムに守られたその屋敷を狙うのは一見無謀に思われていたが、

男はそこに勝機を見出した。

「こういう厳重な守りこそ思わぬ隙が生まれる。人が作ったシステムには必ず想定外の穴があるはずだ。」


そう信じた男は徹底的に屋敷や富豪のことを調べあげ、ついに警備の穴を見つけた。

夜の間一瞬だけ生まれる警備員の入れ替わるタイミングをつき、

屋敷に忍び込んだ男は華麗に監視カメラの包囲網を潜り抜け、

富豪が眠る部屋へとたどり着いた。

ベッドの上ですやすやと寝る富豪の枕元へ忍び寄り、

男は銃を富豪の頭に突きつけた。


「起きろ。ただし大きな声は出すな。」

富豪は目を開けると目の前で起きている非常事態に気づき目を見張った。

「その格好からして泥棒だな。私の金が狙いなのだろう。」

「ああそうだ。命が惜しけりゃ金のありかを教えな。」

「あいにくこの部屋にはないんだ。嘘だと思うなら調べてくれ。」

「そんなことしないさ。金は屋敷のはなれの地下にある、隠し金庫の中だろう。」

「なんと、そこまで調べあげていたのか。抜け目のないやつだ。」

「さっさと番号を言え。」

「わかった、番号を言うよ。番号は4598だ。」

「やけにすんなり教えるな、怪しいぞ。」


妙な違和感を感じた男は部屋の周りをぐるりと見回す。

そしてクローゼットの前のカーペットの端がめくれているのに気づいて

ニヤリと笑い、勢いよくその扉を開けた。

暗がりの中にはベッドの中にいたのと同じ顔をした富豪が怯えながら隠れていた。

「調べあげておいて良かった。

護身のために自分そっくりなロボットを影武者として

用意していたのもリサーチ済みだ。

さっきの番号は嘘だな?騙されないぞ。番号を言え。」

「わ、わかったわかった。騙してすまない、番号は6643だ。

だから殺さないでくれ。」

「あいにく抜け目のなさがウリでね。

生かしておいたらすぐに人を呼ぶだろうし、第一俺の顔をすでに見ている。

完璧な犯行のためには死んでもらうぞ。」

そういい男は非情にも、暗がりで怯える富豪を消音機能のついた銃で撃ち殺した。

「これで朝まで犯行がバレることはない。

さっさと金庫から金を奪って夜のうちに姿をくらますか。」


成功を確信した顔で颯爽と部屋を去った男を見送ると、

ベッドの上の富豪はゆっくりと身を起こした。

「影武者に気づくとこまではいい線行ってたが、まだまだのようだな。」

ベッドから起き上がった本物の富豪はクローゼットの中で

男に撃たれたロボットを確認する。

「いやはや、ああいう自分の抜け目なさを過信している奴は

成功を確信すると隙が生まれるものだな。

さて、屋敷の警備を呼ぶとするか。

今ごろあいつもでたらめな暗証番号のせいで苦戦してるところだろう。」

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