世界に裏切られた者

第1話

異世界へ召喚。


勇者として大歓迎され、


王族には好かれ、


数え切れない程の戦闘経験、


幾つものダンジョン攻略、


多くの出会いを経て、


そして時に犠牲を払い、


ついに魔王を討伐。


全てを終えて高ステータスのまま帰還してみれば、


召喚された時間・姿に戻ってる。


なんて状況になれば、


多くの人は、どうするだろうか?



人助け?

勿論、出来るだろう。


状態異常回復の薬をサンプルとして提供し、研究するだけでも、どれだけの人が助かるか分からない。

回復魔法もあるのだ、未知なる疫病とも戦える。



有り余る力で無双?

もう相手にするだけ無駄だ。


異世界の魔王を倒せるレベルの僕と、レベルという概念のない人々。

レベル1の人々と闘いになるはずかない。

地球では僕こそが魔王なのだから。



魔法やインベトリを使っての暗躍?


暗殺から闇の組織の設立まで自由自在だろう。

結構な価値を持つ物がインベトリ内に沢山放り込まれたままなのだ。

僕ですら中身を把握していない。



知識や経験を活かして巨万の富を築く?


彼方から持ち込んだアイテムを売り捌くだけでも十分に潤沢な資金が手に入るだろう。

薬草の栽培なんて成功した日には、僕は何もせずとも暮して行ける。




正直、やりたい放題だ。



僕だってやろうと思えば、何だって出来たのだろう。


だけど、僕が選んだのは高校中退からのニートだった。


簡単に人を殺せてしまう力を持った自分が怖いのだ。

 

一般人が虫を殺すのと変わらない力の感覚で、必要とあらば躊躇わずに人を殺せてしまう。



異世界で多くの力を得た僕は、

多くの死を見て来た僕は、

見た目だけ18歳に戻ろうとも、

心や価値観が元々が普通でなかったとはいえ、

今では完全にズレてしまっているのだから。



それに僕にはやらなければならない事があった。


いや、やりたい事か。


それは1人の少女を世話する事。


現在12歳の少女が、せめて高校の卒業を迎えるまではと思っている。


義務ではなく義理。


彼女は共に召喚され、共に帰還する事が出来なかった友人の妹なのだ。


それが終われば、義理を果たせば何処か遠くの山奥でスローライフでも始めよう。


こんな世界に、もう価値など感じない

彼女達の死を隠した世界、

彼女達の存在を始めから居なかった事にした世界、僕を裏切った世界に、もう興味などないのだから。


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