第15話】-(え⁉ 本当に…反省してる?

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年

揺由・女性〉主人公の親友

──────────


 数秒後。

 奏多は安心してくれたのか微笑した、と共に。


「え⁉」

 握った手はぐいっと軽く引っ張られる。


「──⁉」


 手はつながったまま、私の身体は奏多の胸に引き寄せられ。奏多のもう片方の手に私の背中が引き寄せられ。あっという間に奏多の手中しゅちゅうに収まる。


「えぇ⁉」


「嫌……ですか?」

 私の耳元で奏多が問う。


 私は目を、耳を疑った。顔は真っ赤になり、あたふたとしながら私は奏多に誘導される。


「嫌……とかはないけど」


 抑々そもそも、このがっちりホールドした状態にしておいて私を逃がすつもりなんて無いくせになんて意地悪な質問をむけるのだろう。


「でも、奏多本当に反省してる⁉」


 奏多の肩に埋もれながら私も疑問を投げかける。驚きの方が強くて思わず反省しているのか問わずには居られなかった。私が心配した時間を返して欲しい。前言撤回ぜんげんてっかいだ。


 さらには人通りが少ないとはいっても、公衆の面前めんぜんで。人目ひとめが気になってしょうがない。一方、奏多はそんなこと気にする素振りもなく。


「反省しています。だけど……紬の体温が感じられるこの距離だけは許してもらいたいんです」


 頬をり寄せ懇願こんがんしてくる。子供のように駄々だだをこねてくる。完全に自分の世界に入り込んでしまっている。というか、この距離感は友人間の距離ではないと思うのだけど……。


 でも私は奏多の肩越しからあの日言えなかった本音を吐いた。


「奏多、あの時私ちょっと怖かった……」


「……」

 奏多は黙ったまま私の背中に回していた手を今度は頭の後ろに回した。自分の肩に私の顔を当て優しく撫でてくる。


 奏多は押し黙った後ポツリポツリと話し始めた。


「あの時は仕方がなかったと頭ではわかっていても、トゥエルとキスしているところをみて……嫉妬しました。僕も分かっています。彼のことを」


 それに、と続ける。


「さらに紬のあの姿を見てしまって、完全に『たか』が外れました」


「これが男だよ」とトゥエルのささやき声が聞こえる。

 少し男というものを理解できた気がした。


「あの後、紬が僕を避けるようにトゥエルの部屋に入りびたっていたことも知っています。正直とても苦しかったです」


 私の髪の毛に奏多は顔をり寄せ愛撫あいぶする。


「もう紬が怖がるようにことはしません。それに紬の身体が大変な状態になっていたなんて知らなかったとはいえ……」


 奏多は一瞬言葉を詰まらせ。

「ごめんなさい」


 悲痛に満ちた声で絞り出すかのように謝罪してきた。


「魔法の反動のことはいいの。私が決めたことだから……後悔はしてないよ」


 私は自信を持って言えた。そう、後悔などしていない。私の言葉に奏多の指が一瞬反応を示した。そしてつながっている手にぎゅっと力をいれながら。



「本当に……誰よりも大好きなんです、紬のことが」



 饒舌じょうぜつにそして大胆に大暴露だいばくろしていく奏多。そして最後にここぞとばかりのとどめの一撃。この告白が二回目ということもあって致命傷とまではいかなかったけれど。


 というか二回も⁉ 改めて考えるとそれだけでも赤面してしまうこの展開に私の心が追いついていかない。


 奏多のこの真っ直ぐで一途すぎる気持ちが私の心を圧迫させていく。私の心をも射抜いぬいてこようとする奏多の猛激もうげきに私はあらがうことなど出来ず、立ちすくんでしまっていた。


「今回のこと許して貰えませんか?」


 そしてまるで子犬のように甘い声でせがむ奏多に私はうろたえてしまう。でも正直に心の内を話してくれたことで私の心は少し和らいでいた。


「……うん」

 私はまだ戸惑とまどいは残っていたけれど快諾かいだくした。


「よかった」


 奏多は私の肩に頭をうずめるように息を吐いた。やはりどう考えてもこの距離感、やはり慣れていない。というかおかしい。そんな事を考えていると奏多は私を胸から離し両腕をつかむと私の瞳に語りかけてきた。


「紬にあんな無理をさせないように僕が強くなりますから。僕のそばで紬はただ笑っていてください。それに、こうして僕が抱きしめてもだいぶ慣れてきてくれて嬉しいです」


 奏多は子犬から成犬せいけんに成り果てた。私に向けてにこりと微笑する。私の頬は一気に赤らめる。


「──⁉」


 これは……いつもの奏多の波に乗まれそうになっていると心がざわつき始めている。私はこの立ち直りの速さに驚愕きょうがくし、半分、あきれ、降参こうさんした。


 でも。久しぶりにみる奏多の青藍せいらんの瞳。その瞳の奥にはいつもの穏やかで優しい光がともっていた。


 数秒の間、瞳に吸い込まれた後、私の心がポツリとつぶやいた。私も仲直りがしたかったのだと。またみんなで楽しく優しい時間を過ごしたい。私は、はにかみながらくしゃっと笑った。


「よかった。その笑顔が見たかったんです」


 奏多も破顔はがんした。


 この関係性が壊れるのが怖い。奏多ごめんなさい。もう少しだけ私に時間を。



 その時――。



「じ──────っ」

 奏多の背後から刺すような視線と怪しい声が聞こえてきた。


「「ゆ、揺由⁉」」


 奏多の肩が大きく飛び上がり顔が一気に青ざめている。


「か─な─た─、私、忠告したよねえ⁉」

 揺由は目を細め拳を作りながら見下した視線を奏多に送っていた。


「しかもこんな人目のあるところで何してるのかなあ?」


 猫ににらまれたねずみのごとく奏多は震え上がり。揺由の方に振り返り両手をあげて。


「ははは……揺由、これには……」

 汗を大量に流し揺由から視線を外しながら奏多が答える。


「ちょっと、顔貸してくれる?」


 揺由はニコリと笑い、奏多をさらって行った。


(キスの反動 終わり)

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