第07話】-(俺にはもう、特別なんだ。

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

カナタ、エテル〉主人公に想いを寄せるギルメン

その他ギルメン〉ユラ、トゥエル

──────────


(紬/イトア視点 続き)


「こんな傷どうでもいいんだ。僕は君を守れなかった……いくら謝ったところでつぐなえきれない……次は絶対に」


 エテルはうつむこぶしを強く握った。深くうつむいた顔から私は表情を伺うことは出来なかったけれど、最後の言葉は苦渋くじゅうに満ちた声でしぼり出すかのように。


「僕だって……守りきれなくて」

 カナタも下を向き同じように言葉を詰まらせる。


「そんな辛気臭しんきくさいこというなよ。誰も守れなかったんだ。私も……」

 ユラは机の角に身体を預け窓の外を見ながらつぶやくようになげく。


 私は胸が熱くなった。うつむき、顔を髪で隠す。片手が胸元の服をぎゅっと握っていた。その想いが優しすぎて苦しいよ。


「ううん。みんな私を守ってくれた」


 私はかぶりを振る。

 ただ、私が弱かっただけなんだ。心も力も。


「私こそ、あの場から逃げ出すことしか出来なくて……ごめんなさい。無力な自分が悔しいよ。だからみんなそんな顔しないで」


 私は顔を上げかすかに微笑んだ。それが正解なのかは分からない。でも三人のすがる様な視線を。気持ちを。私は少しでもやわらげたかった。


 その時だった──。エテルの一言が場の雰囲気を一転させる。



「僕は……夫失格だ」



 いたって本人は真剣なのだけれどもユラとカナタが敏感びんかんに反応を示した。またしてもあの湖での出来事が脳裏のうりをよぎり私は頬を染める。



「「おっとおおおお‼」」



「おい、病み上がりのヤツに物騒ぶっそうなこというんじゃねぇ!」

「そ、そうですよ‼ どっからそんな妄想もうそうくんですか!」


 ユラは今にも殴りそうな勢いで。

 カナタは紅潮こうちょうした顔で。

 エテルの発言を全否定する。


「え? カナタ、僕はもうイトアに求婚しているんだよ? だからなんも変なことじゃないと思うけど……」

「──なっ、きゅ、求婚⁉」

「この歳になれば、伴侶はんりょを見つける事なんて当たり前のことじゃないか。まさか、君はまだなのかい? それなら話は早いね。イトアは僕が幸せにするから安心してくれ」


 エテルは横目でカナタを見ると挑発するかのように微笑んだ。


「そ、そういうのはお互いの合意ごういが、あ、あってからですよっ。どうみても一方的に見えるんですが‼」


 動揺を隠しきれず言葉を詰まらせながら肩を上げ勢いよくカナタが反論する。


「別にNOとは言われていないけど?」

「──っ⁉」

「ああ~もう、イトアこいつらの言うことなんて気にしなくていいぞ」


 二人の喧騒けんそうあきれた顔をしたユラが手を振りあしらう。私は置いてきぼりだった。二人がなにやら蹴落けおとし合っている姿をただ呆然ぼうぜんと見ているしかなかった。


─────


 でも。私は帰ってきたんだ。

 またここ(場所)に。

 みんなの様子を見ながら微笑した。


 私は一度死んだ。


 現実世界であれば、一度死んでしまうともう元には時を巻き戻せない。

 死は突然やってくる。

 なんの前触れもなく。


 私がここに居られる理由、幸せ。

 あの意地悪な創造主がほくそ笑んでいる顔が浮かぶ。


─────


 病み上がりの私を心配してエテルとカナタは私の顔を一頻ひとしきりみると早々に部屋を出ていった。そしてユラと二人きりになったところで、私は自分が眠っていた五日間のことを詳しく教えてもらい驚愕きょうがくした。



★ ★ ★



(トゥエル視点)


「…………お前らいい加減にしろ」


 あの時、何かが俺の中ではじけた。自分は女として生きていたはずなのに。始めはあんな女、目障めざわりなだけで早く居なくなればいいと思っていたのに。ありのままを見透みすかしてくる。無邪気に笑ってきやがる。


 亡骸なきがらを見た時、頭を思い切り殴られたような大きな衝撃が襲った。いても立ってもいられなくなった自分がいた。それなのにバカな男共が取り合いをしている。本当に男ってやつはおろかだな。でも、自分もその一人だと思った。


 俺がなんとかしなければ……と悔しいが思ってしまった。こんな色恋いろこいにわめいている奴らに預ける訳にはいかない。だから俺がさらった。俺には守れる力があったのに守ってやればよかった。


 気がつくのがおせぇんだよ。


 帰ってくるのは分かっている。だけど目を開けるまで気が気じゃなかった。あんな怖い思いをしたんだ。だから毎日声を掛けた。安心して帰ってこいと。これが女としてか男としてかの感情かは分からないし、そんなことどうでもいい。


 でも、俺にはもう、特別なんだ。イトア。


(続く)

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