第03話】-(混在し葛藤するこころ

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年

──────────


「わわわ……‼」



 私は言葉にならない声を漏らす。突然の奏多からの告白にただ顔を真っ赤にすることしか出来なかった。恥ずかしいのに私の見開いた瞳は奏多かららすことが出来ない。でもらしてきたのは奏多からで。



「まぁ、……男なんで下心もありますけど……」



 頬を染めそっぽを向きポツリとつぶやく。そんな正直すぎる言葉に私はクスッと笑ってしまった。



「わ、笑わないでくださいよ。僕、告白しているんですよ? 紬、理解してます? そうやってすぐ逃げる」

「あはは……うん」

「ずっと、前から伝えようとしていたんですけどタイミングが取れなくて……それにエテルが求婚したとか言ってたから……」


「あー……」



 私は頭をきながら苦笑いを浮かべた。もしかしてだけど、奏多はエテルに嫉妬してるのかなと思ってしまったから。



「もっと格好よく言いたかったんですけど、こういうの初めてで。でも本当は僕の気持ちに気がついてましたよね? 紬」


「あー……」



 図星をつかれて今度は冷や汗が出てきた。確かにこれまでの私に対する奏多の言動は友人以上? には感じていた。いくら色恋いろこいうとい私でも思うところはあった。私は人差し指をあごに当て思い出すかのような仕草をし視線を上に向けながら。



「うん……最近はなんとなく」

「どうして現実世界で、言ったか分かります?」

「……え? どうして?」



 首をかしげる私に今度は奏多がクスッと笑って見せた。この口ぶりから奏多には何か特別な意味があるのだろう。でも今の私には分からない。



「それは紬が考えて下さい。僕からは内緒です」



 そう告げると奏多は、私の両腕をそっとつかんで。



――「僕は君のことが好きです」



 奏多は、優しい眼差しで静かに微笑む。その深い青色の瞳は、真っ直ぐに私の心にその言葉を刻み込む。風に吹かれて前髪がなびき、カナタのその瞳をはっきりと私はとらえることが出来た。


 すると奏多は自分の胸に私を引き寄せ優しく抱きしめてきた。


 こんな、短期間に二人の人に抱きしめられるなんて……私の人生に天変地異てんぺんちいが起こっている。


―――――


 私の頬に奏多の頬が触れる。

 洗いたてのシャツの香り。

 少し緩めたネクタイ。


 制服越しから伝わる体温。

 肌に触れる吐息といき

 背中に回された彼の指先の感触。


―――――


 顔だけではなく身体にまで紅潮こうちょうする感覚に襲われる。鼓動の速さを止めることが出来ない。顔は赤面するばかりでこの答えを教えてくれない。



「紬、少しこのままでもいいですか?」

「……うん」



 本当は一杯一杯だったけれど強がってうなずく。

 奏多は言葉を続ける。



「揺由には変なことするなって止められてたんですけど、もう我慢できなくて……」


 私の心をまどわすような甘い言葉を並べて。


「君を離したくない」


 息もできない程の心焦こころこがす言葉を並べて。



――「…………ずっと、俺のそばにいろ」



 奏多は耳元でそうささやいた。彼の荒っぽい最後の一言。初めて聞く男を感じさせる言葉。身体中がどくどくと、大きく鼓動した。急にそんなギャップ反則だ。私の心をぎゅっと縛り付けた。


 抱きしめられたまま沈黙が続く。私たちは夕陽の色に染まっていた。沈黙の終わりを告げたのは奏多からで。腕を緩め私を顔を見ると。



「すぐに答えは求めていません。ゆっくり紬のペースで考えて下さい」



 続けざまに。



「でも絶対に誰にも渡しませんからね」



 奏多は、自信満々の笑みで。

 それを見た私はただコクンとうつむくことしか出来ない。



「う……うん」



 奏多の勢いに完全に呑まれてしまっていた。



「あと少しだけ……」



 奏多はまた自分の胸に私を引き寄せる。奏多の胸にうずまる私の顔と身体。彼は私の首元に顔を寄せると、私のうなじの紋章を探す仕草をした。


 私と奏多にしかない二人だけのあかし


 彼の指が私の髪をそっと寄せる。それを見つけると彼は唇を添えた。燃え上がるようにその場所が熱く感じる。



「……誰にも渡したくない」



 自分に言い聞かせるように奏多はつむぐ。

 そして唇がその場所を吸い寄せる。


 あまりの出来事に私は意識をさらわれそうになってしまった。声すら出せない。


 そこへ奏多はうなじから唇を離すと。



「紬、こういう時は僕の背中に手を回すんですよ」



 そう。私の両腕は宙を彷徨さまよっていた。私はこの初めての行為に素直に応じてしまう。恐る恐るゆっくりと奏多の背中に触れていった。それを確認するとまたもや奏多の唇は私のうなじに戻っていく。


 私は恥ずかしくて奏多の身体からのがれたい気持ちと、大切なものに触れるその行為にこのままでいたいという気持ちが混在こんざいし心が葛藤する。



 …………。


 結局私は後者を選んでいた。

 今にも夕陽が落ちようとしている。


(君に恋してしまったようです 終わり)

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