【掌編小説】卒業式の鬼ごっこ

たにがわ けい

卒業式の鬼ごっこ




 中学校の卒業式は惚れ惚れするほどの晴天の下に行われた。今日は卒業式。小学校からほとんど顔触れが変わらない様な、そんな地方の中学校で。


「なぁ、リュウ」


 コウが話しかけてくる。


「何? コウ」


 今は卒業式終わり。皆が運動場に集まり、最後の別れを言ったり写真を撮ったりしている。


「小学校の時さ、かくれんぼで俺だけ見つからなかった事、あっただろ?」


 野球部が遠くで集合写真を撮っているのが見えた。


「あったかな。そう言えば」



「あれ、実は隠れる途中でお母さんに見つかって、連れていかれてたんだよね」



「へーそうだったのか」


 リュウは頭を掻く。二人とも、向こうではしゃぐ生徒の群れを見ていた。



「興味無さそうだな」


 コウが笑う。


「だって今更言われてもな。俺、それそんなに覚えてないし」



「そりゃそうか」


 好かれていた先生は女子生徒に囲まれ、他学年の先生たちはそれを遠巻きに見つめている。


「なぁ、リュウ」



「何だ? コウ」


 いつも固まっていた女子三人組が泣き合っている。




「鬼ごっこ……やらね?」



 今度はリュウが笑う番だった。



「え、二人でか?」



「そ」



 誰かの明るい母親は、生徒たちを集めてカメラマンになっている。



「いいよ」




「よし、ジャンケンだ」



 誰かのおとなしい母親は、お世話になった先生にお礼を言っている。



「ジャンケン、ホイ」



 向き合って、お互い適当に出した手はパーとグーで、リュウの勝ちだった。



「俺が鬼か。はい、タッチ」



 コウは言うなりすぐにリュウの肩を叩いてきた。


「は? ありかよそれ」


 リュウもすぐに叩き返す。二人とも一歩も動かない。


「はい、お前鬼」


 と、コウもすぐさま叩き返して来る。


 リュウはその瞬間に無言でコウを叩く。


 コウもそれに対抗する様に強く叩いてくる。



「っはっ! いった! っお前……」



 リュウは少し近づいてコウの背中を強く叩いた。



「お前も……!」



 コウもリュウの背中を叩こうとして、リュウに抱きつく様な格好になる。




 二人はそのまま抱き合う姿勢のまま、背中を、強く、強く、叩き続けた。

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【掌編小説】卒業式の鬼ごっこ たにがわ けい @kei_tani111

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