予言します! この小説はあなたに読まれる!!

ちびまるフォイ

秒で使い切る一攫千金

「予言が当たれば一攫千金! 予言くじだよ~~!」


商店街の一角に見慣れないお店を見つけた。


「あの、ここは宝くじ売り場ですか?」


「いえいえ、うちは宝くじではなく予言くじ。

 予言を一口買ってもらって、予言する。

 見事的中すればその予言によってお金を出します」


「面白そう! 一口ください!」

「はい300円ね」


機械で適当に出された何桁もの数字よりも、

自分で予言するほうがずっと当たりやすい気がする。


「予言します! 巨大惑星が発見されるでしょう!!

 ……こんな感じでいいですか?」


「はい、OKですよ」


「今の予言がもし的中したらどれくらいです?」


「規模が大きいので100万くらいですかね」

「えっ……意外としょぼい」


「予言くじは"規模"と"具体性"の2つで

 どれだけの賞金を出すか決めます。

 先ほどの予言はふわふわしていたので具体性はゼロです」


「先にいってくださいよ!」


「たとえば、1999年7月16日恐怖の大王が下りてきて

 世界のすべてを滅ぼす……という予言なら

 規模もデカいし、日付があるから具体性も高い」


「うーーん、難しいなぁ」


具体的に日付をピンポイントで指定するほど当たりの幅は狭まる。

かといって、広い意味で的中しそうな予言だと賞金が低い。


「もう一口いいですか?」

「はい300円」


「予言します! 明日、8月19日は晴れでしょう!!」


「……的中しても300円ですよ?」

「ひっく!!!」


「いや、具体性はあっても予言規模がしょぼいですし。

 そんな誰でもできそうな予言してなんになるんですか」


「わかりました! まとめて100口ください!!」

「はい3万円」


予言くじ売り場で買った予言束に1日ごとずらして、

同じ予言を繰り返し書きまくった。


「この予言が的中すれば3億円なんですよね!」


「的中すれば、ね」


「100日ぶんも書いてるんですよ! 当たるでしょ!」


予言の内容はこの先にある交差点で大事故があるというものだった。

もともとその交差点は"魔の十字路"と呼ばれていて事故が耐えなかった。

100日のうちいつかは事故の日が的中するだろう。


事故が起きるのを今か今かと毎日通い詰めて確かめた。

100日後。


「……もう100口ください」


「あ、結局事故起きなかったんですね」


「普段は事故起きるんですよ!?

 でも今は外出自粛とかで人通りが少ないから!

 今度こそ! 今度こそは的中させてみせます!」


追加の100口に同じ予言を書いているところだった。


「あ、お客さん」

「なんですか。今予言書いている途中だから後にしてください」


「起きましたよ。事故」


「はっ?」


予言していない今日にかぎって、事故が起きてしまった。

死傷者はゼロだったものの大惨事となったことで、

魔の十字路は徹底回収されて安全な交差点へと秒で生まれ変わった。


なんということでしょう。


「うあああーー! これじゃもう事故なんて起きないじゃないか!」


手元にはまだ真っ白な預言書が残っている。

この後なにを予言すればいいというのか。


「お兄さん、お兄さん」


「あ、俺?」


「そうそう。お兄さんですよ。必ず当たる予言に興味ないですか?」


路地裏から男が話しかけてきた。


「必ず当たる予言って……どういうこと!?」


「しーーっ。声が大きいでしょ。

 つまり、予言をこちらの手で的中させれば良いんです」


「……?」


「これからオレは銀行強盗をします。何も取りませんがね。

 それを兄さんが予言する。予言は的中してお金が入る。

 これを繰り返していけば億万長者でしょう」


「お……お主も悪よのぅ!」


「報酬は予言的中のお金を半分こ、といきましょうや」


男と結託して予言をこちらから的中させる作戦に打って出た。

日付どころか時刻まで予言すれば、的中させたときのリターンが大きい。


口裏合わせていたことがバレないように決行日には換金させず、

日をまたいでから予言くじ売り場にやってきた。


「おめでとうございます、予言が的中していましたよ!」


「え? ほっ、ホントウデスカ、やったー」


用意していたリアクションを実演する。

キャリーケースに入り切らないほどの大金を手に入れてしまった。


大金を持ち帰って集合場所にやってくる。


「お兄さん、ちゃんとお金は持ってきてくれました?」


「ああ、この通りだ。でもなんで全額持ってくる必要が?

