7.ローラの心配

「まあ、領主様‼︎ なんて格好をされてるんですか⁉︎」


 年配のメイドが城の広間に入ってきたユタカに向かって叫んだ。

 五十過ぎくらいだろうか。恰幅の良さがベテランの雰囲気を醸し出している。シミひとつ無い白のメイド服で、鳶色の髪をきっちりと後ろに纏めている。


「ローラ、仕方ないだろ。畑仕事手伝ってたんだ」


「そんなことは見れば分かります! 今日は奥様をお迎えになる大切な日だというのに……何人も連続でお断りしているからって、忘れないで下さいよ。それにもう五十人目ですよ! また帰られてしまうではないですか! ちゃんとした服をお召しになって下さい!」


(五十人目……? そして、領主ともあろう人がメイドに怒られている……)


 サザはユタカとローラと呼ばれたメイドのやりとりに、この人が一般的な領主像とはだいぶ様子が違いそうだと改めて感じた。


「ちょうど今来てくれたよ。サザだよ」


 急に紹介されて慌てたサザは、ローラに向かってとりあえずぺこりと頭を下げた。


「ど、どうも……私がサザ・アールトです。よろしくお願いします」


「まあ!!」


 ローラと呼ばれたメイドはさっきより大きな声で叫び、卒倒しそうな顔色になっている。多分、「五十人目」というところをサザが聞いてしまったからだろう。


「サザ様、ご紹介に預かりましたメイド長のローラです。先程は大変失礼いたしました」


 ローラがサザに優しい笑顔を向けて言った。さっきはユタカに怖い顔をしていたので、サザは少しほっとした。


「二階にお二人のお部屋を用意しています。お荷物は従者に運ばせますね」


「あっ……いえ、大した量じゃ無いので! 自分で運びます‼︎」


 サザは手に持った鞄を受け取ろうと手を伸ばしたローラに慌てて胸に荷物を抱え直した。


「そ、そうですか? ご無理がなければ勿論構いませんが。しかし領主様は一刻も早くお召し物を変えてください! そうでないとサザ様がこのままご実家に戻られてしまいますよ!」


 ローラは半ば無理やりユタカを押して、奥の部屋へ連れて行こうとしている。


「先に二階の部屋に行ってて」


「あ、はい……」

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