第02話】-(ありきたりだけど特別な幸せ
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
トゥエル・男性〉ギルメン、半分心は乙女
その他ギルメン〉カナタ、ユラ
──────────
長髪を振り
溢れてくるこの分からない気持ちを持ち
口を開け大きく息を吐く。
頬を濡らした涙が
「おい‼ どうしたんだ‼」
ユラの顔を見るとほっと
─────
私は気が付いてしまった。
トゥエルは私に想いを寄せてくれている。
あの顔は
─────
それなのに彼は自分の気持ちを差し置いて私を優先した。カナタの元へ、
その切なさが、優しさが、私まで切なくなって
そして。逢いたい。
ユラのお陰で落ち着いた私は、彼女にお礼を告げ。部屋を後にしようとする。心配してくれる彼女に、理由は後から離すと約束を交わし送り出してもらった。
──私は。
彼の、トゥエルの部屋の扉の前に立ち
扉をノックしようとも途中で手が止まる。
勇気がない。
何度この行動を繰り返した事だろう。
どのくらいこの扉の前で立ち
「やっぱり……お前か」
トゥエルは何故か扉が開く前から知っていたような口ぶりをみせた。私は涙で濡らした
ポツリと。
「トゥエルが悪いんだよ、あんな事するから」
私がそれだけ口にすると、トゥエルは何も言わず。
扉に身を寄せ部屋に通してくれた。
バタンと扉が閉まると。
「折角カナタに気が付かれないようにしてやったのに、何で戻ってくるかね」
扉に手を当てトゥエルが少し困ったような表情を浮かべていた。部屋に入れてもらった私はその質問に答える間もなく。
閉じた扉の前で立ったまま
私の溢れ出す涙をまるで親のような
「……あんなこと、するからだよ、私が困らないように、あんな愛情を、示すから、忘れられない……じゃない」
私は子供のように腕で涙をごしごし
「お前もそこまで鈍感じゃなかったんだな」
泣くことで頭がいっぱいの私の近くでトゥエルの声が聞こえた。トゥエルからハンカチを受け取り自分で目元を
─────
その気持ちはごく自然と。
トゥエルに触れたい、と願う。
でもまたしてもそんな勇気がない。
するとトゥエルが私の指先に触れ軽く握る。
そして尋ねてくる。
「今だけ、約束を破ってもいいか?」、と。
私は涙を落としながらゆっくりと
既に私もトゥエルの腕を握っていた。
そしてトゥエルの胸に顔を
背中に手を回す。
離れたくないと
「馬鹿者」
トゥエルが
抱きつく私の両肩に手を置いたトゥエルは。
──「俺は、お前が誰を好きでも構わない。俺にとってお前は特別なんだ。それ以上の理由が必要であるなら俺に教えてほしい」
そう告げると私の頭に頬を
もう離れないように。
─────
これが好きという気持ちなのだろうか。今まで恋をしたことがない私には正直分からない。それでもあんな切ない顔で私を送り出した彼を忘れることなんて出来る訳がない。手放されたことがショックだった。
だから彼の意に
これだけは分かる。私はトゥエルに
「ごめんなさい。私はカナタと……パートナーとして、約束したばかりなのに……私って、頭、
こんな私を地獄に落としてもらっても構わない。
「俺だって、俺のパートナーはエテルだ。それにパートナーと
「初めて……触れたいと思ったの」
「俺にはそれで充分だ」
私は思いの
「俺は、お前が自分の事を大切にしてくれる相手を選んでくれればそれでいい。それが俺でなくてもいい。そんな風に思えた相手に出会えた事に、神に感謝するだけだ」
自分を選ばなくてもいいなんて。
そう簡単に言える言葉ではない。
私は
「トゥエルも、頭、
すると彼は
「そうだな」
私はトゥエルの胸の中で
「どうして、こんなに……涙が止まらないの?……切なくて
するとトゥエルは少し間をおいてから。
「それを俺に言わすか。それは俺の事をお前が好きだからだろ」
好き……。
ああ、やっぱり私はトゥエルの事が好きなんだ。
でもそれなら……。
「私はずっと……カナタの事が……好きだと……思ってた」
涙を我慢して、ひっくひっくと言葉を詰まらせながら私は答えた。頭を振り私の耳元に口を添えトゥエルが
「馬鹿だな。俺がそれを
「……
私はトゥエルの言葉を借りて返事を返す。心を
「ゆっくり考えればいい。今はこれでもいいのかもしれない。だが俺はお前の全てを受け止めてやることが出来ないかもしれない。そうだろう? つむぎ」
「──⁉」
私の
「気が付いていたよ。それがお前の本当の名なんだろ?
「……」
「俺の知らないところでお前とカナタには強い絆があるんだろ? 俺はそれを壊したくなかったのに、なんで戻ってくる? 馬鹿者。お前は知らないふりをしていればいい。これからも。俺はそれでも構わない」
──「どうか、お前には
「俺が望むことはそれだけだ」、と。
私は瞳を閉じ大粒の涙を零した。言葉が続かない。この言葉に私の呼吸は本当に止まってしまいそうだった。
─────
また、糸が見えた。
私の身体にぐるぐると巻き付き縛り付けてくる。
トゥエル、またあなたはこの糸をバッサリと斬ってくるの?
─────
私が目覚めてしまったあの力を変わってやりたいと。その言葉だけで充分だよ。
大粒の涙がトゥエルの服を汚していってしまう。
私は
「トゥエルが幸せにしてくれないの?」
私がこの世界にいられる時間には制限がある。私の方がトゥエルを幸せにする資格すらないのに。そこへ思いがけない言葉が発せられた。
(続く)
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