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その小父さんが、きらきら光る魚貝が山盛りにつまった青い発砲スチロール箱を漁船から担ぎ出しています。大声で呼びかけて挨拶しました。
「小父さあん、おはよう」
小父さんも手を振って応えてくれました。発砲スチロールの箱から大きな魚を取り上げ、エラを持ってマコトくんに見せてくれています。銀色の背を輝かせたブリです。
「どうだ、今夜のおかずに。アヤネさんのところに持って行ってやろうかあ」
ヨウスケさんの声が湾の隅々まで響き渡りました。
船着き場からはまた少し上り坂になり、通学路に戻ります。
広々とした葱畑の隅っこで、折り畳み椅子に座ったトシゾウ爺さんが、茶碗に焙じ茶を注いでずっとすすっていました。
ここからしばらくは工房が並んでいて、早い時間から職人さんたちが働き始めています。
ここを通るのもマコトくんの毎朝の楽しみです。
竹細工の工房のダイチさんは、いつもたくましい腕で太い竹をしごいて削り、ろうそくの火で炙って曲げて、あっという間に籠を作りあげます。
窯焼場では、ミナミさんがろくろを回して皿や壺の形を仕上げています。その手際には、いつも見とれてしまいます。
それから、危険なので入ってはいけないと言われるのですが、鍛冶屋のアカボリさんが、真っ赤な鉄を叩いて鍛えている姿を扉の陰から見守っていると、時が経つのも忘れます。
工房の通りを抜けて学校に向かう曲がり角にある小さな文具屋の店先で、ミスズ婆さんが、トラジマの猫を抱いて居眠りしています。
猫が大きくあくびをした途端、ミスズさんがびくっと目をさましました。
マコトくんは腹をかかえて笑い転げてしまいました。
学校の手前にある小さなパン屋の店員のユイナさんが、白い歯を見せて手招きしています。
近づいていくと、ふくふくとした薄茶色の食パンの耳がいっぱいつまった袋を店の裏から持ってきてくれました。ぽっちゃりとした赤い頬のユイナさんは、透明の袋を渡しながら、マコトくんに話しかけました。
「今朝もおいしく焼けたよ」
マコトくんはすぐに袋を開いて、一本取り出して口にほおばりました。
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