 分け前は半分のはずだろ? だったら半分だけでいいじゃないか」


ひーこらいいながら全額を持ってきた自分を褒めたい。


「全額じゃないと予言が的中しないんですよ、お兄さん」


「は? 予言はもう的中したじゃないか」


ガツン、と後頭部に強い衝撃を受けた。


「お兄さんありがとう。この倉庫でこの時間に

 大金をたまたま拾うというオレの予言がおかげで的中しましたよ」


「お前っ……だましたなっ……!」


「騙してはいませんよ。お兄さんの予言は的中したじゃないですか」


ダメ押しのもう一発を受けたところで意識が飛んだ。

目が覚めたときには賞金は手元になく、パンツ一丁で波止場にいた。


「あの野郎……絶対に許さない……!」


自分を騙した予言横取り集団は、エア銀行強盗をしても捕まらないほど手練れだった。

警察に話しても足取りはつかめない。


「実際、強盗はしてないですし。逃走も早いんです。

 そんなルパンみたいなやつを追ってもねぇ……」


「それでも警察ですか!? 俺は金を盗られてるんですよ!」


「でも、あなたがその詐欺集団に加担して得た金でしょう。

 自業自得というか……」


「むきーーっ!」


警察はあてにならない。自分の手で捕まえるしかない。

ふたたび予言くじ売り場にやってきた。


「予言します。必ず俺を騙した男ととっ捕まえてやります!」


「予言くじをあなたのスローガンにしないでくださいよ……」


「いいえ、これは必ず的中させます。

 具体性がなくて、賞金額が小さくたっていい。必ず実現します!」


「同じような予言する人めっちゃ多いんですけどね」


「えっ。それじゃ俺以外にも騙された人が!?」


「ええ、もうかれこれ10年前から同じ予言してますよ」


「10年……そんなに同じ手口で騙し続けていたのか。

 なんて奴らだ、これは手強い相手になりそうだ」


「諦めるという考えはないんですね」


「当たり前だ! ……ってそれより、10年前の予言も覚えているなんてすごいな」


「覚えているわけありません。でもお客様の予言はすべて記録しているんですよ。

 予言はずれたのに的中したと嘘つくひともいますしね」


「ちょ、ちょっと待て! それじゃ誰がどんな予言したかを

 あんたはすべて把握しているってことか!?」


「え、ええ……」

「それ見せろ!」


予言くじ売り場の予言データベースを見た。

とんちんかんな予言はいくつもあったが、その中に一つある予言を見逃さなかった。


"○月△日 xx時◆◆分

 A倉庫にて100万の大金を得る"


「間違いない。この予言はあいつらの予言だ!」


「それでどうするんですか」


「決まってるだろ! 俺以外にもまた騙そうとしているんだ。

 とっ捕まえてやる! 俺の予言を実現させるんだ!!」


必ず捕まえる、という予言を的中させるため

予言で指定されている倉庫の天井へと潜入した。


倉庫にはすでに大金を持った別の人がいた。


「おおーーい。予言の金は持ってきたぞぉ。

 分け前は半分だろう。でもちゃんと全額持ってきたぞぉ」


すると奥から憎き詐欺男がやってきた。

金を持ってきた人は詐欺男に気を取られ、後ろから忍び寄る"殴り役"に気づかない。


「俺もああやって騙されたんだな……」


金を受け取った次の瞬間、俺は隠れていた天井裏から飛び出した。


「そこまでだ! よくも俺からも金をだまし取ったな!

 おとなしく警察に……あ、あれ!?」


かっこよく飛び出したつもりが足をつっかえ、天井から落下。

大声を出したせいで詐欺集団はすぐに逃げてしまった。


倉庫の積み荷の上に落ちた俺は痛みでしばらく動けず、

またもや取り逃がしてしまったことに泣けてきた。


「ちくしょう……また予言失敗だぁ……」


ひとり泣いていると倉庫の扉が開いた。

やってきたのは予言くじの販売員だった。


「ここにいたんですね。

 見事、予言的中ですよ!! おめでとうございます!」


「予言的中? 何言ってるんですか。

 この有様を見てくださいよ。取り逃がしたんですよ。

 予言はハズれたに決まっているでしょう」


「いえいえ、あなたが騙した男を捕まえる予言はなく

 別の予言が的中したからここへ来たんです」


「別の予言? なにか予言しましたっけ?」


「巨大惑星が発見されたんですよ。

 あなたの予言は見事的中です!」


「うそ!? あの予言があたったのか!?」


「こちらが予言的中の賞金になります。

 現金ではちょっと持ち運びが難しかったので

 すべて金の延べ棒という形でお渡ししています」


「こ、これいくらになるんだ……!?」


ぎっしり詰められた延べ棒に言葉を失った。

いくら具体性がなかったとしても巨大隕石などという

バカでかい規模の予言が当たればその賞金額はすさまじい。


もはや騙して金を盗られたことすらどうでもよくなった。

そんなことより、この金で幸せな暮らしを送れるのだから。


「ありがとうございます。いやぁ嬉しいなぁ。

 でも、なんでわざわざ持ってきてくれたんですか?

 俺が予言くじ売り場に来たときに渡してくれてもよかったのに」


「お渡しできるのかもわからなかったもので」


「……へ? まあいいか」


延べ棒の入ったケースの蓋を閉めて倉庫の外へ出た。

空を見上げると青い空と夏の雲が広がっている。


その雲を散らしながら、バカでかい惑星が空から迫っていた。



「あと数分で巨大惑星は地球に直撃するそうです」

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